114「黒曜石の終焉」
コル・トゥールが、魂を凍らせるような咆哮を上げた。
その声には、かつての冷徹な残虐さの欠片もない。
今、それは――純粋な、獣のような怒りの叫びだった。
そして……どこか原始的な恐怖が混じっているようにも聞こえた。
真紅の瞳は憎悪に燃えながら、
倒れた獲物ではなく、
岩の上に立つ孤独な影に釘付けになる。
爪の下で、岩が粉々に砕けた。
一瞬前まで容赦なく圧倒的な力で動いていた怪物が、
消えた。
――テレポートではない。
その巨体は、空間を切り裂く黒い矢と化した。
空気が爆音の連鎖で炸裂し、
冒険者たちの足元の石が砂と化す。
鋭い目を持つリアナリスも、
敏感な耳を持つアイレラも、
まばたきすらできなかった。
百ヤードの距離を、一瞬で詰める。
空間を裂くほどの爪が、
冷たい金属の仮面に向かって――振り上げられた。
カイレルは、岩の上に倒れたまま、
震える手で腰のポーチから真紅の液体が入った小瓶を引っ張り出した。
一気に飲み干す。
温もりが体に広がり、折れた肋骨が癒え、傷が塞がっていく。
だが、安心は感じられなかった。
いつも冷静で分析的な彼の頭脳は、
今、見たものに完全に麻痺していた。
――何だ、こいつ…!?
あの攻撃パターン…!
いつも攻撃範囲内で最も強い奴に突っ込む!
前回はアイレラを狙って、無視すらしようとした!
まるでサメが血を嗅ぎつけるように、
魔力の濃度を感知するんだ!
彼は、ゴーレムの黒い雷が標的に迫るのを凝視した。
頭の中の独り言は、現実と完全に噛み合っていなかった。
なのに…今、俺たちを無視した。
アイレラを無視した。
あいつの魔力シグネチャーは、夜の灯台みたいに目立つはずなのに!
じゃあ…あの仮面の男…そのマナ、その脅威…
王国最強のアダマンタイト級チームの吸血鬼を超えるほど、
古代ゴーレムの全注意を引きつけたってのか!?
カイレルの目が見開かれた。
ありえない事実に、頭がクラクラした。
――こいつ…一体何者だ!?
戦いが始まった。
いや、これは対決なんかじゃなかった。
一方的な蹂躙だった――
ただし、ゴーレムの側がやられていた。
仮面の男は、恐ろしく不自然な滑らかさで動いた。
回避? そんなものはない。
奴は攻撃を正面から受け止め、
暗いローブが衝撃で翻るだけ。
破れることすらなかった。
その一撃一撃は、まさに災害そのものだった。
魔法は使わない。
ただ純粋な肉体的な力と、
どこか不気味な技だけ。
その手が、刃のようにゴーレムの岩の胸を貫いた。
引きちぎられたのは、脈打つ闇の球体――ゴーレムの「心臓」。
ゴーレムは苦痛の咆哮を上げ、よろめいた。
ゴーレムの影のような触手が、仮面の男を絡め取ろうと襲いかかる。
押し潰すか、魂を喰らうか――そんな目論見だった。
だが、仮面がそちらを向く。
赤い目が一瞬、輝いた。
触手はまるで灼熱の鉄に触れたかのように、
悲鳴を上げて煙と化した。
コル・トゥールは死の危機を悟り、
最恐の武器を解き放った。
魂を裂く叫び声。
冒険者たちはその見えない力の波に呻き、意識を失いかけた。
だが、仮面の男は…ただ首を軽く傾げただけ。
まるで耳障りな音を聞くように。
それから、そいつはその波を突き抜け、一歩踏み出した。
手が伸び、ゴーレムの「顔」を鷲づかみにした。
石が砕ける音が響いた。
古代の怪物の黒曜石の頭蓋が、
仮面の男の指の圧力で軋み始めた。
ゴーレムは無言の苦悶でもがき、
足が暴れて岩から巨大な岩盤を削り取った。
その時、仮面の男が口を開いた。
声は錆びた金属の擦れる音のようで、
冷淡さに満ちていた。
「騒がしい。話の邪魔だ。」
指がさらに締まる。
まるで王都にまで届きそうな轟音とともに、
コル・トゥールの頭が無数の黒曜石の破片となって飛び散った。
核と頭を失ったその巨体は、一瞬、静止した。
そして、次の瞬間、
生気のない石の塊となって地面に崩れ落ちた。
一分にも満たない戦いは、終わった。
仮面の男は、埃も血も一切浴さず、
壊れた岩場からゆっくりと降りてきた。
燃えるような赤い目が、カイレルを捉えた。
何年ぶりか――カイレルの血が本当に凍りついた。
これは死の恐怖ではなかった。
伝説のゴーレムを、まるで訓練用の人形のように
軽々と葬った、この存在の途方もない力への恐怖だった。
希望の余地すら与えない、圧倒的な力の誇示。
彼の視線は、答えを恐れる問いそのものだった。
「何故、ここにいる?」




