24 「戦火に染まる異世界の夜明け」
朝もやが王宮の古い石壁を優しく照らしていた。
静寂が辺りを包む。
突然、角笛の音が響き渡った。
「ぷおおおおーっ!らららららっ!」
兵士の叫び声が廊下に轟く。
まるで戦場で軍を率いるような勢いだった。
部屋から不満の声が漏れた。
「はぁ…なんでこんな早く起きなきゃ…」
一人の生徒が目をこすりながらぼやく。
「な、なに?今の喇叭…?」
英語教師が布団をはぎ取られ、呟いた。
「あと一時間だけでも…寝かせてくれよ…」
別の生徒がだるそうにベッドから起き上がる。
ナギはゆっくりと目を開けた。
寝ぼけが体を襲うが、すぐに起き上がる。
首を振って意識を覚ました。
……今日は長い日になる。
時間は有限だ。
廊下に背の高い兵士が現れた。
喇叭を手に、厳かな声を響かせる。
「召喚された者よ、奮い立て!」
「夜は明けた。今日こそ、お前たちの『試練』の時だ!」
生徒たちは顔を見合わせた。
「試練…?マジかよ、朝イチから?」
誰かが呟く。
「……ま、少なくともコーヒーはあるさな」
別の生徒が小さな希望を囁いた。
ナギは深く息を吸う。
拳を握りしめた。
……さあ、行くぞ。
今日で全てが決まる。
「ご召喚の勇者様方、ご機嫌麗しゅう!」
「レオン王子がお待ちです。遅れずについてきてくださいな!」
その声が廊下に響き渡った。
生徒たちは不満げに準備を始めた。
布団と格闘する者もいれば、素早く服を着る者も。
教師たちは集まり、何が待ち受けているのか話し合っていた。
リョウタはミズキに目を向け、ふざけた笑みを浮かべた。
中庭に向かいながら、声を掛ける。
「よく眠れた?」
ミズキは夜の悪夢を思い出し、顔を曇らせた。
「あまり…。戦いの夢を見たの。たくさんの人が死んで…」
彼女の声は震えていた。
リョウタは「わかってるよ」とうなずいた。
「どうやら、それが俺たちの未来らしいな。心の準備はしとかないと」
ミズキは息を吐き、鞄の紐を強く握った。
「リョウタは?よく眠れた?」
「もちろんさ!」リョウタは笑った。
「ってか…寝なきゃよかったかも。こんな寒いのに、布団にこもって中庭なんかに来なきゃよかった」
ミズキはかすかに微笑んだ。
だが、不安そうな目で彼を見た。
「そうね…まさか一日がこんな『冒険』で始まるなんてね」
ミズキは疲れたように微笑んだ。
その瞳は涙で潤み、頬は少し腫れていた。
リョウタは足を止め、彼女をまっすぐ見つめた。
そっと手を伸ばし、彼女の涙を優しく拭った。
「まだ、泣いてるのか?」
彼の声はわずかに震えていた。
「俺たち、もう地球には戻れないんだ…。ここが新しい居場所だよ、ミズキ。受け入れなくちゃ」
ミズキは深く息を吸った。
俯きかけたが、リョウタの優しい眼差しに捕らえられた。
「わかってる…」
彼女はかすかに呟いた。
「でも、失ったものの痛みが、時に強すぎて…。特に、戻れるって思ってた時は」
リョウタは彼女の手を少し強く握った。
「俺たち、ずっと一緒にやってきただろ。将来の夢、語り合ったよな?」
「今はすべてが変わったけど、諦める理由にはならない。俺がついてる」
ミズキは涙を堪え、微笑みを浮かべた。
その瞳には、友情以上の何かが宿っていた。
「ありがとう、リョウタ。あなたがここにいてくれるから、光を見つけられそうな気がする」
ナギは他の生徒たちと黙って歩いていた。
彼の視線は自然とミズキとリョウタへ。
以前なら、嫉妬が彼の心を焼き尽くしただろう。
ミズキへの想いは、それほど強烈だった。
だが今、彼の胸には空虚が広がる。
冷たく、氷のような無感情。
意識の深層で、鋭い思考が刺さった。
「女ったらしのクソ野郎…」――リョウタのことだ。
ナギは自分に弱さを許さなかった。
冷静さと距離を保ち続ける。
彼はもう、感情と戦い奇跡を願った男ではない。
ただの傍観者。知っている人々の中の異邦人だった。




