103 「灰影の使者、夜の契約」
酒場が一瞬で静まり返った。
灰色の影が動くたび、まるで合図。
カイレルは即気づく。――こいつ、普通の客じゃない。
男がフードをサッと下ろす。
薄いヴェールに顔は隠れてる。
でも、片方の灰色の目が氷みたいにキラッ。
首のメダリオン、謎の紋章がランタンで光る。
「俺はお前たちに用がある」
低く鋭い声が空気を裂く。「他の奴ら、みんなくそくらえって断った」
アイレラがピクリと動く。
仮面が暖炉の光をチラッと跳ね返す。
瞳に影。指はマントに、いつでも動ける。
「他の奴ら?」
カイレルがグイッと身を乗り出す。「傭兵? ギルド?」
「両方だ」
男がニヤリ。「誰もやらない。任務が…めっちゃヤバい。でも、お前たちならいける」
「任務って何?」
リアナリスがナイフをくるっと回して聞く。
テーブルの重い空気を振り払うように。
「南の地だ」
男が首を少し傾ける。「村を脅かす力がある。盗賊じゃない。獣だ。そこに潜むものは…なんでもぶっ壊すかもな」
ミライが弦をチンと弾く。
リュートの音が警告みたいに響く。
「なんで俺たち?」
ミライの目が好奇心でキラッと光る。
「お前たちはアダマント団だろ」
男が一瞬黙る。「実力、連携、経験…この任務は、お前たちにしか無理だ」
カイレルが眉をひそめ、仲間を見やる。
アイレラの瞳に恐怖と興味がチラリ。
リアナリスのニヤッとした笑み。
ミライの考え込む顔。
エリサの冷たい目。
「挑戦か」
カイレルが静かに言う。いつもの落ち着いた声。「だが、舐めるなよ。報酬は分かってるな? 今回は倍だ」
男が一歩進む。
暖炉の光でメダリオンがキラッと光る。
紋章が、まるで生きてるみたいに揺らぐ。
「話は決まったな」
静かな声。なのに、ビリビリ緊張が響く。
「必要なものは全部やる。だが、覚悟しろ。この道で、誰も知りたくないものを見るぞ」
静寂が戻る。
酒場の壁が耳を傾けてるみたい。
ロウソクの光も慎重に揺れ、男の影を映す。
「夜明けに会おう」
男が言い放つ。返事を待たず、くるっと振り返る。
ドアの向こうに消え、雨の匂いと謎の気配を残す。
カイレルが仲間を見やる。
「さて、みんな…休憩の夜は終わりだ」
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