32 「新たな敵、新たな戦争の幕開け」
玉座の間。
重い扉が大きく開き、レオンとタレンが中に入ってきた。
レオンが先を歩く。
握り締めた拳からは、内なる緊張が伝わっていた。
その背後で、タレンの拍車が硬い床に響く。
「父上、」
レオンは玉座から数歩離れて立ち、深く一礼した。
「タレンが国境から戻り、報告があります。」
王はゆっくりと顔を向け、鋭い視線を投げかけた。
「……話せ。」
レオンは巻物を広げる。
濃紺の封印には、まだ蝋の香りが残っていた。
「これは……前哨基地長の報告です。」
その声は張りつめ、震えていた。
「我々の――二十四の前哨基地が陥落しました。」
玉座の間には、松明のはぜる音だけが響いた。
タレンが一歩前に進み出る。
巻物を玉座前の机に叩きつけた。
「それだけではありません、陛下。
我々は自分の目で見ました。
単なる怪物ではなく……組織された軍隊です。」
王はゆっくりと立ち上がる。
そのマントが重く床に落ちた。
「……つまり、我々が口にするのを恐れていた時が来たということか。」
玉座の間を、静寂が支配する。
その時、扉が大きく開いた。
顧問が手に最新の国境報告書を抱えて駆け込んでくる。
彼は玉座へ急ぎ近づき、厳しい表情で告げた――。
「陛下、憂慮すべき知らせがあります。」
顧問の声は震えていた。
「東の国境で再び『狼の影』の活動が確認されました。
数年来、我々の領地を脅かしてきた獣人の集団が……再び攻撃を再開しています。
最近では国境の砦を破壊し、その勢力はかつてないほど増大しています。」
王は眉をひそめ、重いため息をついた。
「……奴らは長年我らを苦しめてきた。
だが今や、力と大胆さを増している。
これ以上、都市や民の生活を破壊させるわけにはいかぬ。」
レオンは巻物を握りしめ、力強く頷いた。
「指揮官タレンと私は、反撃の軍を率いる覚悟です。
このまま見過ごすわけにはいきません。」
顧問はさらに言葉を重ねる。
「……それだけではありません。
情報筋によると、彼らには新たな同盟者が現れたとのこと。
特殊な能力を持つ、未知の戦士たちです。
この脅威は――通常の戦争の域を超えています。」
王は拳を強く握り締めた。
「軍を準備せよ。
防衛の時間は終わった。
『狼の影』との戦いは、新たに――より危険な局面へ突入する。」
玉座の間に重苦しい沈黙が落ちる。
王の言葉は、避けられぬ運命を告げる鐘の音のようだった。
やがて、王は鋭い眼差しで息子を見据える。
「レオン。
お前は主力を率いる覚悟はあるか?」
王子は一歩前へ進み、断固たる声で答えた。
「はい、父上。」
レオンの声は強かった。
「しかし、効果的に動くには――
全ての騎士と魔法使い、さらに召喚された英雄たちを集め、準備する時間が必要です。」
彼は横に立つタレンを振り返る。
「お前は前衛を率いろ。
東の国境へ向かい、これ以上の損失を許すな。」
タレンはにやりと笑い、大きく頷いた。
「――了解しました、レオン王子。
期待は決して裏切りません。」
レオンは再び王へ向き直り、言葉を続けた。
「今は、召喚された者たちを集めます。
そしてこの世界の真実、迫りくる脅威、我らが果たすべき役割を伝えます。」
王は静かにうなずいた。
「……やるべきことをしろ。
時間は待ってはくれぬ。」
レオンは気を引き締め、玉座の間を後にする。
その背に、迫り来る戦いの予感と――王子として背負う巨大な責任がのしかかっていた。
荘厳な扉が開かれる。
広い大広間へと歩みを進めるレオンの後に、次々と召喚者たちが続いた。
学生、騎士、魔法使い、回復師――。
緊迫した空気が場を包み、
誰もが悟っていた。
「これから告げられるのは――運命を変える言葉だ」と。
レオンは壇上に立ち、集まった者たちを見渡した。
そして力強く宣言する。
「――ようこそ。
ここは新たな世界、エイラニスの中心。
皆さんが召喚された場所です。」
彼の声が大広間に響き渡った。
「まだ自分がどこにいるのか、
なぜ召喚されたのか分からない者も多いでしょう。
だから、今から説明します。」
レオンは一瞬言葉を止め、
真剣な眼差しで続けた。
「この世界は今、戦争と混沌の時代を迎えています。
人間、エルフ、ドワーフ、
そして他の種族が共に暮らしてきました。
しかし今――獣人たちという凶暴な存在の侵攻で、
国境は崩れつつあるのです。
彼らは、生きとし生けるものすべてを脅かしています。」
レオンの声が低くなる。
「我らの王家と領地は絶え間ない襲撃にさらされ、
多くの都市は陥落しました。
前線の砦も破壊されてしまった。」
一歩、壇の先へと踏み出す。
「皆さんは異世界から召喚された“選ばれし者”。
希望の光として、この場に来ました。
使命はただ一つ――
己の力を磨き、互いに協力し、
戦争の流れを変える存在となることです。」
彼の言葉は重く、しかし力強かった。
「覚悟してください。
この世界は厳しい。
これから訪れる試練は非常に重いものです。
だが――皆さん一人ひとりが、勝利への鍵なのです!」
会場はざわめきに包まれる。
決意を宿した者もいれば、
恐怖を隠せない者もいる。
その中で、誰もが理解していた。
――この瞬間から、運命は大きく変わるのだ。
レオンは手を挙げ、静かに全員の注意を引いた。
「今日は訓練を加速させます。
ですが、その前に知っておいてほしい。
私たちが立ち向かう“闇”に対抗できるのは――
団結することだけなのです。」
その時、リョウタが手を挙げて口を開いた。
「……いつ、誰がこの戦争を始めたのですか?
もっと詳しく教えてください、レオン王子。」
レオンは真剣な表情でうなずき、
声を一層引き締めて答えた。
「戦争は数年前に始まりました。
獣人たち――深い森や山の闇の中で生まれた種族――が、
初めて隠れ家から姿を現したのです。
彼らの部族は強大な首長のもとに団結しました。
その結果、攻撃性と野望が急激に高まったのです。」
レオンは言葉を切り、
重みを理解してもらうために数秒の沈黙を置いた。
「それは破壊と流血の時代でした。
多くの都市が陥落し、
種族間の古い同盟は次々に崩壊しました。
誰もが自分の領地を守り、
生き残ろうと必死だったのです。」
彼は壇上から集まった者たちを見渡した。
「今、私たちは完全な破滅の瀬戸際に立っています。
もし団結してこの脅威を止められなければ――
闇がすべての生き物を飲み込んでしまうでしょう。」
レオンの拳が強く握りしめられ、
その決意が場に重く響いた。
「だからこそ、君たちがここにいるのです。
君たちの力こそが、迫り来る災厄に対抗する最後の武器なのです。」
みんなはレオンの言葉に真剣に耳を傾けた。
戦争と今の状況についての説明に、緊張感が場を包む。
しかし、ナギだけは少し離れて立ち、冷たく懐疑的な目で王子を見つめていた。
彼の心には、静かだが強い疑念が渦巻いていた。
「彼は嘘をついている。
物事はそんなに単純じゃない――片方が善で、もう片方が悪いなんてありえない。
何か隠している…」
ナギの頭に、地球で読んだあのマンガの場面が浮かんだ。
主人公とその恋人は、魔王を倒した後に自分たちの民に裏切られ、処刑された。
王は彼らの力を恐れ、嫉妬と恐怖から抹殺したのだ。
「こんな連中を信じてはいけない」
ナギは拳を握りしめ、心の中で決意した。
「特に、あのマンガの結末を思い出せばな。
ここでも、彼らが見せたいような単純な話ではない。」
表面上は冷静を装っていたが、
ナギの心は、この世界の真実がもっと暗く、残酷なものかもしれないと覚悟していた。
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