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53 「ざわめく酒場、美少女の歌声」

柔らかな光が彼女に降り注ぎ、店内は静まり返った。


少女は一歩進み、口を開いた。


彼女の声は、まるで空気そのものが流れ出すようだった。

優しく、澄んで、旋律的で、軽やかな感情の遊びが込められ、聴衆の息を止めた。


「ただの歌じゃない……」

ナギは耳を傾けながら思った。


――一言一言、一音一音……

彼女の性格、力、オーラを伝えている。


酒場のざわめきは消え、拍手も止んだ。

人々は魅了され、彼女の声が時間を操るかのように聴き入った。


影に身を潜めるナギでさえ、奇妙な緊張を感じていた。


――これは俺のためのショーじゃない。

――無視できない魔法だ。


彼女の歌は軽やかだった。

だが、そこには深みが宿っていた。


喜び、悲しみ、力、自由――

すべてが独特の調和を織りなし、

ホールは彼女と一緒に呼吸しているかのようだった。


ナギはワインを一口飲んだが、味は緊張と感嘆に消された。


――これはただのパフォーマンスじゃない。

――まだ理解しきれていない、彼女の個性の顕現だ。


拍手が徐々に戻ってきた。

最初は静かに、だが次第に大きくなり、ホールは賞賛の奔流へと変わった。


「すごい…本当に素敵!」

「こんな声、初めて聞いた!」

「もう虜になっちゃう…」


しかし、ナギは影に留まり、じっと見つめていた。


顔は石のように無表情だったが、内心は煮え滾っていた。


なぜ彼女は、俺が見てきたものとこんなに違うんだ……?

ナギはそう思った。


リアレル……お前は静かで、ほとんど目立たない。

だが、この少女は……まるで魔法のように人々の注意を操る。

群衆を率いることができる。


一方のお前は……隠れていて、脆く、でも内に炎を秘めている。


彼はワインをもう一口飲み、胸に湧き上がる奇妙な感情を抑えようとした。


歌の音色が響くたびに、ますますはっきりと理解した。


――力にはいろんな形がある。

――時には剣でも魔法でもなく、ただ自分自身でいることで他者に影響を与える力だ。


ナギは少し顔を歪め、二人を内心で比べた。


一人は注目の中心で、巧みに人々の感情を操る。

もう一人は静かで脆いが、誰も見ていないところで炎を燃やすことができる。


――面白いな……

彼は思った。

ロリエルがここにいたら、こんな人々の間でどう振る舞うだろう?


彼はテーブルに身を預け、舞台を見つめる。

内心で悟った。


――このパフォーマンスは始まりにすぎない。

――まだ多くのことが明らかになるだろう。


少女の優しい声が徐々に消え、まるで空気に溶けていくようだった。


最後の音が、柔らかく透明に伸びる。

ホールは静寂に包まれた。


観客の心臓だけが、いつもより速く鼓動していた。


そして――拍手の嵐が巻き起こった。


「ブラボー!」

「最高だ!」

「もう一曲、お願い!」


客たちは席を立ち、叫び、まるで彼女を永遠にここに留めようとするかのように手を叩いた。


少女は軽くお辞儀をし、シャンデリアの光に目が輝き、唇にはさりげない微笑みが浮かんでいた。


だが、突然……彼女は動きを止めた。


視線がホールの上を滑り、酔った男女や熱狂的な歓声の上を越え――そして、ふと止まった。


一瞬、彼女はすべてを忘れたようだった。

騒音、光、拍手。


彼女の目はただ一人を見つけた。


――ナギ。


彼は影に隠れ、隅に座っていた。

だが、彼女の視線はその闇を突き抜け、まるで彼がどこにいるかを正確に知っているかのようだった。


少女は少しだけ違う微笑みを浮かべた――

柔らかく、まるで秘密を共有するような笑み。


ナギは眉をひそめ、グラスを置いた。

胸が締め付けられるのを感じる。


――これは何だ?

――なぜ俺に……?


ホールの喧騒はもう関係なかった。

その瞬間、まるで二人を結ぶ見えない糸が生まれたかのようだった。

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