33 「魔王復活の時――世界の命運は?」
「おい、ナギ!」
横から陽気な声が響いた。
ユウジが軽く肩を小突く。
「なんだよ、そんな難しい顔して。
怖いのか? 俺も正直、ちょっと怖ぇけどな。」
ナギはゆっくりと首を向け、彼と視線を交わす。
「別に……ただ、自分のことを考えてただけだ。」
視線は他の者たちの頭上、遠くを見つめていた。
「こら、集中しろよ。」
中央寄りに座っていたハルが小声でたしなめる。
「王子の話はまだ終わってないぞ。」
再び場内に静寂が戻った。
扉のそばに立つ衛兵の足音だけが、低く響いている。
長い王国地図の載った机の前に立つレオンが顔を上げ、集まった者たちに向かって続けた。
「獣人たち……彼らは確かに我々の脅威だ。
村を焼き、町を襲う。
だが――」
一瞬、言葉を選ぶように沈黙し、
「その背後には……魔族がいる。」
「……魔族?」
召喚された誰かが大きな声で聞き返す。
場内にざわめきが走った。
「まるでアニメみたいだな……魔王ってやつか?」
恐怖と好奇心が入り混じった声が、あちこちから上がった。
ナギは口をほとんど動かさずにつぶやいた。
「……やっぱりな」
その瞳は冷たく光っていた。
あまりにも聞き覚えのある展開。
まるで漫画の中の話だ。
魔王を倒した英雄が、仲間が――
勝利のあとに裏切られ、処刑される。
あの時、ページ越しに見た結末が、頭から離れない。
レオンは背筋を伸ばし、低く重い声で言った。
「……そうだ。魔族だ」
魔族――
人間への憎しみを、何百年も燃やし続けてきた存在。
「魔王は……闇そのもののような古き存在だ。
かつて世界から人間を消し去ろうとした」
彼は地図の端に指を置く。
山々と深い森の向こう側。
人の領域から遠く離れた場所。
「血と犠牲を払って、俺たちは奴らを押しとどめてきた。
だが……二十年前、結界は弱まった」
低い声が、石造りの広間に響く。
「獣人どもが押し寄せたのも、その時だ。
魔王は復活し、怪物と魂を売った者たちを率いている」
――不穏な予感が、胸の奥でざわめいた。
会場に、抑えたため息が漏れた。
誰かが飲み込み、誰かは拳を握りしめた。
「獣人たちは――彼らの味方だ。
彼らはただの最初の攻撃。
俺たちの軍を引きつけるための囮だ。
本当の闇が、今まさに俺たちに襲いかかろうとしている」
レオンは集まった者たちを鋭く見渡し、続けた。
「もし準備ができていなければ――
この戦争は、人類にとって最後の戦いになる」
「まるでアニメみたいだな……」
後ろの方から、低くつぶやく声が聞こえた。
「アニメみたいじゃない。
前に召喚された連中の記録も読んだ。
それは現実だ。
そして今、君たちはその戦争の一部なんだ」
ナギはその言葉を聞いて、また視線をそらした。
魔王、獣人の同盟者……
綺麗に聞こえるけど、これはただの物語の一つだ。
勝者に都合のいい真実だけを語る話だと、彼は知っていた。
レオンは一歩前に出て、集まった者たちを見渡した。
静かに、しかしその言葉は一人一人の心に深く刻まれるように話した。
「魔族はまだ直接、手を下せない…自分たちの手では。」
「えっ?」
誰かが疑わしそうに声を上げた。
「そうだ。」
レオンは頷いた。
「彼らは千年続くバリアに阻まれている。」
「バリア?」
多くが困惑したように見つめ合った。
「説明しよう。」
レオンはゆっくり話を続けた。
「約千年前、この世界は今とは違っていた。
その頃、人間の統一帝国――エルドラニスが存在していた。
北の氷から南の海まで広がり、すべての民族を一つの旗のもとにまとめていた。
しかし、地平線の向こう、今ではほとんど誰も語ろうとしない土地から、
あの魔族の軍勢がやってきたのだ。」
レオンは地図に触れ、山脈の向こうにある暗くて無人の地域を指さした。
「当時の人間軍を率いていたのは伝説の英雄だった。
彼もまた、君たちと同じように地球から召喚された者だ。
名前はアラスレイン・ヴァルダリオン。
しかし、彼はただの英雄ではなかった。
歴史上唯一、召喚者としての真の力を解き放ち、王たちさえ震え上がらせる存在となったのだ。」
部屋の空気は静まり返り、まるでその話を吸い込むかのようだった。
「血の星の峰で決戦が繰り広げられた。
そこは嵐と炎の中、我々の軍と同盟軍が魔族とその怪物たちの軍勢と戦った場所だ。
昼も夜も剣の打撃が大地を震わせ、空は魔法の炎で燃え上がった。」
レオンの声はゆっくりとなり、まるで自分の目で見たかのようだった。
「そこでアラスレインは歴史上最強の魔王と一騎打ちをした。
彼らの一撃は山を砕き、戦いの叫びは雷鳴に勝ると言われている。
そしてアラスレインは勝利したが…致命傷を負った。」
レオンは一瞬沈黙し、視線を落とした。
その後、再び重く決然とした表情で集まった者たちを見渡した。
「世界がまだ危機にあることを知り、
彼は残りの命を使って『永遠の結界』を築いた。
それは人間の土地と魔族の領域を隔てる魔法の壁だ。
そして、そのために…聖なる剣で自らの心臓を貫き、
生きた呪文の錨となったのだ。」
召喚された者たちの中には、思わず胸に手を当てる者もいた。
「彼の犠牲があの戦争に終止符を打った。
しかし、あの時築かれた結界は魔族が直接越えることを禁じている。
だが…彼らには代わりに汚れ仕事をする味方がいる。
それが獣人の一部だ。
そして、結界は年月と共に弱まっているのだ。」
レオンの言葉が終わると、部屋には松明のパチパチとした音だけが響く静寂が漂った。
「……くそ……」
後ろの席から誰かがつぶやき、その小さな囁きはすぐに群衆の間で広がった。
「すげえ話だな……」
ユウジが口笛を吹きながら、ナギの肘を軽く突いた。
「もしこれが本当なら、あのアラスレインってやつはとんでもない化け物だ。」
ナギはだるそうに彼を見て、肩をすくめた。
しかし、心の中では別の考えが渦巻いていた。
「アニメの伝説なんていつも誇張されてる。
ヒーローに自己犠牲、魔法の結界…
それに必ず隠された何かがある。」
「はっ!」
短髪の召喚者の一人が大きく鼻で笑った。
「つまり俺たちも、あんたたちの伝説のヒーローみたいに最後には死ぬためにここに連れて来られたってわけか?」
レオンは鋭く彼を見つめ、その男は思わず言葉を飲み込んだ。
「違うのは、」
プリンスは力強く言った。
「君たちには選択肢があることだ。」
群衆の中で誰かがささやいた。
「魔族……魔王……まるで漫画みたいだな……」
一方で、別の者たちはまるで死刑宣告を受けたかのような表情をしていた。
ハルが静かに言った。
「もし結界がまだ彼らを抑えているなら、魔族はまだこの地には入れない。
獣人たちはその始まりに過ぎないんだ。」
ユウジは眉をひそめた。
「つまり……それがもう崩れ始めてるってことか?」
レオンは答えず、ただ重い視線を地図に落とした。
その目は、深い覚悟とともにこう告げていた。
「残された時間は、もうほとんどない――」
場内に張り詰めた空気が走り、誰もが次の言葉を待ちわびた。
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