40 命を賭けて守るべき少女
ナギは首都の狭い路地を進んだ。
腕にはエルフの少女を抱えている。
彼女は歩くには弱りすぎていたが、息遣いは少しずつ落ち着いていた。
周囲は騒がしかった。
商人が露店を片付け、通りを走るガキどもが犬に石を投げ、酔っ払いが罵声を吐き散らす。
ナギは立ち止まり、辺りを見回した。
頭にシンプルな考えが浮かぶ。
くそ……この街、まるで知らねえ。
どこで身を隠せばいいんだ?
そこへ、ボロボロのマントを羽織った男が通りかかった。
怪しげな目つきの、典型的な客引きだ。
ナギは一歩踏み出し、男の襟首をぐいっとつかんで引き寄せた。
「おい」
ナギの声は低く、冷たかった。
「一番近い酒場を教えろ。安くて、余計な目がないとこ。」
男は凍りついたように固まり、慌てて何度も頷いた。
ナギの痩せた姿を、まるで今にもナイフを突き立てられそうな目で見つめながら。
「み、南の市場から少し行ったとこ……『灰猫亭』ってとこ!
誰も詮索しないよ!」
ナギは男の手のひらに数枚のコインを放り投げた。
礼というより、口を塞ぐためだ。
「案内しろ。」
男は逆らう気もなく、慌てて歩き出した。
狭い路地を抜け、十五分ほどで色褪せた看板のついた、みすぼらしい建物にたどり着いた。
ナギは男を放し、短く頷いた。
「消えろ。」
\男は振り返らず、逃げるように去った。
ナギは中に入り、主人に銅貨を数枚放って部屋を借りた。
そして、階段を上り始める。
薄暗い酒場のホールに足を踏み入れると、腕にはエルフの少女を抱えていた。
一瞬、ざわめく声が止まった。
だが、主人――肩幅の広い粗野な顔の男――は目を細めただけだった。
「俺の知ったこっちゃない」とでも言うような顔だ。
「部屋。すぐ」
ナギは短く言い放ち、カウンターに数枚のコインを置いた。
主人は片眉を上げたが、頷いて鍵を差し出す。
ナギは階段を上ろうとしたが、足を止め、銅貨の上に金貨を二枚放り投げた。
「それと、医者を呼べ。早く。目立たない奴がいい。」
主人の顔に、ほんの一瞬、驚きがよぎった。
金貨をポンと出す客はそうそういない。
コインをかっさらうと、彼は頷いた。
「わかった。口の堅い奴がいる。腕も確かだ。ガキを走らせて呼んでくる。」
ナギは短く頷き、階段を上った。
部屋に入ると、少女を狭いベッドにそっと下ろす。
彼女の呼吸は重かったが、瞳は依然として澄んでいた。
しばらくして、ドアが小さくノックされた。
主人が連れてきたのは、擦り切れたマントを羽織り、肩に袋をかけた小柄な男だった。
男は無言で入室し、ナギに軽く頷くと、すぐに少女の診察を始めた。
ナギは側に立ち、緊張した面持ちでその様子を見守る。
医者が小瓶や清潔な布を取り出す。
少女はまだ弱々しかったが、眉を少し寄せ、囁くように言った。
「あなた……なんで、私に金貨なんか使ってるの?」
ナギは視線を外した。
「だって、お前は物じゃないから。」
少女の息が一瞬乱れた。
でも、その瞳には、初めて希望の光が宿った。
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