41 心を預ける時
医者は最後の傷に包帯を巻き終え、一歩下がってロリエルを見守った。
包帯に塗られた琥珀色の液体が、部屋の薄暗い光の中でかすかにきらめく。
ハーブの香りと、まるで雨上がりの森のような清々しい匂いが漂っていた。
ナギはベッドの端に腰を下ろし、少女のそばに座った。
視線にはまだわずかな緊張が残っていたが、声は柔らかく、落ち着いていた。
「どうだ? まだ痛むか?」
ロリエルは目を伏せ、シーツの端をぎゅっと握った。
声は小さかったが、はっきりしていた。
「少し……足に力が入らないけど……痛みは、だいぶ減った。」
ナギは頷き、ほっとした気持ちを隠そうとした。
胸の奥で何かがカチリと鳴った。
長い間感じなかった感覚――
誰かを本気で助けたい、ただ見ているだけじゃない――
それが初めて芽生えた。
「もしよかったら」
彼は静かに言った。
「少し横になれ。俺、そばにいるから。」
ロリエルは彼を見上げた。
一瞬、瞳に疑いがよぎった。
だが、すぐにそこに小さな希望の光が宿った。
彼女は小さく頷き、かすかな笑みを浮かべた。
傍で見ていた医者が、ふっと鼻で笑った。
「安心していいよ。
この状態なら、すぐに回復する。
ただし、最低一時間は動かさないでくれ。」
ナギは小さくうなずき、治療師に礼を言った。
男が部屋を出ていき、半開きの扉から静かな気配だけが残る。
ナギは再び椅子に腰を下ろし、そっとロリエルの手に触れた。
「……明日、何が待っているかは分からない。
でも今だけは――君が無事でいてくれれば、それでいい」
ロリエルの肩が、すっと力を抜いたように落ちる。
深い吐息。
まるで、長い間張りつめていた糸が切れたみたいだった。
ナギの胸に、ふと奇妙な思いがよぎる。
それは小さくて、けれどどこか恐ろしいほど新しい感情だった。
――もしかして。
彼女こそが、自分がこの世界に“本当に”留まる理由になるのかもしれない。
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