20 回想
ナギが部屋の床にドサッと座り込む。
背中が冷たい壁にピタッとくっついた。
安い酒の匂いが鼻を刺す。
キッチンからくぐもった声が聞こえる。
母さんと武田の声だ。
だんだんトーンがキツくなっていく。
ナギの心臓がビクビク震える。
武田:
「仕事でクタクタだ。なのにその不機嫌な顔。」
「男をどう迎えるか、覚えとけよ。」
「誰がメシ食わせてんだ?」
母さん(疲れ果てて):
「お願い…またその話?」
「なんでまた飲んでるの…」
声が震えている。
武田(叫ぶ):
「ハッ! 『なんで飲んだ』だと?」
「このボロ家に、不満タラタラの女と無口なガキ!」
「誰だって酒に逃げるわ!」
ナギの拳がギュッと締まる。
「耐える。いつものことだ。」
でも、心の奥で何かがギシギシ軋む。
ドアノブがギッと鳴った。
母さんが逃げようとする。
武田が止める。
「動くな。俺が許すまで。」
武田:
「忘れたか? お前の旦那が死んだ夜。」
「泣きながら俺に電話したよな?」
声は低く、嘲笑が滲む。
母さん(震えて):
「……やめて…」
声が途切れる。
ナギの胸が無力感でギュウッと締めつけられる。
武田:
「俺、間違えたよ。」
「未亡人とダメなガキの人生に首突っ込んで。」
その言葉が、ナギの心をズバッと刺した。
バンッ!
ドアが勢いよく開く。
ナギが立ち上がる。
目が凍てつくように冷たい、鋼みたいだ。
ナギ(低い声):
「もう一回、言ってみろ。」
「俺の目を見て。」
声に抑えた怒りがビリビリ響く。
武田が振り返る。
顔にだらしないニヤつき。
「ガキ、これは大人の世界だ。」
「お前には関係ねえよ。」
ナギ:
「ずっと…お前をぶん殴りたかった。」
母さんを見る。
顔は涙で濡れてる。
「母さんのために耐えてきた。」
ナギ:
「母さんは、お前が変われるって信じてた。」
「でも、もう終わりだ。」
一歩前に出る。
胸の中で火がバチッと燃え上がる。
武田:
「ナメた口きくじゃねえか、クソガキ!」
酔った足取りでフラフラ近づく。
挑発してくる。
バンッ!
ナギの拳が武田のアゴにクリーンヒット!
武田がテーブルにドサッと倒れる。
「てめ…何しやがった!?」
ナギは無言で近づく。
襟首をガッとつかむ。
もう一発、拳を叩き込む。
鋭く、重く、決定的な一撃。
「これは…母さんの涙の分だ。」
ナギ(歯を食いしばって):
「母さんが泣いた日々の分だ。」
「てめえの酒瓶、夜の叫び声。」
「全部…これで終わりだ。」
ナギが武田を壁にグイッと押しつける。
上から見下ろす。
肩がゼエゼエと重く上下する。
やっと、正しいことをやった。
初めて、確信が湧いた。
ナギ:
「二度と母さんを泣かせるな。」
「俺が生きてる限り、てめえを黙らせる。」
声は低く、絶対に揺るがない。
母さんが泣いてる。
目が恐怖でパッと開く。
でも、止めない。ただ凍りついて立ってる。
武田が壁にズルッと崩れる。
唇に血。もう気力はゼロ。
ただの情けない酔っ払いが残った。
ナギがくるっと背を向ける。
上着をガッとつかむ。
ドアがバンッと勢いよく閉まる。
夜の冷気が頬をビシッと叩く。
心の中、静かだ。
やっと、やるべきことをやった。
初めての安堵感。
でも、胸の奥で何かがモゾモゾ動く。
この力…あの時知ってたら…
ナギの拳がブルッと震える。
彼を待つ運命が、どこかで動き始めてる。
君なら…残る? それとも戻る?
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