66 「生きることへの憎悪」
ナギの剣が空気を切り裂いた。
何度も、何度も。
一振りごとに、まるで叫び声のよう。
自分にまだ力があると証明しようとしていた。
だが、振り下ろすたびに闇が薄れた。
彼を包む闇が、色あせていく。
体は重く。
力は指の間から水のようにこぼれた。
ラグノルドは攻めてこなかった。
ただ、受け止めるだけ。
静かに。
確実に。
ナギの剣が当たるたび、声が響いた。
ラグノルドの声、はっきりと。
「なぜ彼を憎むんだ?」
ナギは吠えた。
剣を振り上げた。
「黙れ!」
「ナギ、何がお前を動かしてる?」
ラグノルドの声が静かに続いた。
「お前が戦ってるのは彼じゃない。自分自身だ。」
「うるさい、くそくらえ!」
ナギの叫び声が響いた。
剣を振り下ろす。
さらなる一撃。
だが、息は乱れていた。
筋肉が震え出す。
剣は力を失い、滑るように弱っていく。
「答えろ。」
ラグノルドの声が鋭く響いた。
「本当にお前が憎むのは誰だ?」
ナギはよろめきながら一歩踏み出す。
声は嗄れ、叫びへと変わった。
「分からない…!」
「分からないんだよ、くそっ!」
最後の剣の一振り。
闇が最後に迸った。
そして——ナギは膝から崩れ落ちた。
剣が石に当たり、キンッと音を立てて転がっていく。
涙が溢れ出す。
抑えきれなかった。
ナギは拳で床を叩いた。
「自分だ!」
「みんなくそくらえ!」
「この腐った世界そのもの!」
「生きることの概念すら、俺は憎んでるんだ!!」
声は嗚咽に変わった。
その瞬間、周りの闇が消えていた。
まるで最初から存在しなかったかのように。
完全に、跡形もなく。
ナギは荒々しく息をしながら、剣を握りしめた。
手は疲労で震えていた。
だが、ラグノルドは静かに立っていた。
まるで嵐のような攻撃が自分に触れなかったかのように。
隊長の声が響いた。
静かだが、鋭く、空気を切り裂くよう。
「なあ、ナギ…」
「なぜ俺がお前にこんなに力を注ぐか、わかるか?」
「周りには何百もの他の弟子がいるのに。」
ナギは眉をひそめた。
息を呑む。
目に困惑がちらついた。
「なぜ…?」
ラグノルドは疲れた影を宿した目で彼を見た。
一瞬、声が震えた。
だが、毅然と続けた。
「俺には息子がいた。」
「お前と同じくらいの年だった。」
その言葉は重い一撃のよう。
空気に響き、防ぎようがなかった。
「狩りに森へ出かけた。」
「戻ったとき…村はもうなかった。」
「獣人たちがすべてを焼き尽くした。」
「俺は息子を失った。そして、妻も。」
ナギは凍りついた。
剣が震える。
もう疲労のせいではない。
ラグノルドは拳を握りしめた。
声は鋼のように硬い。
「お前を見るたびに…俺はあいつを思い出す。」
「同じくらい頑固で。」
「同じくらい壊れていて。」
「同じくらい…迷子なんだ。」
隊長は一歩踏み出した。
空気が急に重くなる。
「だから俺はお前を闇に飲み込ませない、ナギ。」
「俺をどれだけ憎んでもいい。」
「だが俺が生きている限り、お前を死人にさせやしない。」
地下室の静寂が耳鳴りのように響いた。
ナギはラグノルドを見つめた。
胸が締め付けられ、痛みが喉まで突き上げる。
「……くそっ…」
ナギは息を吐いた。
剣を下ろす。
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