39 「倒れそうな彼女を抱きしめて」
ナギは黙って歩いた。
背後で、エルフの少女の足音が石畳をかすかに擦る。
かすかだが、確かな音。
やがて、そのリズムが乱れた。
遅すぎる。重すぎる。
彼女が今にも倒れそうだと、彼は感じ取った。
「……くそっ」と、ナギは小さくつぶやき、足を止めた。
振り返ると、少女はそこに立っていた。
かろうじて立っている、といった方が正しい。
手は震え、唇は青白い。
それでも、彼女の瞳には頑なな炎が宿っていた。
ナギは近づいた。
そして、自分でも驚くほど自然に、彼女を両腕で抱き上げた。
まるで、かつて見たアニメの「王子様」のように。
エルフの少女は驚いたように彼の胸に手を当てた。
ナギの早い鼓動が、彼女の掌に伝わる。
「な、なんで……?」
彼女は囁くように尋ねた。
ナギはすぐには答えなかった。
顔は相変わらず暗いままだ。
でも、目にはほのかな柔らかさが宿っていた。
「んー、もしかしたら……
お前みたいな奴、嫌いじゃなかったからかな。」
「お前みたいな……?」
「人間じゃない奴。」
彼は歯を食いしばった。
かつての地球での生活が脳裏をよぎる。
狭いアパート、通りすがりの冷たい視線、家族の空虚な言葉。
人間と過ごすほど、信頼はすり減った。
やがて無関心になり、そして――人間嫌いになった。
だが、エルフ……いや、ゲームや本でしか知らなかった他の種族は、
なぜかナギの胸に奇妙な感情を呼び起こした。
まるで、人間が失ってしまった何か純粋なものが、そこにはあるかのように。
エルフの少女は、ナギの胸にさらに強く身を寄せた。
彼が口にしなかった想いを感じ取ったかのように。
ナギは前へ踏み出した。
彼女を腕に抱え、首都の通りを進む。
通行人の好奇の視線を無視して。
マントをまとった彼のシルエットと、華奢な耳を持つ少女を抱く姿――
まるで、闇の街を貫く光を、影が運んでいるようだった。
そして、長い間忘れていた感覚が、ナギの胸の奥でかすかに芽生えた。
もしかしたら、すべてが失われたわけじゃないのかもしれない――と。
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