19 帰還不可能
トン、トン。
リズミカルな足音が大理石の床に響く。
涼太が前に進み出た。
背筋がピンと伸び、まるで舞台の主人公だ。
涼太がナギとミズキの間に立つ。
見えない壁が二人を分ける。
「もういい。」
声は静かだけど、誰もが耳を傾けた。
涼太がミズキを見る。
「お前は強い。みんな知ってる。」
「でも、感情はここじゃ武器にならねえ。この世界ではな。」
声は柔らかいけど、刃みたいに鋭い。
視線をナギに移す。
「被害者のフリはもうやめろ。」
「世界を憎んで、征服したい? アニメじゃあるまいし。」
「見てて、ちょっと痛々しいぜ。」
ナギの唇がニヤリと歪む。
「全部持ってるやつが言うか。」
「パパの金で勉強? 高級ワイン片手に?」
言葉に毒が滲む。
涼太はビクともしない。
一歩前に出る。
「英雄になりたいなら、まず人間になれよ。」
周りの空気がピンと張り詰める。
まるで弦のようだ。
教師たちがチラッと視線を交わす。
目に不安が凍りついた。
生徒たちは息を止めた。
「殺す…」
ナギの心が囁く。
その視線は、殺意に燃えている。
議論が再び燃え上がった。
ステータスパネルが青くバチッと光る。
生徒たちの目に興奮の炎が宿る。
力が彼らをグイグイ前に押し出す。
「影の魔法!?」
一人が叫ぶ。
手から黒い霧がユラユラと揺れる。
「地球じゃこんな力、ありえねえ!」
笑みがバンッと弾けた。
「俺、いつもダメなやつだった…」
「でも今…戦僧だ! やっと誰かになれた!」
拳が興奮でブルブル震える。
「なんで戻るんだよ?」
「金も、顔も、みじめなだけの世界に?」
「ここなら俺たちは英雄だ!」
声が玉座の間をガンガンと揺らす。
教師たちの顔が固まる。
美咲が叫ぶ。
「わかってない! 帰る方法を探さなきゃ!」
「ここは別の世界! 何が潜んでるか、誰も知らない…!」
何人かがコクンと頷く。
でも、ナギはピクリとも動かない。
「戻る? 笑えるな。」
冷たい視線がキラリと光る。
「まるで…あの義手のやつみたいだな。」
「力もらっても文句ばっかで、元のつまんねえ映画に戻りたがる。」
ナギの目がミズキをまっすぐ貫く。
「地球のオフィス生活、底辺の労働者の話、聞かせてくれよ。金も未来もない地獄の話。」
「俺たちはドン底から這い上がってきた。」
「ここで初めて、生きる意味が見えた。」
「誰もそれを奪えねえよ。」
声は低く、鋭く切りつける。
パチンッ!
ミズキの手がナギの頬を叩く。
目には涙、心臓がドクドクと暴れる。
「何もわかってない!」
「諦めるのは裏切りだよ!」
「親や友達…あの日は無駄だった!?」
声が叫びに変わる。
涙が大理石の床にポタポタ落ちる。
「やめなさい。」
静かな声が空気を切り裂く。
全員が振り返る。
階段にレオンが立っていた。
王家の紋章がキラキラ輝くユニフォーム。
堂々とした姿がホールを支配する。
「この争いは終わりだ。」
「帰る? もう無理だ。」
ミズキが目をギュッと閉じる。
「え、なに?」
レオンが落ち着いて続ける。
「召喚は一方通行だ。魂は書き換えられた。」
「お前たちの過去は消えた。」
クラスを見渡す。
「ここがお前たちの新しい世界だ。」
「戻るなんてできない。それが現実。」
声は冷たく、揺るぎない。
重い沈黙がホールに落ちる。
誰かが拳をギュッと握る。
誰かは目を逸らす。
でも、みんなスクリーンを見つめ続ける。
ナギが薄く微笑む。
「全部、俺たち次第か。」
「最高じゃね?」
その目、危険な光でキラリと輝く。
帰れない道を選んだ。次に動くのは、あなた。
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ミズキ派?ナギ派?それともリョウタ?




