人間体に変身!! 少年猫ボローニャの小冒険
「小説家になろう 冬の童話祭2025 冒険にでかけよう」参加作品です。
拙作「チンチラシルバー マリーさんはツンデレ」(https://ncode.syosetu.com/n2959jk/)のスピンオフでもありますが、単体で楽しめます。
「じゃあボローニャ。いい子にしてお留守番していてね」
カチャカチャ
玄関のドアの鍵を締める音がして、お母さんは仕事に行った。
僕の名前はボローニャ。全身が短い茶色い毛に覆われた猫。生まれてすぐにこの家にもらわれてきて一年。人間で言えば十八歳の少年だそうだ。
僕はこの家の人間の家族、お父さんお母さんお兄ちゃんお姉ちゃん、みんな大好き。みんな優しいし、おいしいごはんをくれる。でも……
ただ一つ嫌なのはみんな昼間いなくなっちゃうこと。お父さんとお母さんは会社。お兄ちゃんとお姉ちゃんは学校というところに行っちゃうんだ。
ちょっと前まで猫は外へ出ても良かったのだけど、今は家の中で飼ってくださいと言われたとかで外に出ちゃいけないということになっている。だから僕はお留守番なんだけど、僕には家族が誰も知らない秘密がある。
「むん」
僕はちょっと気合を入れると人間体に変身した。猫の時の体が反映されるから、茶色の短髪に全身薄い茶色コーデの少年だ。
でも、家に鍵をかけられちゃったんじゃ? ふふふ。心配ご無用。人間体に変身した僕はガラス戸をすり抜けられるのだ。
こうして外に出た僕を祝福するかのように外は雲一つない青空。風も弱くて、木の枝も揺れていない。絶好のお散歩、いや、冒険日和だ。
心うきうき歩いて行く僕。すると、目に入ったのは泣いている小さな女の子と困り果てた顔のお母さん。
「どうしたの?」
「うん。ちょっと風にあおられて、この子の持っていた風船が飛ばされちゃったの。そこの木の枝にひっかかっちゃって『取って』と泣かれているんだけど、あんな高いところじゃ取れないよ」
よくぞ僕に言ってくれました。猫の本領お見せしましょう。
「あの風船を取ればいいんだね」
「そうって、え?」
僕は飛び跳ねながら木に登り、風船についたひもをつかみ、そのまま地面に飛び降りた。
呆然としているお母さんと小さな女の子。僕はそんな小さな女の子の手に風船のひもを握らせると笑いかける。
「今度は気をつけてね」
「ありがとう、お兄ちゃん」
女の子も笑顔になる。お母さんも「ありがとうございます」と言って、頭を下げてくれた。
冒険を再開した僕。次に出会ったのは公園のベンチに座っているいおばあさんだ。何だか調子が悪そうだ。どうしたのかな?
「おばあさん。大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だよ」
「あまり大丈夫そうじゃないね。おばあさんの家はどこなの?」
「大丈夫だよ。すぐそこの角だから」
ふーん。そこの角なんだ。だったら……
「ちょっと待っててね」
僕はおばあさんから離れると、猫の姿に戻った。人間体より猫の姿の方が速く動ける。
おばあさんの家に着くと、若い女の人が庭で洗濯物を干していた。顔が似ている。恐らく娘さんだ。
「ニャーニャー」
鳴いてみせるけど娘さんには気づかれない。ならばこうだっ!
僕はジャンプすると娘さんが干しているハンカチをくわえて着地した。
「あ、こら」
気づいてくれた。後はハンカチをくわえたまま、娘さんが僕のことを見失わないスピートで逃げる。
「こらー、待て-」
いいぞいいぞ。このままおばあさんのところに行くぞ。
「!」
娘さんがベンチに座って、調子が悪そうなおばあさんに気が付いた!
「おっ、お母さんっ、大丈夫?」
これでよしと。あ、もちろん、ハンカチはベンチの片隅に置いておきますからね。忘れないようにお願いしますニャー。
冒険しているうちにおひさまもどんどん高くなってきてあったかくなってきた。気分も上々。
でもお腹も空いてきたし、そろそろ帰ろうかな。っと、ちょうちょが飛んでる。
いやいやいや、今の僕は人間体。ちょうちょなどに心を動かされたりはしない……
わーいわーいニャー。追いかけろっ!
そこから先のことはよく覚えていないんだけど、凄くお腹が空いたことで気が付いた。ちょうちょはどこかに行っちゃって、僕の体は泥だらけ。
しかもまずい。おひさまのいるところから見て、そろそろお姉ちゃんが学校から帰ってくる。急いで家に戻らないと。
「ただいまー」
良かったー。どうにかお姉ちゃんが学校から帰ってくるまでに戻れたぞ。
「ただいまー。ボローニャ。って、どうしたの、その体? 泥だらけじゃない」
あ……
「おかしいなあ。一日中、家にいてそんな汚れるはずないのに。ま、いいわ。お風呂場で洗ってあげる」
ニャッ!
「ほらほら逃げないの。綺麗にしてあげるんだから」
ニャッ! ニャニャニャーッ!
こうして僕の冒険はお姉ちゃんに洗われるというエンドで……ニャーッ!
読んでいただきありがとうございます。