エクストラ章：試練の前日――地上でのレタの生活
朝早く、リョウタは夜明け前から中庭にいた。
冷たい風が顔を切るように吹いた。
でも、彼は気づきもしなかった。
手に持つのは木剣。
古びて、傷だらけ。
それでも正確無比だ。
一振りごとに、動きは体に染みついていく。
「リョウタ、またここにいるのかよ？」
水を運んできた使用人が叫んだ。
「もう行くよ」
リョウタは訓練を止めず、短く答えた。
両親は彼に完璧を求めた。
ただの息子じゃない。
体も、頭も、礼儀も——すべて完璧でなければ。
ミスは弱さと同義だった。
でも、リョウタは知っていた。
知識なき力は、空っぽの力だと。
朝の訓練を終え、彼は図書館へ向かった。
化学、歴史、数学、武術——
あらゆる本を貪り、メモを取る。
同年代の仲間は、気軽に話しかけてくる。
でも、誰もが知ってた。
リョウタの目には、余計な一言も、怠けた一時間も——
時間の無駄でしかない。
「くそ、リョウタ、いつ寝てんだよ？」
友人がニヤニヤしながらからかう。
リョウタは軽く笑った。
「寝る時間はあるよ。無駄にしてないだけ。」
夕方、リョウタは仲間たちと集まった。
笑い声、冗談、軽い食事。
でも、彼の心はいつも訓練と本に戻る。
「明日もまた自分との決闘？」
女友達がニヤリと笑って尋ねた。
「もちろん。気を抜くわけにはいかないよ」
リョウタは落ち着いて答えた。
失敗も、転倒も、彼を強くした。
手は震え、足は燃えるよう。
頭は痛む。それでも立ち上がる。
才能より、執念が大事だった。
時折、仲間たちを見る。
笑って、くだらない話に夢中だ。
リョウタは微笑む。でも、すぐに練習に戻る。
彼は知っていた。
真の技は、戦いだけで生まれない。
毎日の積み重ね、些細な努力から生まれる。
自己鍛錬こそがすべてだ。
「リョウタ、サイコロで遊ぼうぜ！」
誰かが叫んだ。
「いや、遠慮しとく。今夜は剣術の技を復習して、量子物理を数ページ進めるよ」
リョウタはそう言って、再び集中した。
「俺は完璧になる」
レタは静かに呟いた。
傲慢じゃない。必要だからだ。
両親を、己を、裏切らないために。
街が目覚める頃、
彼はすでに剣を握る。
本を開き、未来を考える。
道は険しい。
でも、リョウタは知っていた。
本物の力は、金や地位じゃない。
執念と知識、忍耐から生まれるのだ。
