エクストラ章:主を探す仮面
首都の酒場では、時折、笑い声や杯の音がピタリと止まる。
話題が「彼女」に触れたときだ。
そう――マスクの話だ。
ずっと昔。
最初の英雄たちの時代。
王国に、一人の男がいた。
彼はただの平民。
名もなき者。
剣すら持っていなかった。
けれど――彼の心は違った。
恐怖を知らない、燃えるような心。
魔物が人間の地を襲ったとき、
彼は黙って見ていられなかった。
そこで、彼はマスクを作った。
金でも銀でもない。
まるで闇そのものから紡がれた、漆黒のマスク。
その形は怪物のようで、
目は燃える炭のように光っていた。
彼は顔を隠した。
名も隠した。
――自分の弱さを知られたら、
誰もが背を向けると思ったから。
だが、そのマスクを被った瞬間。
彼は「象徴」になった。
名もなき者でも、
誰もが知る剣になれる。
民の剣に。
彼は「影の英雄」と呼ばれた。
最前線で戦い、
いつも敵を打ち砕いた。
だが、戦いが終わると――
まるで最初からいなかったかのように、
静かに消えた。
「マスクは呪われている」
そう囁く者もいた。
「被った者は、自分を失う」と。
だが、他の者は信じた。
「いや……あのマスクは本当の力を引き出す。
決して諦めない者の力を」と。
真実は、時間の霧に消えた。
それでも、首都の暗い路地裏で、
人々は今も囁く。
「マスクは、新たな主を探している」と。
そして――誰が知るだろう。
いつか、新たな英雄が、
その痕跡を見つけるかもしれない。




