113 「最強の出現」
死の匂いが空気に漂っていた。
濃厚で、甘ったるい。
コル・トゥルは動きを止めた。
その鋭い爪は、カイレルの喉を切り裂く寸前で、わずか一センチのところで凍りついた。
ゴーレムの無表情な仮面が、ゆっくりと獲物から視線を外した。
体に刻まれた真紅のルーンが、不穏に、脈打つように光を放つ。
何かを感じ取ったのだ。
古代の、原始的な本能を呼び覚ます何か。
それが、目の前の簡単な獲物を忘れさせた。
カイレルは痛みに歯を食いしばりながら、それを感じた。
ゴーレムから放たれていた圧力が、別のものに変わった。
もっと古く、静かで、すべてを飲み込むような気配。
体を縛る冷気は、もう怪物から来るものではなかった。
それは、どこか別の場所からやってきていた。
首を動かすのもやっとで、カイレルはコル・トゥルが見つめる方向に目をやった。
(岩の突起の頂で、煙と混沌を見下ろすように、一人の人影が立っていた)
その姿は背が高く、不自然なほど痩せ細り、ボロボロの黒いローブをまとっている。風にはためく布は、巨大な猛禽の翼のようだった。
だが、最も異様なのは仮面だった。
鈍い黒い光を放つ金属製の仮面。その縁はぎざぎざで、歪んでいる――まるで鉱石から無理やり引き裂き、狂気のハンマーで打ち鍛えたかのようだ。人間の顔などではなく、怒り狂った獣を思わせる輪郭。空虚な眼窩には、飢えた影が渦巻いている。
最も恐ろしいのは口元だ。無数の深い亀裂が放射状に走り、獲物を食い裂いた直後の獣の口のよう。ゴーレムの真紅のルーンと、アイレラの紫の炎に照らされ、その「微笑み」は冷たく、嘲り、そして極めて残酷だった。
(ただ一つだけ…左の眼窩)
そこには闇がなかった。
真紅の炎が燃えていた。生き生きと、脈打つように、まるで燃え盛る炭のようだ。その炎は憎しみと軽蔑に満ち、感情を持たないはずのゴーレムでさえ、思わずたじろいだかのように見えた。
人影は動かない。ただ立ち、じっと見つめる。その存在感は静かだが、突然訪れた夜のように絶対的だった。すべての注目を一身に集め、脅威さえも押しやる。
カイレルは凍りついた。一瞬前まで逃げ道を計算していた頭が、空白に。これは何だ? 友か? 敵か? それとも…
だが、生存本能が磨いた直感が、叫ぶ。
狩人は、今、獲物に変わった。
本物の捕食者が、狩りを始めたのだ。
そして――その捕食者は、二人を、じっと見つめていた。




