30 「終焉の狼――人間の砦崩壊」
北方の空は重く暗く、
国境の砦が沈黙の中でそびえ立っていた。
肌を刺すような冷たい風が、
遠くから煙と焦げの臭いを運んでくる。
木造の見張り塔の上で、二人の兵士が毛織りのマントを羽織って立っていた。
一人はまだ若く、頬にうっすらと産毛が生えている。
もう一人は年配で、厳つい顔つきに疲れた目をしていた。
「はあ……リック」
若い兵士が欠伸をこらえながら言った。
「何週間も寒さに震えて待機してるのに、
襲撃なんて一度もないぜ。
獣人ども、俺たちのこと忘れたんじゃないか?」
老兵は鼻で笑い、霞んだ地平線から目を離さない。
「……ふん。獣人どもが静かな時は、何かを企んでいる証拠だ。
いつもそうだ:最初は静寂、そしてその後…」
彼は槍を強く握りしめた。
「……壁ももはや防げない時が来る」
「あんたはいつもそんな暗いこと言うよ」
若い兵士は苦笑いを浮かべた。
「ただ雪の中を歩き回りたくないだけだろ、そういうことだよ」
「雪は奴らにとっては庭のようなものだ」
老兵は静かに言った。
「だが静寂……静寂は常に嵐の前兆なのだ」
その時、遠くから低く鈍い吠え声が聞こえた。
長く、不規則な音――
まるで風自体が苦痛で叫んでいるかのようだった。
若い兵士は顔色を失い、唾を飲み込んだ。
「……今の、聞いたか?」
「……ああ」
老兵は静かに答えた。
「今夜は眠れぬな」
そして、国境の夜の静寂が、一瞬で引き裂かれた。
暗い霧を通して――鈍い咆哮が響き渡る。
巨大な矢が彼らに向かって放たれた。
その長さは槍ほどもあり、
太さは成人男性の腕ほどもある。
鈍い音を立て、それは若い兵士の頭部を貫き、
頭蓋骨を粉砕した。
身体は痙攣し、ばたりと倒れた。
城壁に鮮やかな赤い血が飛び散る。
誰も叫ぶ間もなく、第二の矢が老兵の眼窩に突き刺さった。
頭蓋骨は衝撃で裂け、
血と骨の破片が木製の床を染めた。
二人の身体は、糸を切られた人形のように崩れ落ちた。
砦から数百メートル離れた岩場に、巨大な影が立っていた。
岩を削り出したような筋肉質の身体。
獣の頭部――狼のように尖り、
黄金の瞳が獲物を貫く。
肩には黒い鉄の鎧をまとい、
手には、人間の槍を超える巨大な矢を放つことのできる大弓。
彼はゆっくりと弓を下ろし、牙を剥いて獣のような笑みを浮かべた。
低く、威嚇するような声で言い放つ。
「……行け」
彼の背後にある闇から、無数の影が立ち上がった。
咆哮と共に、獣人軍団が戦闘突撃を開始する。
鋼の爪が風を切り裂き、城壁に食い込む。
太い縄が滑り落ち、鋭い鉤爪が鋼の蜘蛛のように壁を登っていく。
嵐の波のように、黒い大群が防衛線に押し寄せた。
爪が石に食い込み、金属が石垣を削る音が夜を引き裂く。
最初の獣人たちが壁を越えた瞬間、守備兵たちは剣と槍を構えた――
だが、その一撃は速すぎた。
革鎧の兵士は、短剣のような爪で即座に貫かれ、喉を切り裂かれた。
血が隣の兵士の顔に飛び散り、その兵士は後ずさる。
しかし次の瞬間、腹部に膝蹴りを受け、城壁の上で獣の牙によって引き裂かれた。
「敵襲!獣人だ!」
見張り兵が叫んだ。
しかし彼の叫びは、恐怖の咆哮と夜に反響する角笛の音にかき消された。
闇から再び狼人間の獣が現れる。
狂気の眼差し、手には短い戦斧。
致命的一閃――兵士の头盔は何の音もなく両断された。
その下、城門では――
巨大な熊人間が棘のついた鎧をまとい、一撃で門を破壊した。
木材は腐った枝のように砕け――門は木っ端みじんに飛び散る。
要塞の中庭は一瞬で混沌に包まれた。
兵士たちは必死に敵を食い止めようとするが、
倒れた仲間たちが新たな障害となる。
前線はさらに混乱を極めた。
叫び声、咆哮、足音――夜は攻撃の音響に震えた。
岩場には、最初の矢を放った巨大な狼人間が依然として立っている。
彼はゆっくりと弓を引き、稲妻のように輝く黒い矢を放った。
矢は正確に要塞指揮官を貫き、城壁に突き刺さる。
指揮官は死の直前、一瞬だけ影を見た。
「……全てを焼き尽くせ」
獣は静かに言い放ち、弓を下ろした。
その瞬間、数十本の松明が空中に放たれ、屋根や倉庫に降り注いだ。
炎は瞬く間に燃え広がり、要塞を貪り始める。
夜空は血のように赤く染まり、火花は悪魔の雨のように舞った。
獣は冷たい眼差しで夜空を見つめた。
「これが我々の時代の始まりだ――
人類の終焉を告げる狼の遠吠えである」
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