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101 「虚無からの脱出」

石は冷たく、肌を刺した。

ナギは丸くなり、傷ついた獣のようだった。


膝を胸に押しつけ、ズボンを握る指は骨まで白くなった。


「マ… マ…」

声は嗄れた。


「家に… 帰りたい… いや、幼稚園に…」

小さく笑った。咳のようだった。


「ママ… スープ…」

言葉は、足元の枝のように折れた。


マスクに隠れた左目は、暗いホールを行き来した。

だが、見えるのは骸骨の空虚な眼窩だけ。


周りの世界は溶け、灰色の記憶の霧に変わった。


地球を思い出した。

夜の街。

通りすがりの冷たい視線、無関心。

この深淵が始まる前は些細だった、すべての屈辱。


「へっ… アニメか…」

頭に浮かぶのは、気弱な主人公が奇跡的に美少女と出会い、ただ「優しい」だけで愛される姿。

ファンファーレの笑い声、ハッピーエンド…


「俺のバージョンはどこだ?

俺のヒロインは?

せめてチャンスはどこだ?」


ナギはビクッと跳ねた。

まるで殴られたように。


思考が、熱した針のように突き刺さる。


「俺が何をした?

宇宙そのものが俺を嘲笑ってるのか?」


「前世の罪?

バカらしい… バカバカしい!」


石の床は、まるで流砂のように柔らかく感じた。

ナギはそこに沈み込むように、強く押しつけた。

消えたかった。


少女の骸骨は、空っぽの眼窩でじっと見つめる――

嘲り、冷たく。


ナギは目を固く閉じた。

息は短く、痛みを伴う喘ぎに変わった。


もう自分が何者かわからない――

人間か、獣か、それとも宇宙の冗談か。


数時間か、数日か。

時間はわからなかった。


静寂は、熱された針金のように伸びていた。


ナギは座り込み、額を石に押し当てていた。

呼吸が整うまで。


吸い込むたび、内に募るのは怒りではなく――虚無。

どんな深淵よりも冷たい虚無。


彼は骸骨に目をやった。

まばらなクリスタルの光が骨に揺れ、

まるで少女が動いたかのようだった。


いや、ただの光。

錯覚だ。


だが、ナギの心臓は期待で震えるのをやめた。


「何もない。」

くぐもった声。

よそよそしく、嗄れていた。


ナギは指を緩め、ゆっくり立ち上がった。

膝が軋み、身体が痛んだ。

だが、痛みにも寒さにも微動だにしなかった。


すべての期待は嘘だった。

ヒーローも、ハッピーエンドもない。

ただ、闇だけ。


剣を手に取ると、かすかな金属音が響いた。

冷たい鋼が掌を冷やし――

どこか落ち着かせた。


ナギは一歩踏み出した。

一つ。

もう一つ。


骸骨を迂回し、

まるで世界の新たな悪ふざけがないか確かめるように。

そこには石と埃だけだった。


「つまり、俺だけか。」

静かな声。

言葉はホールに溶け、消えた。


ナギは腰に下げたマスクに触れた。

冷たい。

以前と同じく、口元にひびが入っている。


薄暗い光の中で、それはまるで笑っているようだった――

氷のような嘲笑を、ナギはすでに自分のものとして受け入れていた。


世界が笑うなら、俺はもっと大声で笑ってやる。

深淵が囁くなら、俺は剣で答える。


マスクをかぶった。

手に持つ剣が震えた。

まるで新たな意志の重さを感じたかのように。


ナギは前に進んだ。

骸骨を、かつての夢を、

そして、かつての自分の最後の欠片を置き去りにして。


足音が、無限の廊下に響き合った。

石の床は、始まりも終わりも失ったかのようだった。


ナギは歩いた。

日数か? 週か?

深淵の中では、時間は水に溶けた塩のようだった。

数えるのをやめた。


ただ、まれな光のクリスタルが、道を点々と照らした。


トンネルは螺旋を描き、上下に伸び、同じホールへと戻った。

新しい通路を見つけたと思った瞬間、

石壁に阻まれるか、底なしの奈落へと消えた。


時折、闇から遠い咆哮が響く。

怪物ではない。

空間そのものの反響だ。


ナギは振り返らなかった。


マスクは顔に馴染み、まるで第二の皮膚のようだった。

その下の呼吸は、均等で、冷たかった。


出口はある。

その思いは弱っていく一方だったが、ナギは呪文のようにつぶやいた。

どこかに、出口があるはずだ。


瓦礫を突き破り、黒いクリスタルで指を焼き、壁に印を刻んだ。

だが、戻るとその印は消えていた――

まるで深淵が嘲笑うように、すべての痕跡を舐め取ったかのようだった。


時折、ナギは剣に寄りかかり、座り込んで耳を澄ました。

だが、自分の心臓の音さえ、よそよそしく響いた。


「お前、ふざけてるな。」

再び黒い奈落を見つめ、ナギは囁いた。

「いいぜ。まだゲームは続く。」


くぐもった響きが、静寂を突き破った。

最初はわずかだった。


ナギは立ち止まり、耳を澄ました。

自分の足音の反響ではない。

生きている音。

水の音。


彼は急いだ。

ほぼ走るように、石の上を滑りながら。

進むほど、空気は冷たく澄んでいった。


やがて、広いホールが現れた。

黒い川が切り裂くように流れていた。


流れは左へ向かっていた。

だが、右の岩の狭い裂け目から、かすかな光が漏れていた。

クリスタルの輝きではない。

本物の、灰色の、朝の光。


「……地上だ。」

ナギは息を吐いた。


石は滑り、冷たい水が肌を刺した。


ナギは這うように進んだ。

指を岩の凹凸に食い込ませ、

水音を頼りに、湿った土と草の匂いを追いかけた。

その匂いは、一歩進むごとに鮮明になった。


裂け目は広がっていった。

やがて、空の細い帯が見えた――

曇った空だった。

だが、永遠の闇を抜けた後では、眩しく感じられた。


最後の力を振り絞り、ナギは這い出した。

濡れた苔の上に倒れ込み、広がった。

冷たい風が顔を焼くように吹いた。

頭上では、木々がざわめいていた。


彼は、抜け出したのだ。

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