69 「地下迷宮への第一歩!英雄たちの試練が始まる!」
訓練場は武器の音と叫び声で満ちていた。
太陽が目を刺す。
空気は魔力で震え、埃が舞い上がる。
「ヘイ、リョウタ!」
ユウジが木剣を野球のバットのように握り、叫んだ。
「お前、フェンシングのチャンピオンだろ? かかってこいよ! 負けるのが怖くなければな!」
リョウタは振り返りもせず、冷静に答えた。
「まず剣の持ち方を覚えな。 ハエを追い払ってるみたいだぞ。」
「ハッ! 何!?」
ユウジがムッとした。
「俺、VRスラッシャーじゃいつも勝ってたんだからな!」
「VRスラッシャーと本物の鋼は別物だ。」
ナギがぶっきらぼうに呟き、木剣を標的に突き刺した。
標的がぐらりと揺れた。
桜がくすくす笑い、ミズキの肘を軽く突いた。
「見た? ナギってやつ… マジでヤバいよ。 2日でこの柱、何本折ったんだろ。」
ミズキは静かに答えた。
「ヤバいんじゃない。 ただ… 私たちとは違うだけ。」
勇斗は槍を振っていた。
厳格に、教官のカウントに合わせて。
その集中力は、まるで兵士そのものだ。
「勇斗。」
ハルが微笑みながら声をかけた。
「一回くらい笑ったら? もう2週間だぞ。ずっとこのままかもよ?」
「レオン王子は『ずっと』って言ってた。」
勇斗は真剣に答えた。
「だからこそ、規律を守らなきゃ。」
冗談、笑い声、言い争い。
すべてが訓練の喧騒に溶け合う。
だが、その騒ぎの中心で、
師匠のサイトウは石のような顔で立っていた。
彼の目は笑う者には向かない。
手が震える者、
10回目の打撃で足がふらつく者に注がれる。
「覚えておけ。」
サイトウの声が空気を切り裂いた。
「戦場に『冗談』の余地はない。
お前たちを待つ敵がいる。
魔物は、お前たちが上達するのを待たない。」
訓練剣の乾いた音が、
重い足音の唸りに飲み込まれた。
訓練場が一瞬、震えたようだった。
石畳に、揃ったブーツの音が響く。
「見て!」
桜が囁くように息を吐いた。
「これって…!」
訓練場の門に、
ラグノルド隊長が姿を現した。
背が高く、厳しい顔つき。
その背後では、鋼の鎧をまとった騎士たちが一糸乱れぬ足取りで進む。
鎧は陽光を反射し、
訓練生の多くが目を細めた。
ラグノルドが数歩進み、
手を上げた。
訓練場に静寂が降りる。
ユウジのようなお喋りな者さえ、口を閉ざした。
「よく聞け、訓練生ども!」
彼の声が響き渡る。
まるで壁自体が反響しているかのようだ。
「2週間前、お前たちは怯えた子供だった。
足元もおぼつかない、泣き虫の集まりだ。
パニックと自己憐憫の間を彷徨う、ただのガキどもだった。」
ラグノルドは隊列を睨みつけた。
一人ひとりに視線を止める。
ナギは剣を握り、命がかかっているかのようだ。
リョウタは背筋を伸ばし、挑まれる準備ができている。
ミズキは頑なな眼差しで震えを隠す。
他の者たちも、同じように。
「だが、この2週間で…」
彼の声が重く響く。
「お前たちは変わった。戦士ではないかもしれない。だが、隊列に立てる者にはなった。」
彼が手を鋭く上げた。
背後の騎士たちが一斉に踏み出す。
それぞれが小さな袋を手に持つ。
中からコインの音が鳴る。
「今日、休息日だ!」
「金を受け取り、街へ行け。何に使ってもいい。飯、遊び、くだらない飾り物でも。
この世界の空気を吸え。街の味を感じろ。お前たちはそれに値する。」
隊列にざわめきが走る。
桜が歓喜で小さく笑う。
ユウジは酒場とビールを思い浮かべ、目を輝かせる。
ハルはほのかに微笑む。
ナギでさえ、肩の力を少し緩めた。
だが、ラグノルドは騒ぎを許さない。
「今夜、お前たちのために祝宴を開く。
最初の訓練段階の終わりだ。
だが、油断するな。
明日、初めての本当の試練が待っている。地下迷宮へ行く。」
彼の言葉は、井戸に落ちる石のようだった。
ざわめきが止まる。
コインの音さえ、冷たく響く。
誰も冗談を言わない。
誰も声を出して喜ばない。
誰もが悟った。
明日、すべてが変わる。
「お前たちの物語はここから始まる!
地下迷宮の闇が待つ!
英雄になるか、飲み込まれるか——今すぐ読み進めて、試練に挑め!」




