36 「虐げられたエルフ」
ナギはマントのフードをかぶり、人ごみに紛れるようにして、城の階段を静かに降りた。
腰の袋が軽くカランと鳴る——
スパーリングの勝利で手に入れた報酬だ。
城壁の外に足を踏み出すのは、これが初めてだった。
首都は生きているかのように騒がしかった。
人々は忙しそうに歩き回り、商人たちは大声で品物を売り込み、荷馬車の車輪が石畳に響く。
すべてが新鮮で、でもどこか懐かしい。
以前の彼なら、地球の狭いアパートから出て、ただ街を歩くだけで楽しかった。
ナギはゆっくりと歩きながら、屋根の高い建物や狭い路地、色とりどりの店の看板を見て回った。
しかし、思考は遠くへ飛んでいた。
これはただの散歩ではない。
この場所を感じ取り、理解しようとする試みであり、
できれば少しだけ、城での出来事を忘れたいという思いでもあった。
そして心の奥で、彼は直感していた——
今日、この街で、世界が「安全だ」と思わせる幻想を壊す出来事が起きるだろう、と。
ナギは考えに没頭しながら、賑やかな通りを歩いていた。
そのとき、遠くの広場で何か異変を感じた。
視線を向けると、人だかりができていた。
二人の人物の周りに群衆が集まっている。
広場の一角、豪華だが泥にまみれた服を着た太った男が、手にした鞭で若いエルフの少女を打ち据えていた。
彼女は必死に反撃しようとしたが、力が足りず、鞭の一撃ごとに顔に痛みが走る。
「おい! やめろ!」
群衆の一人が叫ぶ。
しかし、男は鼻で笑い、虐待を続けた。
ナギはマントの裾を握り、冷たい目でその光景を見つめる。
胸の中に怒りが湧き上がった——
荒々しく感情的な怒りではなく、氷のように冷たく、計算された怒りだ。
この世界の残酷さ——
力がすべてを決めること——を初めて目の当たりにした瞬間だった。
ナギは一歩前に踏み出す。
ほとんど気づかれない動きだった。
目が暗く、わずかに紫色に光る——介入の予兆だ。
しかし、まだ影に隠れ、状況を見極める。
頭の中で考える——
「もし介入すれば、ただ助けるだけじゃない…
俺がここにいて、動く準備があることを示すことになる」
群衆は呆然と見守り、
エルフの少女は血と涙で顔を濡らしながら、かろうじて膝をつく。
このシーンが気に入ったら、ぜひ小説をブックマークしてください。
評価をつけて、コメントを残すのも忘れずに — あなたの意見がとても大事です。
コメントひとつひとつが、物語をさらに面白くする助けになります。




