表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/135

21 「戻れない扉の向こうに」

温かい黄金の光が彼らの顔を包み込んだ。


天井は影に溶け、数百のクリスタルシャンデリアが揺れる光でキラキラ輝いている。


壁には古の戦いを描いたタペストリー。

足元には、雲のように柔らかな絨毯が広がる。


レオンが先頭に立つ。

肩をピンと張り、歩みは堂々としている。


松明の炎の揺らめきで、彼の姿は一瞬、獲物を追う猛獣のようだ。


その後ろに、教師と生徒たちが静かに続く。


「もっと近くに来い。」


レオンの声が低く響く。

「ここには、見てる目が多すぎる。」


脇の通路から第二の姫、エリシアが優雅に現れる。


朝焼けのように明るい絹の長い髪。

複雑な三つ編みに丁寧に編み上げられている。


深い藍色のドレスは、夜空を映したようだ。

銀の糸で精巧に刺繍されている。


その微笑みは柔らかく温かい。

しかし、目は鋭い。


冷たく知的な光で、未知の相手の心の奥まで見透かすようだ。


「レオン王子。」


エリシアが優雅に一礼する。

「客人を案内する名誉をいただき、光栄です。」


「今日、このホールで、皆さんを名誉あるゲストとして歓迎します。」


ヒソヒソと囁き合う。

目の前の壮麗さに心奪われ、思わず視線を交わす。


一部は今すぐネットに投稿したかった。

でも、帰る場所がないことを忘れていた。


中に入ると、ナギは無数の視線を感じた。


豪華なドレスの貴婦人から厳格な軍司令官まで。

みんなが鋭く見つめている。


ここにいるのは、偶然じゃない。


長くて重厚なテーブルの周りには、権力と影響力を握る者たちが座っている。

莫大な力を持つ者たちだ。


レオンが先頭を歩く。

自信たっぷりで、軽やか。


まるでこの城の壁の中で育ったみたい。

(実際、そうなのだ)


エリシアが隣を歩く。

チラッと生徒たちを見ながら、値踏みしている。


誰が挑戦してくるか。

誰が素直に従うか。


全員が席につくと、エリシアが口を開く。


「今日の宴は——」

「ただの歓迎パーティーじゃない。」


「自分を試し、この世界がゲームじゃないと知る機会よ。」


「どんな勝利も、どんな敗北も——」

「必ず結果を伴う。」


焼き肉、香草の魚、パンの盛り合わせ。

グラスには芳醇なワインの香りがふわっと漂う。


でも、レオンとエリシアは料理にほとんど興味なさそう。

二人はチラッと視線を交わす。


そして、静かに動き出した。


「さて。」

レオンが近くの生徒たちに話しかける。


「明日、選択肢を与えられたら、どうする?」

「元の世界に戻るか? それとも、力と地位が約束されたここに残るか?」


「そんなチャンス、向こうじゃ絶対ないぜ。」


質問は落ち着いているが、明らかに罠が潜んでいる。

一部の生徒は盛り上がり、別の生徒はピリッと緊張する。


「私は残る!」

短い栗色の髪の少女が即答する。


「あっちじゃ…私、なんでもなかった。」

「でもここなら…誰かになれる!」


「面白いわね。」

エリシアがそっと微笑む。


「あなたは?」

その視線が、筋肉質な腕の長身の少年に向く。


「俺は戻る。」

少年が眉をひそめて答える。


「ここ、危なすぎる。」


(レオンが少し首をかしげる)


「危ない…か。」


「安全でも、灰色の檻で一生過ごす覚悟はあるか?」


彼は視線を外した。


やがて、レオンとエリシアは慎重に質問を投げ始めた。

まるで目に見えないチェスの駒を動かすように。


時には丁寧に、時には軽い皮肉を込めて。

時には何気なく、相手のプライドをチクッと突く話題を振る。


「あなた、名声を夢見てるわよね?」

エリシアが一人の少女に柔らかく微笑む。


「でもその代償が…血だとしたら?」


「正義を求めるって言うな。」

レオンが一人の少年に言う。


「その正義のために法を破らなきゃならないとしたら? どうする?」


宴が終わりに近づく頃、ホールには特別な空気が漂った。


興奮と緊張が混ざり合っている。

生徒たちは気づき始めた。


自分たちがすでに値踏みされているって。


今この瞬間、王座の味方になるか、足手まといになるかが決まっているかもしれない。


(レオンが口を開こうとした瞬間)


ナギの声がホールのざわめきを切り裂いた。


「お前らの話聞いてると…本当に戻りたいやつがいるのかって思うぜ。」


ナギが椅子の背にもたれ、冷たくニヤリと笑う。


「命がスマホより安いあの場所に。」

「金もコネもない、ただの知られざる空っぽの世界に。」


一瞬、静寂が広がる。

生徒たちがピタッと固まる。


グラスのワインの波紋が静まった。


「俺、そういうやつ見てきた。」

ナギが続ける。


「必死に戻ろうとするやつら。自分を英雄だと思ってるのか?」


「でも結局、戻ってもまたパシリ…オフィスの灰色のネズミだ。」


「理不尽な上司の怒鳴り声、聞くの楽しいか?」

「何度も何度も何度もバカにされて!」


「戦場で英雄として死ぬ方が、職場のクソ野郎の叫び声聞くよりマシだろ!」


「そんなの夢見るのは…」

ナギが目を細め、言葉を選ぶように。


「…理想主義者だけだ。」


誰への当てつけか、みんなわかった。


ミズキの目が鋭くキラッと光る。


(ミズキが激しく立ち上がる)


「あんたは……!」


震える拳をギュッと握りしめる。


「この世界を、ゲームだと思ってるの?」

「血や死がロマンチックだってのか!?」


声は震えている。けれど、それは恐怖からじゃない――怒りによるものだ。


「あの世界で、地球で、私たちには家族も友達も、普通の生活もあった!」

「なのにここでは……私たちはよそ者で、いつ命を奪われてもおかしくない!」


ミズキが再び手を振り上げる。

ナギが鋼のように強くそれを捉える。


瞳に冷たい、ほとんど獣のような炎が揺らめいている。


「手を折られたいか?」

静かに、しかしミズキの瞳をまっすぐ見据えて問い詰める。


「やめない!終わらせない!」

彼女は叫び、瞳に涙が光る。

「あんたは力の為に、私たちから“人間”であることを全部奪おうってのか!?」


「止めろ」


レオンが立ち上がり、硬い口調で言い放つ。

声は大きくないが、鋭い刃のように静寂を切り裂く。


「議論はこれ以上無用だ」


「そして忘れるな……」

「戻れる者など、誰一人いないということを」


(レオンの声が静かに響き渡る)


「召喚の儀式は単なる扉ではないと、既に言ったはずだ」


声は静かだが、底冷たいものが潜んでいる。


「お前たちの魂の根源そのものを変え、この世界へと縛り付ける」

「戻るということは……魂を引き裂くことに等しい」


「たとえ神ですら、お前たちを元の世界へ帰すことはできん」

「お前たちの進路は……ただ前へ、だけだ」


ホールの誰かがはっと息を飲んだ。

数人の生徒たちの顔から血の気が引いていく。


まだ帰れる希望を捨てきれずにいたのだ。


レオンの言葉が消え、重い沈黙が部屋を支配する。

空気が押し潰されんばかりに張り詰める。


ゴクリと唾を飲み込む音が一つ。

固唾を飲んで見つめる生徒の視線が、王子からナギへと移る。


「じゃあ……帰る道は……ないのか……」

隅に座っていた少年が、ぼそりと呟く。

「ママ……パパ……」


「おい、そんなこと言うなよ!」

別の生徒が、目を爛々と輝かせて割って入る。


「考えろよ!これはチャンスだ!」

「アニメみたいに強くなれる世界に来んだぜ!」


「魔法も、神器も、名声も……!」

「子供の頃に夢見たことばかりじゃないか!」


(長髪の少女が護符を握りしめる)


「あんた、頭おかしいんじゃないの?」

息を詰まらせるように言った。

「いつ殺されるかもわからない場所よ!?」


「だからこそスリリングだろうが」

別の生徒がニヤリと口を挟んだ。


「弱きは滅び、強きは生き残る。這い上がる意味があるってものだ」


言葉が重なるたびに、緊張は高まっていく。

明らかにナギ側に傾いた生徒も現れた。


その瞳には既に野心の炎が灯っている。

互いに視線を交わし、力の滋味を予感しているようだ。


一方、他の生徒たちは俯き加減で杯を握りしめている。

暗澹たる表情を浮かべている。


その眼差しはただ一つ「俺たちは望んでない」と訴えていた。


教師たちは互いを見交わした。

一人が小声で呟く。

「力の話をすれば、こうなるという見本だな……」


「否、弱さの結果だ」

もう一人が冷たく応じた。


やがて最後の料理が運ばれる。

笑い声や杯の音が静まり、レオンが立ち上がった。


シャンデリアの光が彼を照らす。

食堂に集う全員の視線を一身に集める。


話し声はぴたりと止んだ。


「諸君らに告ぐ」

彼の声は落ち着いており、しかし確かな響きを帯びている。


「今日、君たちはこの世界への第一歩を踏み出した」

「力を少しばかり知り、その味を覚え、運命を共にする者たちと出会った」


彼は一呼吸置き、聴衆に言葉を噛みしめる時間を与えた。


「だが明日からは……」

その眼光が冷たく、鋭く変化する。


「明日からが真の試練の始まりだ」

「力、決意、勇気……それらが問われる。脅すつもりはない。覚悟を求める」


ゴクリと、誰かが緊張で唾を飲む音がした。


「今夜は」

再び声音を柔らかく戻して、彼は言った。


「しっかりと休むがいい」

「廷臣が居室まで案内する。力を蓄えよ……」


「明日の朝、多くの者に、未だ経験したことのない試練が待ち受けているからな」

もしこの物語が気に入ったら、ぜひフォローとお気に入り登録をお願いします!


皆さんの応援が、次の章を書く力になります。


コメントや評価もお待ちしています。

あなたの声が物語をもっと輝かせますよ!


これからも一緒に、この冒険を楽しみましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ