115 闇に燃える赤い目
戦闘の最後の残響が消えた。耳をつんざくような静寂が押し寄せてくる。耳鳴りだけが、ついさっきまでの混沌を思い出させた。
月明かりに貫かれた埃の雲が、ゆっくりと地面に落ちていった。そして、破壊の全容がむき出しになる。
そして、そこにそいつが現れた。
瓦礫の山の頂上に、まるで闇の偶像のようにそびえ立つ黒い影。そいつの鎧は光を吸い込み、夜よりも深い黒をまとっている。
兜の隙間から、血のように赤い目が燃えていた。生気のない、感情を欠いた、古代の魔物のごとき瞳だ。
あいつから放たれる圧倒的な力のオーラは、空気を重くした。死の直前のような甘ったるい重さに変えた。
カイレルは歯を食いしばった。身体を無理やり起こす。動くたびに鋭い痛みが走る。
それでも、この存在の前で弱さを見せるのは、自殺行為に等しい。背後で仲間たちが身じろぎしたが、誰も声を上げる勇気はなかった。
何百もの戦いで磨かれた本能が、ただ一つ叫んでいた。逃げろ!
「……お前、誰だ?」
カイレルの掠れた囁きが、死の静寂の中で不自然に大きく響いた。
知られざる者は答えなかった。
ゆっくりと、この世のものではない威厳をまとって、瓦礫の山を降り始める。一歩、また一歩。その足音は、戦士たちの心に直接響く重い反響となって広がった。
まるで死そのものが、彼らの棺を叩いているかのようだ。圧迫感が、息が詰まるほどに強まっていく。
最初に一歩踏み出したのは、影の魔法を操るアイレラだった。彼女のマントが風に揺れる。
まるでその動きに応えるように、周囲の影がうねった。生きているかのように、圧倒的な力の前に恭しくひれ伏していく。
「あなたは……人間じゃない。」
普段は柔らかい彼女の声が、今は冷たい鋼のような確信に震えていた。彼女は感じ取っていた。この存在から放たれる空虚さを。
世界そのものよりも古い、底なしの深淵を。
兜の赤い目が、わずかに細まった。
そして響いた。墓石が石に擦れるような、人間らしさを一切欠いた声が。
「人間か……」
「お前たちには怪物の血が付いている。それが私の注意をこの地に引き寄せたのか?」
その言葉は質問ではなく、糾弾だった。
カイレルは本能的に剣の柄を握りしめた。頭の中で戦術がめまぐるしく駆け巡る。
攻撃? 無意味だ。
交渉? 誰とだ?
一振りで古代の獣を灰に変えた力と?
撤退? それが唯一の活路かもしれない……。
だが、この存在に背を向けるという考えだけで、意志が凍りついた。
いつも衝動的なブラリックが前に飛び出そうとした。カイレルは鋭い手振りでそれを止める。
一つの誤った動きが、怪物と同じ運命を招く。
「俺たちはコル・トゥールを追っていた。」
カイレルは言葉を慎重に選びながら言った。
「お前は……まるで鬱陶しい虫のようにつぶした。」
「奴は邪魔だった。それだけだ。」
無関心な答えが返った。その一言に、血が凍るような寒気が走った。
仮面の下の赤い目が、ゆっくりと彼ら一人一人をなぞった。
カイレルには感じた。その底なしの深さの中で、一瞬、何かが光ったように。……興味? いや、むしろ、学者が珍しい昆虫を眺めるような、冷たく遠い好奇心だ。
「お前たち……組織された集団だ。兵士ではない。傭兵でもない。」
石が擦れるようなその声には、疑問の響きがなかった。まるで事実を述べるだけだ。
「あまりにも雑多だ。あまりにも……個性が強い。」
【カリスマ判定失敗! こいつには俺たちの本質が見透かされている!】
カイレルの頭にパニックが走った。何を言うべきだ? 嘘は自殺行為だ。残るは真実だけ。
「……俺たちはアダマント級だ。」
カイレルは息を吐きながら言った。赤い目の視線の下で、自分の言葉がひどくちっぽけに感じられる。
「『夜明けの影』。俺たちは冒険者だ。」
重苦しい沈黙が漂った。
黒い影から放たれる圧力は衰えない。だがそこに、新たな、奇妙な響きが混じる。――ほのかで、ほとんど捉えられない、困惑の気配。
「冒険者……」
その存在は、まるで言葉の味を確かめるように、ゆっくりと繰り返した。
すると、突然、赤い目が一層強く輝いた。その声に、初めて、かすかに人間らしい感情――驚愕が滲んだ。
「まさか……あの、アニメの?」
静寂が完全になった。緊張で爆発寸前のブラリックさえ、口を開けたまま固まる。
カイレルは瞬きした。聞いた言葉を理解しようと必死になる。その言葉は、彼の知るどの言語とも、魔法とも、古代のものとも一致しない。
アニ……メ? なんだそれ? 暗号か? 魔法か? 呪いか?
カイレルの頭の中で思考が狂ったように渦巻いた。アイレラに視線を投げたが、彼女もわずかに首を振るだけ。彼女の頭にも、答えの欠片すらなかった。
「……すまない、理解できない。」
カイレルの声は戸惑いで震えた。
「アニ……メ? それ、なんだ?」
赤い目が細い線にまで絞られた。異邦人は首をわずかに傾げる。
カイレルはその仕草に、どこか痛いほど馴染み深いものを感じた。まるで、記憶の奥底で古びた、半ば忘れられた本を探す人間の姿のようだった。
【解析:対象は文化的参照を認識せず。仮説:局所的な世界、孤立した発展。用語の一致確率は低い。さらなるデータが必要。】
「……忘れろ。」
今度はその声は、再び平坦で生命を欠いた響きに戻った。鼻先で鋼の扉が閉まるような音だ。
「どうでもいい。お前たちはコル・トゥールを追っていた。何のために? 名声か? 金か?」
質問が宙に浮かんだ。しかし、今度は何か違う感覚があった。
この存在は、単に彼らを試しているだけではない。……情報を集めている。
その事実が、カイレルにとってどんな直接的な脅威よりも恐ろしかった。こいつは彼らを敵として見ていない。
まるで、理解できないパズルの一片として見ているのだ。
そして、そういうものには、実験されるか……あるいは、不要なガラクタとして捨てられるかのどちらかだ。
重苦しい沈黙が再び漂った。
異邦人の問い――「名声か? 金か?」――が、冷たく無関心に宙に浮かぶ。まるで判決のようだった。
カイレルは理解していた。「正義のため」とか「王国を守るため」なんて答えは、ここでは嘲笑にしかならない。この……何者であれ、こいつは彼らのボロボロの鎧や、怪物の血で汚れた服をすべて見透かしていた。
【選択肢:物質的な利益を否定するか? 偽善者と見られるリスク。認めるか? ちっぽけで取るに足らないと思われるリスク。慎重さが求められる……】
「俺たちはギルドの契約で狩りをしていた。」
カイレルはようやく言葉を絞り出した。赤い視線の圧力の下、言葉一つ一つが途方もない重さで押し出される。
「報酬は……それなりに大きかった。」
「契約。報酬。」
異邦人が繰り返した。その声には、失望か、あるいは退屈とも取れる、ほのかで捉えがたい色合いが混じっている。
その興味が、まるで消えていくかのようだった。
その瞬間、ブラリクの我慢が限界を超えた。すでにギリギリだった彼の堪忍袋の緒が、プツンと切れる。
「お前、なんなんだよ!?」
戦士が吠えた。カイレルの制止の仕草を無視して一歩踏み出した。巨大な斧が手に震えている。恐怖ではなく、無力感からの怒りだ。
「俺たちの獲物をぶっ潰しやがって! 何週間も準備して、血を何リットルも流したんだ!」
「なのに、くだらねえ質問ばっかしてきやがる! 悪魔でも死の使者でもねえなら、名乗れ、くそくらえ!」
【馬鹿野郎! 脅威レベル『災厄』の未知の存在を挑発する気か!】
カイレルの頭に叫びが響いた。彼は即座の攻撃を覚悟する。ヴァリックが血の染みと化す瞬間を想像した。
だが、異邦人はただ、燃えるような視線をゆっくりと彼に向けた。圧力は強まらなかった。……いや、まるで一点に絞られたかのようだ。
「お前の勇気は愚かさに近い、ドワーフ。それがお前を殺す。」
その声は、ブラリクの頭の中に直接響いた。音を立てずに彼をのけぞらせ、目を大きく見開かせる。
「だが……その誠実さは本物だ。」
「黙って聞け。」
精神的な衝撃の後に訪れた静寂を破ったのは、後ろから響く穏やかで理知的な声だった。
「我が友を許してほしい。」
これまで安全な距離から黙って観察していたミライが口を開いた。彼は慎重に一歩進み出て、両手を広げ、杖を持っていないことを示す。
「彼の言葉は絶望から出たもので、悪意ではない。君は俺たちの目的を問うた。はっきりさせよう。」
「契約はただの形式だ。本当の理由は、この鉱山の怪物が谷を、何里にもわたって荒らしていたからだ。家畜の死、人の失踪……俺たちは見ずにはいられなかった。」
「そして、こんな規模の脅威に遭遇するとは知らなかった。」
異邦人は再び首を傾げた。赤い目が魔法使いへと移る。
「弱者を守る。気高い動機だ。より……イメージに合っている。」
「イメージに合う?」
アイレラが我慢できずに声を上げた。その囁きは困惑に満ちている。
「君は謎めいたことばかり言う。『アニメ』、『イメージ』……」
「君は何者だ? 俺たちの動機を裁く権利がどこにある?」
新たな、震える声が響いた。それはこれまで仲間の背中に隠れていた巫女、エリサの声だった。
「その魔法……」
彼女は顔を真っ白にして囁く。
「空っぽだわ。……魂も、命も、神の恩寵も感じない……でも、悪魔の穢れもない! ただの……虚無。まるで歩く空虚そのもの!」
その神秘的な恐怖に満ちた言葉は、明らかに的を射ていた。
異邦人がピタリと動きを止めた。赤い目が一瞬、巫女へと向けられる。そこには初めて、生き生きとした本物の興味の火花が宿ったように見えた。
「興味深い。お前たちは、思ったよりも深い存在だ。」
「アニメを知らない冒険者たち、だが虚無を見抜く者たち……ギルドか。」
彼は一瞬言葉を切った。次の言葉は新たな、背筋を凍らせるような口調で響く。――質問ではなく、取引の始まりのように。
「お前たちの奉仕……私の興味を引くかもしれない。」
重苦しい沈黙が再び漂った。異邦人の言葉――「お前たちの奉仕……私の興味を引くかもしれない」――が、まるで鋼の縄のように宙に浮かんでいる。
カイレルは背筋に冷たいものが走るのを感じた。こんな存在の「興味」など、ろくなことをもたらさない。
【距離を取る必要がある。ギルドに戻る。脅威を分析する。計画:もっともらしい口実で撤退。】
「俺たちの奉仕は……お前が今しがたぶち壊した契約で既に支払われていた。」
カイレルは慎重に言葉を選び、声が震えないように努めた。
「これから俺たちは戻る。ギルドへ。報告のために。」
彼はそれが、さらなる質問の余地を残さない、中立的で筋の通った次の行動に聞こえることを願った。
仮面の下の赤い目が、まるで嘘を見抜くようにチラチラと輝いた。
「ギルド……なるほど。今すぐそこに向かうのか?」
その声は依然として平坦だったが、そこには新たな、警戒を誘う具体性が混じっていた。
カイレルの心臓が胃の底に沈んだ。何を言うべきだ? 嘘は死を招く。
「その通りだ。」
彼は短く吐き出し、その言葉が唇を焼くように感じた。
そして、世界が爆発した。
光の閃光も、テレポートの音もなかった。一瞬前、異邦人は十歩先に、彫像のように静止していた。
次の瞬間、空気がカイレルの顔の前で雷鳴のような衝撃とともに潰れた。粘つく闇の鉄のような握力が彼の肩を締め上げる。
それは肉や血の手ではなかった。まるで物理の法則そのものに捕まれたような、絶対的で容赦のない圧迫感だ。
【警告! 超音速移動! 近接戦闘の脅威! 危険レベル:即死!】
本能が叫んだ。
赤い目の顔が、今、彼の顔から数センチの距離にあった。そこからは、地下深くの冷気と、腐った死体の死の臭いが漂ってくる。
「ならば、単刀直入に聞く。」
その声は、もはや外からではなく、カイレルの意識の中に直接響いた。静かだが、反論の余地を一切許さない。
「私も……一緒に行っていいか?」
チームはショックで固まった。ブラリクは半ば動きを止めたまま、攻撃を躊躇した。ミライは凍りつき、エリサの姉妹は恐怖で悲鳴を上げた。
ただ一人、影とのつながりがこの力に怯えながらもその本質を感じ取っていたアイレラだけが、力を振り絞って一歩踏み出した。彼女の声は震えていたが、確固たるものだった。
「名前のない存在と並んで歩けないわ。私たちはどう呼べばいいの?」
異邦人はゆっくりと、まるで少し力を入れて、カイレルを離した。カイレルはよろめきながら後ずさり、肩がしびれるような痛みに耐える。
黒い影は一歩下がり、首を傾げた。遠い反響に耳を澄ますように。まるで、数千の名を記憶から一つずつ捨てていくかのようだった。
「名前……」
ようやくその言葉が響いた。初めて、かすかな思索の響きが混じっている。赤い目が一瞬、空に向けられた。まるでそこにヒントを求めているかのように。
「私を……ライトと呼べ。」
この未知なる物語の旅路に、
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何卒、宜しくお願い申し上げます。




