54 「ご主人様と呼ばれる歌姫」
この先の物語が気になったら、評価やブックマークで応援してくれると嬉しいです!
ざわめきが残る酒場に、沈黙が広がった。
舞台から降りた彼女の足音が、カツン、カツンと床に響く。
その一歩ごとに、人々は自然と道を開けていく。
「……誰を選ぶ?」
「まさか、今日の相手は――」
ざわつきと期待が混じり合う中、彼女の視線がゆっくりと動いた。
笑顔のまま、誰にも触れない。
そして――ぴたりと止まった。
ナギの席に。
「……え?」
ナギの心臓が跳ねる。
ざわめきが爆発した。
「おい、あいつだ!」
「初めて見た顔だぞ!?」
「嘘だろ、なんで新人が……!」
信じられないと叫ぶ声、嫉妬に満ちた視線。
だが彼女はまるで何も聞こえないかのように、真っ直ぐ彼の前へ歩いてきた。
そして、テーブルに細い手を置き、ナギの前で静かに身をかがめる。
その瞳は夜空のように深く、揺らめく炎を宿していた。
「――ようやく、見つけた。」
甘く、しかし抗えない響きを持つ声が、彼の耳を震わせた。
一瞬、世界が止まった。
ナギの喉が乾き、何も言えない。
周囲の喧噪も、熱気も、全てが遠くに霞んでいく。
目の前にいるのは、ただ一人――彼女だけ。
この先の物語が気になったら、評価やブックマークで応援してくれると嬉しいです!




