7 「無関心に見えるその瞳の奥に」
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ナギは知っていた。
今日も、何も変わらない。
はずだった。
いや、変わるのかもしれない。
大学の正門をくぐる。
校舎は冷たい。無機質だ。
まるでナギの秘密を知る番人。
黙って見下ろしている。
眠れぬ夜のせいだ。
目は真っ赤。
疲れがにじむ瞳。
キャンパスは騒がしい。
学生の笑い声。
自転車のベル。
カフェテリアから煎茶の香り。
でも、ナギには遠い世界だ。
ガラス越しの別次元。
風景のようだ。
警備ゲートを抜ける。
ナギはカフェテリアへ。
苺ケーキと柚子ソーダを手に取る。
誰も近づかない隅の席へ。
ふう、と息をつく。
「今日こそ、静かに――」
ナギはトレイに目をやった。
まるでそれが世界を遮る盾。
全てを遠ざける壁のようだ。
カフェテリアは騒がしい。
授業後、学生でごった返す。
トレイを持ったやつらが押し合う。
騒音が響き合う。
「だからさ、ユウジかユジか知らねえけど!」
ハルがペンをブンブン振る。
「答えは24だろ!」
叫び声が響く。
「やめろよ。」
ユウジはサンドイッチにかじりつく。
鼻で笑う。
「昔のやり方なら96だ。ハル、お前、授業サボっただけだろ!」
「は!? 昭和の遺物はお前の方だろ!」
ハルがユウジにペンを突きつける。
「時代は変わるんだよ、相棒!」
ナギは聞いてなかった。
二人の会話はただの雑音。
遠くで流れるラジオのよう。
突然、空気が変わった。
「ん? ナギ?」
ハルが目を細める。
「いつからそこにいたんだ?」
ユウジが振り返る。
ニカッと笑った。
「お、武田教授の哲学またか?」
ユウジがニヤッと笑う。
「ナギ、お前、見た目より深いな!」
ナギは黙ったまま。
スプーンがケーキの上で止まる。
視線はトレイに釘付け。
まるで周りに誰もいない。
「やめとけよ、ユウジ。」
ハルが口を挟む。
「喋りたくないなら、無理させんなよ。」
目をぐるっと回した。
「チッ」と舌打ち。
ユウジはサンドイッチをガブリ。
それ以上は突っ込まない。
ナギが立ち上がる。
食べかけのケーキを残す。
柚子ソーダもそのまま。
一言も発せず、去った。
階段の踊り場。
足音がポツポツ響く。
廊下は学生のざわめきで騒がしい。
笑い声、話し声、急ぐ足音。
全部、ナギの横をすり抜ける。
講義室は半分埋まってる。
誰かはノートをパラパラ。
誰かはスマホをスクロール。
昨夜のパーティを語る声。
ナギは目を合わせない。
窓際の最後列へ。
群衆に溶けるように進む。
その瞬間――
「ねえ…ナギ?」
誰かがそっと呟く。
ナギは凍りつく。
その声、なぜか聞き覚えがある。
「んー、誰もいねえ。」
「誰が呼んだんだ?」
ナギはそう思った。
窓の外、桜の木が揺れる。
葉っぱの隙間から光が漏れる。
柔らかい陽射しが教室に差し込む。
ナギは席に着く。
机に目を落とした。
「世界が消えちまったって――」
「どうでもいい。」
「ナギくん!」
透き通った声が響く。
ざわめきを切り裂いた。
クラス委員、水月アヤ。
背が高く、優雅な雰囲気。
青い目は夏の空のよう。
前髪が顔を柔らかく縁取る。
「ここ、空いてるよ!」
アヤが明るく言う。
ナギはチラッと見る。
目つきは刃物のように鋭い。
「なんで俺を呼ぶ?」
「何を企んでる?」
口には出さない。
ただ、席に深く沈み込む。
陽の光が顔の半分を照らす。
目の下のクマが目立つ。
アヤは眉を少し上げる。
すぐに笑顔に戻る。
「まただ…ナギくん。」
その瞬間――
ナギの内で何かが動く。
ピクッと、予期せぬ何か。
アヤは慣れてた。
ナギの「変な行動」に。
授業をサボる。講義中に寝る。突然消える。
いつものことだ。
でも、心が引っかかる。
解けないパズルのよう。
何か、気になる。
「マジ!?」
シンジが身を乗り出す。
ヒソヒソ声で言う。
「水月センパイ、あのナギ、マジで無視したの!?」
「よくそんな度胸あるな!」
シンジの声が響く。
「え、うそ!? 水月センパイまで!?」
後ろから声がチラホラ。
そばの女子が顔をしかめる。
胸に手を当てる。
「なにあれ? 影かなんかだと思ってる?」
「会長気取り? 自意識過剰じゃん!」
「水月センパイの隣に座れる名誉に…」
「ありがとうも言わないなんて、最悪…」
誰かがボソッと呟く。
苛立ちが広がる。
毒がじわじわ染み込む。
教室に緊張が漂う。
みんな、次の言葉を待つ。
ナギを「よそ者」と叩く一言を。
そして――
何か、起こるはずだった。
その瞬間――
バン!
アヤが机を叩く。
教室が凍りつく。
静寂が広がる。
「やめて。」
アヤの声は静か。
でも、鋭い。
柔らかさに鋼の意志。
アヤが立ち上がる。
教室を見渡す。
青い目がキラッと光る。
「みんな、ナギくんのことを知らない。」
「何も知らないよね。」
「誰にだって、いろんな面がある。」
笑顔を見せる人もいる。
壁を作る人もいる。
それだけで価値を決めちゃダメ。
アヤは少し間を置く。
静かに続ける。
「ナギくん、きっと戦ってる。」
「何かと戦ってるのかもしれない。」
「疲れすぎて、笑う気力もない。」
「想像もつかない何かと――」
「今この瞬間、戦ってる。」
その視線がナギへ。
ナギは動かない。
じっと前を見る。
「静けしさ、時として言葉より雄弁。」
「ただの人間になる前に、『裁判官』になるな。」
誰も反論できない。
重い静寂が残る。
生徒たちは目を逸らす。
ノートをパラパラめくるふり。
シンジが「チッ」と舌打ち。
椅子にドサッと座る。
アヤは席に戻る。
膝の上で手を組む。
怒りも失望もない。
ただ、ほのかな不安。
そして、もう一つの感情――
好奇心。
ナギくん、君って何者?
心が桜の花びらみたいに揺れる。
解き明かしたいわけじゃない。
ただ、知りたいだけ。
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