97 「紅の復讐者、誕生」
《無数の赤い眼》が迫る。
ナギの片目が深紅に燃える。
武器を握り、声を上げる。
「この奈落に響け…!
《全てを喰らう復讐の炎》!
《我が友の死に報いるため…》
《世界よ、震えろ!》」
意識が拒んだ。
いや。
ありえない。
幻覚だ。
この奈落の新たな残酷さ。
「ユウジ…?」
掠れた囁き。
唇から漏れた。
音はほぼない。
体が震えた。
吐き気が襲う。
膝から崩れ落ちた。
横に吐いた。
――胆汁と酸だけ。
《彼じゃない。》
《ありえない。》
《生き延びたはず。》
《いつも生きてきた。》
《だって…「主人公」だろ?》
だが。
見つめるほど。
冷たい現実が。
心に突き刺さる。
ボロボロの制服。
青白い肌。
胸にあるはずの場所。
《恐ろしい空虚》。
《どうして…?》
《なぜ…?》
《主人公は…》
《いつも生き延びるはずだろ?》
視線が剣に落ちた。
《血まみれのボロボロの武器》。
死体が握る。
ユジは生きたかった。
でも、できなかった。
その事実がナギを抉った。
世界が崩れた。
這った記憶はない。
足の痛みは遠い。
内心の地獄に比べれば。
岩をつかむ。
血の跡を残す。
動きが止まった。
クリスタルの淡い光。
《ユウジの笑顔の残骸》に。
揺らめく影を投げる。
内側が途切れた。
冷淡さ、距離、怒り。
すべて灰に。
《空虚》だけが残る。
《なぜ…?》
《一緒に抜け出すはずだった…》
《お前のために来た…》
片目。
痛みと怒りに曇る。
《熱い一粒の涙》。
ゆっくり滑り落ちる。
血と汚れの顔に。
清らかな一筋を残した。
ナギはユウジのそばに崩れた。
奈落の冷たさ。
傷だらけの体に。
鈍い痛みが響く。
「…なぁ、ユウジ」
掠れた声。
震えてる。
「覚えてるか…あの計画…?」
《無言の亡魂》。
答えはない。
それでもナギは話す。
「卒業したら…
俺がシナリオ。
お前が絵…
バカみたいな…マンガの計画…
結局…俺の手は…届かなかった…」
拳が震えた。
視界がぼやける。
「お前…いつも…
『ナギの話、最高』って…
『絶対ヒットする』って…
笑って…
ちゃんと聞いてくれた…
あの…バカな夢…」
《嗚咽が喉を裂いた》。
「約束…守らなかった…
バカヤロー…
まだ…あの結末…話してなかった…」
突然。
声が《怒りに歪む》。
「なんで…なんでお前だけ…
なんで俺が…《こんなもの》を…
なんで…お前が…《食いちぎられた死体》…」
《その瞬間。》
《ナギの中で何かが壊れた》。
「ぁ…あああああああ…!」
叫び声が洞窟を震わせた。
もう人間の声じゃない。
《絶望と怒り。》
《最後の理性を焼き尽くした》。
ナギの声。
洞窟にこだまする。
祈りか。
呪いか。
「なぁ、ユジ…
覚えてるか?
アキラが…
『私、お前の彼女』って…
お前の顔…」
「俺みたいに…
顔真っ赤なガキじゃない…
お前…静かに笑って…
『はぁ?』って…」
拳が石を握り潰す。
顔から血の気が引く。
「バカみたいだ…
あんな女…
《高級クラブの歌姫》?
《金で笑う人形》…
なのに俺…
本気で…《惚れた》…」
「それから…ミズキ…
命がけで守った…
あの子の命を…
救ったのに!
いつも…レタってゴミの味方…」
「何が正しい?
《正義》なんてどこだ?
お前…誰より《正しく》生きた…
弱者を守り…いつも笑って…
なのに…《これ》がお前の報い?」
ナギの視線。
《友の半分食われた亡骸》。
ゆっくり向く。
「これが…《正しさの代償》?
これが…《優しさの結末》?
《この世界》…《嘘》だらけ…
《善》は負け…《悪》が勝つ…
それが…現実…」
「いい…もう…
《正しく》ある必要はない…
《お前の死》が…教えてくれた…
この世界の《真実》を…」
ナギの手。
ユジの冷たい肩を握る。
《目の中の人間性…》
《その光…消えた》。
《なら…俺は悪になる》。
《復讐する…》
《すべてに…》
《この不条理な世界に…》
《お前の死に…》。
《復讐の誓い》が洞窟に消える。
重い沈黙。
その時――
《遠くの闇》。
《軋む音》が響く。
《無数の赤い眼》。
ちらつく。
以前より…《巨大》で…《強靭》な…
何かが…近づく。
ナギは…《笑った》。
「……来たか」
《恐怖》はない。
《痛み》もない。
あるのは…《静かな殺意》。
ゆっくり立ち上がる。
《怪物の脊椎》の杖。
体重を預ける。
ポケットから…
《漆黒の仮面》。
それは…《彼の人間性》を葬る…
《棺の蓋》。
《仮面を装着》。
《その瞬間…》
《ナギの片目…深紅に輝く》。
武器を構える。
《無数の赤い眼》。
目前に迫る。
「《我が名は…只の復讐者》…
《来い》…
《我が…新たな力》の…
《糧》となれ…」
ヨー、みんな!
ここまで読んでくれてありがとう!
ナギの復讐の物語、燃えてきただろ?
このシーン、気に入ってくれたなら…
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コメントで「ユジ…!」とか「ナギ、闇落ちやばい!」とか叫んでくれると、作者のテンション爆上がり!
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次章もぶっ飛ばすから、絶対見逃すなよ!




