63 «砕けた闇の胎動»
ナギが突進した。
剣の振りは空気を裂き、鋭い音を響かせた。
ラグノルドが剣を構える。
その顔が、初めて歪んだ。
少年の力は予想を遥かに超えていた。
「…くそ…この圧力は…」
傍観する士官が囁く。
その声は震えていた。
ナギの剣は荒々しく、制御を欠く。
だが、その一撃一撃はすさまじい力で炸裂した。
床の板がひび割れ、訓練場の壁が揺れる。
「やめろ！自分を壊すぞ！」
ラグノルドの叫びが響く。
彼はナギの猛攻を防ぐ。
だが、ナギは聞いていない。
彼は影そのもの。
闇を生み出す存在だった。
ラグノルドは一瞬の隙を見逃さない。
鋭く、正確な一撃を繰り出す。
剣がナギの武器を弾き飛ばす。
次の瞬間、拳がナギの腹に突き刺さる。
ナギの目が見開く。
ハッと息を吐き、口から血が滲む。
闇が一瞬で消え去る。
まるで最初から存在しなかったように。
ナギは地面に崩れ落ちる。
体が震え、冷たい床に触れる。
「力は制御がなければ力じゃない。」
ラグノルドが冷たく言い放つ。
彼の目がナギを見下ろす。
訓練場は死の静寂に包まれる。
生徒たちは息を止める。
誰も動けなかった。
ナギは冷たい床に横たわる。
かすかに、震える声で呟く。
「…また…負けた…」
彼の意識は闇に沈んだ。
ナギの闇が砕けた瞬間！
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ナギが意識を失い、床に崩れ落ちた。
冷たい地面にその体が沈む。
ラグノルドがゆっくりと身を起こす。
彼の手はまだ震えていた。
一瞬前、触れた闇の深淵が彼を焼き尽くすようだった。
生徒たちは圧迫から解放される。
慎重に、立ち上がる者もいた。
だが、訓練場は死の静寂に閉ざされた。
「…あれ…何だったんだ…？」
一人の少年が青ざめた顔で囁く。
「…目だけで…私たちを潰すかと思った…」
少女が胸に手を当て、震える声で呟く。
生徒たちの視線がナギに注がれる。
恐怖が彼らの目に宿る。
彼はもうただの新入ではない。
何か危険な、別次元の存在だった。
そして、リョウタは黙って立っていた。
拳を握り、骨が白くなるほど強く。
彼の心は怒りと恐怖で煮えたぎる。
「くそくらえ、ナギ…」
「この世界でも…俺の背中に迫るのか！？」
そして、リョウタは黙って立っていた。
彼の目はナギを焼き尽くすように見つめる。
リョウタは感情を表に出さない。
静かに一歩踏み出し、完璧な生徒の義務を果たすように、
落ちた訓練用の剣を拾い上げた。
「隊長。」
彼の声は平静そのもの。
「ナギは危険です。隔離すべきです。この状態で我々に近づけるべきではない。」
一部の生徒が頷く。
同意の意思を示す者もいた。
だが、他の者は壁にさらに身を寄せる。
ラグノルドの視線がリョウタに向く。
次に、倒れたナギに目を移す。
その顔は石のように固い。
「彼には…潜在能力がある。」
「君たち子供には想像もつかないほどの力だ。」
「だが、制御がなければ、全員にとって脅威となる。」
ラグノルドの言葉が重く響く。
彼は二人の士官に命じる。
「ナギを運び出せ。」
ナギが運ばれる間、生徒たちの視線が彼の背を焼く。
恐怖と、嫌悪と、そして…羨望が混ざった視線。
リョウタはアリーナの中央に立つ。
誰にも気づかれない、冷たい微笑みを浮かべて。
ナギの闇が露わになった瞬間！
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