26 「英雄たちの衝突 — 運命の始まり」
レオンは手を挙げ、生徒たちの注目を集めた。
「さあ、これからは一人ひとりが自身の力を披露する番だ!」
彼らは一人ずつ前に出て行く。
最初に歩み出たのは、瞳が炎のように輝く少年――ケイト。
「俺の番だ!」
叫ぶと同時に彼が手を上げると、周囲に火の輪が出現した。
やがてそれは本物の炎の壁へと変貌する。
「おおっ…!」
生徒たちから驚嘆の声が上がった。
「まさか…火を操るなんて!」
「炎は破壊の力だが、同時に光でもある」
ケイトは誇らしげに宣言した。
次に前に出たのは、優しい笑顔の少女――ヒカリ。
「私は仲間を癒し、力づけることができます」
そう呟くと、彼女は両手を掲げ、仲間たちを優しい青い光で包んだ。
「支援こそが戦いの要だ」
レオンは感心したようにうなずき、彼女を称えた。
続いて素早くしなやかな動きのソラが軽やかに空中へ舞った。
「俺は風を操る。空から攻撃できるし、自由に動き回れるぜ」
清々しい風の軌跡を残しながら、彼はそう言った。
「機動力抜群だな!」
リョウタが感心した声を上げる。
最後に登場したのは、影に包まれたユミ。
「私は影と幻覚を操ります」
彼女がそう告げると、周囲の闇が濃くなっていった。
「静かだが、危険な力だ」
レオンが付け加えた。
「見事だった、皆よ!」
王子が締めくくる。
「君たちの能力は、未来へ続く力そのものだ」
レオンは生徒たちを見渡し、満足げに微笑んだ。
「さて、次は特別な見せ場だ。リョウタ、第二の英雄の力を見せてくれ」
リョウタは軽い笑みを浮かべ、一歩前に出た。
その目には自信と、ほんの少しの傲慢さが宿っている。
「正直言うとな、『第二の英雄』ってのは侮辱だよ」
彼は明らかな軽蔑を込めて言い放った。
「だってさ、一番の英雄にすらなれない奴が隣にいるんだぜ?
俺には最高の価値がある。単なる二番手じゃない」
周囲を見渡し、自身の優位性を確認するように言葉を続ける。
「まあ、運命がそう決めたってなら、この称号も受け入れてやるよ」
「そして誰にも――この『第二の英雄』には敵わないってことを証明してやる」
リョウタが両手を前に突き出すと、瞬く間に青と銀の輝きを帯びた盾がその周りに現れ始めた。
盾はみるみる成長し、やがて彼の全身を包み込み、
見えないドームのように周囲の仲間たちをも守り覆った。
「この盾は攻撃を吸収する。俺が維持している限り、自動で回復し続ける」
「俺はお前たちと危険の間の『絶対のバリア』だ」
その瞬間、訓練兵が放った一筋の炎の矢が盾に触れた。
すると、エネルギーがきらめき、矢は跳ね返されて誰にも傷一つ負わせなかった。
「おおっ…!」
生徒たちから驚嘆の声が沸き起こる。
リョウタはほのかな笑みを浮かべ、責任と力の重みを同時に感じていた。
「守護者とは、ただ前に立つだけじゃない。
仲間の背中を守る者だ。
お前たちが進む限り、俺はここに立ち続ける」
レオンは軽く微笑みながら頷いた。
「感謝する、リョウタ。次はナギの番だ。お前の力を見せてくれ」
全員の視線がナギに集まる。
彼は黙ったまま、ゆっくりと前に出た。
表情は冷静で、微動だにしない。
空気が静まり返った――
誰もが彼の次の動きを待っている。
ナギはゆっくりと顔を上げ、静かに言い放った。
「俺は英雄なんかじゃない。
称号もいらねえ。
ここにいるのは、ただ一つ証明するためだ――
目的のない力は無意味だってことを」
ナギがゆっくりと手を上げると、
彼の前方の空間に、闇を吸い込むかのような暗黒のエネルギーの火花が集まり始めた。
それらが絡み合い、長く湾曲した剣の形を形成する。
深い紫と黒の光を放つ、影の刃だった。
その剣は眩い光を放たず、
冷たく危険なオーラを漂わせている。
まるで闇そのものが武器となったかのようだ。
周囲の空気は少し冷え込み、緊迫した静寂が広がった。
「こいつは…異質だな…」
生徒の一人が拳を握りしめ、囁くように言った。
「暗黒の力…?」
ミズキは驚きで目を見開いた。
リョウタはわずかに眉をひそめ、不安を隠そうとする。
レオンは剣をじっと見つめながら、静かに告げた。
「極めて稀有で、強力な力だ。
この力を持つ者は――守護者にも、破壊者にもなり得る」
ナギは己の剣を見つめながら、
冷たさと同時に奇妙な引力を感じていた。
この力の正体は理解できなかったが、一つだけ確信していた――
これは彼の旅の始まりに過ぎない、と。
ナギが闇の剣の柄を握り、見えないリョウタの盾に軽く触れた瞬間、
武器から巨大な力が迸った。
暗黒の塊が一瞬閃くと――
鮮やかな青光を放つ盾は、まるで脆いガラスのように粉々に砕け散った。
リョウタは思わず後ずさり、顔面蒼白となり目を見開いた。
驚愕と、おそらくは恐怖が混じっている。
「な、なんだって!?」
声は明らかに震えていた。
「俺の盾が…まさか…!?」
ミズキは思わず口を手で覆い、息を呑んだ。
「ナギ…お前の力は…尋常じゃない」
近づいてきた教師の一人が静かに呟く。
レオンは険しい表情でナギを凝視した。
「どうやらお前は、自分が思っている以上に強いようだな」
そう宣告する。
ナギ自身は冷静に剣を握って立ち続けていた。
内心では、未知への恐怖とともに、
この剣こそが己の真の力だという確信が渦巻いていた。
「これが、始まりに過ぎない」
彼は静かに呟き、次の試練に備えた。
すると、リョウタが眉をひそめ、目に怒りの炎を燃やしながら前に出る。
「本気かよ?
てめえ、一撃で俺の盾を粉砕したってのか?
『第二の英雄』としてこれは侮辱だぞ。
まるで子供のおもちゃで遊んでるみたいじゃねえか!」
彼の声は蔑みと挑発に満ち、広間全体に響き渡った。
「俺こそが第一の英雄に相応しい。
てめえ如きが俺の隣に立つ資格なんてねえ!
この哀れなゴミめ!」
リョウタが一歩前に踏み出し、顔を怒りで歪めた。
「力があるってなら――今ここで証明してみろ!
でなければ、お前は一生、越えられない影の中に閉じこもったままだ!」
中庭は凍りついたように静まり返った。
冷たい沈黙が漂い、空気が刃物のように鋭く緊張を切った。
ナギはゆっくりと暗黒の剣を構えた。
その瞳は虚空を貫くように冷たく輝いている。
「何て言った?」
彼の声は低く、冷たかった。
「お前の価値を証明できるなら、やってみろ」
剣は不気味な光を放ち、周囲の光さえも吸い込んでいく。
リョウタは嘲笑うように嗤い、一步前に出てナギを睨みつけた。
「好きなだけ剣や力の自慢をしろよ。
だが現実を忘れるな――お前は惨めな貧乏人で、まともな女にも相手にされない。
お前が必死で生き延びている間、俺は王様のように最高の環境で生きてきたんだ」
「だから……俺のレベルに追いつくまでは、調子に乗るなよ」
ナギは視線を逸らさなかった。
声は冷静だが、確かな威嚇を含んでいる。
「そうか?
だがここは地球じゃない。
ならば――今すぐお前の喉を切り裂いてもいいはずだ」
二人の間に電撃のような緊張が走り――
今にも乱闘が始まりそうな気配だった。
周囲の全員が息を呑む。
突然、レオンが背筋を伸ばして立ち上がり、手を挙げて争いを止めに入った。
「止めろ!
貴様らはただの喧嘩屋ではない――召喚された勇者だ!
共に戦えなければ、どんな力を持っていても次の試練を突破することなどできん!」
彼は二人を厳しくも公平な眼差しで見つめた。
緊張は少し和らんだが、不安な空気は依然として漂っていた。
そして、宮殿の暗い片隅から、一人の影が現れる。
冷たい瞳が、下に集まる者たちを見下ろしていた。
彼の胸に、ある予感がよぎる――
これらの召喚者たちへの真の試練は、まだ始まってもいないのだ。
「奴らはまだ知らない……迫り来る嵐のことを」
彼はそう呟くと、影の中に消え去った。
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