10 異世界は、狂気と共に始まる
教室はまさに地獄だ。
叫び声。
轟音。
カオスそのもの。
だが、ミズキには届かない。
頭の中は、ただ一つの名前でいっぱいだ。
ナギ… 何が起きてるの!?
彼女はナギに飛びつく。
この狂気の中で、ナギだけが全てを知ってるように見える。
絶対、知ってる。
だが、ナギは動かない。
石のように。
唇には、まるで運命そのものを嘲笑うような笑み。
耳にはイヤホンが突っ込まれている。
この世界なんて、まるで関係ないみたいに。
ミズキはビクッと震えた。
彼女の指が、ナギの腕をギュッとつかむ。
心臓が、太鼓のようドクドクと鳴る。
「ナギ! 何これ!? 何が起きてるの!?」
声が震える。
ナギはゆっくり体を引いた。
冷たく、彼女の手を振り払う。
「俺が知るわけねえだろ…」
声は氷のよう。
怒りじゃない。…疲れだ。
全てを諦めたような、重い疲れ。
だが、突然――
ナギが肩越しにチラリと視線を投げる。
「まぁ… 仮に、だ。」
一瞬の間。
声は、相変わらず冷たい。
「まるで、誰かに『呼ばれてる』って感じだな。
あのバカみたいな話みたいに。」
ミズキは目を見開いた。
その瞳には、恐怖と混乱が渦巻いている。
「召喚!?マジで!?なに!?これなにっ!?」
その指がナギの腕に食い込む。
必死で、彼の狂気を止めようとするように。
ナギは静かに笑った。
危険な笑みを浮かべて。
顔を手で覆い、
内側から渦巻くエネルギーを抑え込むように。
「学部一番の天才が、まさか完璧なバカになるとはな?」
声は震え、笑いと混ざり合う。
「答えろよ、くそっ!」
言葉は雷のように響いた。
ミズキ——スローモーションのように。
心臓がバラバラに砕ける。
足元の床がぐらつく。
世界が変わった。
そして突然——地震が止んだ。
教室は静寂に包まれた。
ただ、震えるささやきだけが聞こえる。
「な…?」
「なにっ!?」
すると天井から——バン!
眩い白光が脈打つ、まるで生きているかのように。
部屋は光に溶けていく。
それは今にも全员を飲み込みそうだった。
チョークの匂いが消えた。
窓の外の桜の影が、虚無の中で揺れている。
「ハ・ハ・ハ・ハ──!」
ナガの狂気の笑い声が反響する。
彼は立ち上がった。
瞳は炎のよう。
身体が異世界の力で満たされていく。
「まさか…!」
ナガは光に向かって手を伸ばした。
「召喚! 異世界!
このバカげた話が…本当だったなんて!」
「クソみたいな世界なんて、くたばれ!」
声は裂け、ますます大きくなる。
狂気が外へあふれ出した。
“俺たちは、もっと相応しい世界を手にする!”
光が──バン!
壁が歪む。
現実が彎曲する。
圧力がすべてを押し潰そうとする。
生徒たちはパニックに陥った。
逃げようとする。
ドアは開かない。
全ての視線がナギに集中する。
彼は混沌の中心に立っている。
さながら、新世界の使者のようだ。
ミズキは息を詰まらせた。
「ナギ…何を言ってるの!?」
彼女の心臓が締め付けられる。
ナギのポケットの中のスマホが光った。
その“荷物”は、ただの届け物などではない…
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