47 「沈黙の優しさ」
ロリエルは深く息を吸った。
そして、言葉を一つずつ絞り出すように、ゆっくりと話し始めた。
「すべては、私たちの種族が森の古い魔法の知識を守っていたことから始まりました。強い魔法だったけど、平和なものだった。人間に対して使うことなんて、決してなかった……彼らが来るまでは」
ナギは頷いた。
彼の感情は見えず、冷たい目だけが、彼女の言葉を一語一句捉えている。
「騎士団の指揮官……」
彼女は身震いした。
「彼は王国に脅威となりうるものをすべて排除しようとした。エルフは独立しすぎて、賢すぎると。人間の秩序を壊す力を持ってるって、そう言ってた」
「彼らが来たとき――」
ロリエルは目を閉じた。まるでその光景を再び見ているようだった。
「まず家を焼き払った。逃げようとした者は生き残れなかった」
「少年たちは労働に連れていかれ、少女たちは……売られるか、貴族の『遊び』のために取られた」
「でも、私の種族は諦めなかった」
彼女は手を握りしめ、続けた。
「森を守ろうとした。一番深い茂みに隠れた」
「指揮官は精鋭部隊を送った――王国の紋章を刻んだ黒い鎧をまとった騎士たちだ。あいつらは、行く先々で出会った者を皆殺しにした」
ナギはわずかに眉をひそめた。
だが、顔に変化はなかった。
「なぜお前たちを狙った?」
彼は冷たく、そっけなく尋ねた。
「個人的な復讐か、戦略的な作戦か?」
「両方……」
彼女は涙をこらえるのに必死だった。
「指揮官は、私たちの種族が王国の敵と結託するかもしれないと恐れてた。政治的な安定を脅かす存在だと思った」
「そして……彼は見世物を楽しんでた。王に逆らう者がいないことを臣下に見せつけたかった」
ロリエルは一瞬、言葉を止めた。
「私たちの民を『試す』アリーナに、彼自身がやって来るのを見た。叫び声も、折られた骨も、彼にとっては教訓だった」
「人々は拍手して……彼は笑ってた」
ナギは一歩踏み出し、肘をテーブルに預けた。
冷たい視線で彼女を突き刺した。
ナギは黙って、ロリエルの話を聞いていた。
目は冷たく、表情はほとんど動かない。
彼女が経験した恐怖の一つ一つを語る間も、ナギのまぶたはほとんど動かなかった。
話が途切れ、最後の言葉と涙を飲み込むロリエルを見て、ナギは静かに言った。
「食べろ。冷める前に」
彼は身をかがめ、ほとんど無意識に指先で彼女の髪に触れた。
頭のてっぺんに唇をそっと触れさせる短い仕草。
それは、彼にとっては不可能に近い――温もりと、謝罪の気持ちを込めた行動だった。
「悪いな、ちゃんと共感できなくて……」
彼は小さくつぶやいた。
「俺は、こういう人間なんだ。世界が俺をこう作ったんだ」
ナギは立ち上がり、静かに部屋のドアへ向かう。
振り返ることもなく、何も言わずに出て行った。
ロリエルは一人、テーブルに置かれた冷めかけの食事と向き合う。
でも心のどこかで感じていた――冷たい表情の奥に、理解しがたい、でも確かに存在する“気遣い”が隠されていることを。




