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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第4章 ペナントレース開幕編
88/207

第88話「クローザーの条件」前編

 初勝利から一夜明け、目覚めたネネは見知らぬ天井に驚いたが、すぐに由紀のマンションであることに気付いた。

 昨日、疲れてたネネを気遣い、由紀がマンションに泊めてくれたのだ。時計を見ると午前十時だった。

 今日もナイターだから、十二時にドームに行けば間に合う、ネネは起きてリビングに向かった。


 由紀は既に出勤していて、キッチンにはたくさんの料理が並べられて「チンして食べてね」という由紀のメモが置いてあった。

 ネネが由紀の優しさに感動してると、テーブルの上には何社かのスポーツ新聞があり、自分のスマホにはLINEのメッセージが溜まっていた。

 メッセージは家族や石田たちからだった。ネネは慌ただしく返事を返し、由紀の料理を食べながら新聞に目を通した。


 新聞の一面にはレジスタンス初勝利を伝える記事や、サヨナラホームランを打った勇次郎を讃える見出し、それと、ふたりでお立ち台に上がりガッツポーズしている写真が載っていた。

 また自分が投げている写真と「羽柴寧々、初勝利」「羽柴寧々、次の目標はレジスタンス優勝」と言う見出しもあった。

(レジスタンス優勝か……我ながら大きなことを言っちゃったなあ……)

 ネネは苦笑いすると、テーブルを立ち、球場に行く準備を始めた。


 そして、午後六時、広島エンゼルスとの二回戦が始まった。

 しかし、この日は初回からレジスタンス打線が爆発した。

 毛利、蜂須賀の俊足コンビが塁に出て、明智、勇次郎がタイムリー。黒田もその後に続き、ダメ押しは斎藤のホームラン。

 大量リードのまま試合は終わり、13対5の快勝。


 また、三戦目も七回を終わった時点で、5対2とリード。ネネは八回に登板して無失点。

 最終回に、抑えの三好が二点取られるも5対4と逃げ切り、エンゼルスを3タテした。


 その後もレジスタンスの勢いは止まらない。金曜日からの対神宮ファルコンズ戦では、打線が爆発して前半だけで10点のリード。

 先発した柴田は五回を三失点でまとめ、10対5で逃げ切り、柴田に通算199勝目が付いた。


 次いで、Tレックス戦、横浜メッツ戦、と全球団との対戦が一巡したが、レジスタンスは広島エンゼルス戦以降はキングダム以外、負け越しがなく、何と貯金は4となり、順位もセリーグ2位に浮上した。


 毎年この時期のレジスタンスは早々と借金生活に入り、最下位をウロウロしてるのだが、今季は違う。この結果にファンは喜び、マスコミは春の珍事と騒ぎ立てた。


 そんなレジスタンス躍進の原動力はやはりこのふたり、ルーキーの羽柴寧々と織田勇次郎だった。

 中継ぎのネネはここまで勝ち試合の八回の場面を全て投げ、未だ失点ゼロで1勝負けなしという成績。

 また勇次郎はホームランを3本打ち、打率はベスト3入りしてる。

 このふたりの活躍が他の選手の刺激になっていた。


 しかし、その一方で一抹の不安もあった。

 それは、抑え(クローザー)を務める三好がイマイチ不安定なことだ。ここまでも失点が多く、セーブ失敗が二度もある。


 そして、迎えた4月16日の対キングダム戦のホームゲーム。

 ベテラン柴田が先発し、五回を2失点で凌いだ。その後は小刻みな継投で九回表に入り、3対2でリードの場面で三好が登板したのだが、再び乱調。

 四球を連発し、最後は主砲の中西に一発を浴び、逆転負けを喫した。

 勝てば柴田の栄えある200勝だっただけに、余計に後味が悪い試合になった。


 この結果を受け、試合後、今川監督と杉山コーチは三好を呼んで話し合いを行った。

 柴田の200勝目前でセーブを失敗したことで、三好は完全に自信を喪失していた。

 今シーズンは始まったばかりだが、これで三敗目を喫している。元々、三好はメンタルが強いわけではない。首脳陣は一旦、三好を抑えから外すことにした。


 三好が監督室から出て行った後、今川監督と杉山コーチは、再度、話し合いを行なった。

「さてさて、どうするよ、杉山コーチ。三好の代わりに抑えを決めないといかんが……」

「そうですね……誰が適任か……」

「抑え、と言っても誰でもできるわけじゃない。杉山さんの考える抑えの条件は何がある?」

「まずは三振が取れるボールがあること。そして、タフなメンタルですね」


 その条件を聞いて、ふたりはある人物を思い浮かべた。

「ひとりいるな、ウチには……」

 杉山コーチも頷いた。

「私も思い浮かびました。確かに適任かもしれません」


 その翌日、対キングダム二回戦が始まった。昨日、逆転勝ちを収めているキングダムは勢いがよく、初回から猛攻撃を仕掛けるが、レジスタンスも負けてはいない。

 この試合は乱打戦となり、最終回に突入、9対8でレジスタンス一点リードだ。


「すまないな、ネネ……クローザーなんて大役をやらせてしまって……」

 ブルペンで、先程八回に登板し、無失点に抑えた三好がネネに声をかけた。

「全然大丈夫です! それより、登板お疲れ様でした!」

 ネネはニッコリ笑った。


 この日、投手陣で配置転換があった。

 不調の三好に代わり、ネネが試合を締めるクローザーに抜擢されたのだ。

 そして、三好はクローザーに繋げる八回の登板を命じられて、今日は無失点で切り抜けていた。

 

「私……いつも八回を投げて、後は三好さんに、お願いします! って簡単に言ってましたけど、三好さんはいつもこのプレッシャーに耐えてたんですね……」

 初めての抑えとしての登板ということもあり、ネネは緊張のあまり顔が強張っていた。そんなネネに三好が声を掛けた。

「ネネ、抑え失格の俺が言えることじゃないけど……」

 三好は少し躊躇しながら話した。

「お前には三振が取れるストレートがある。メンタルもタフだし、クローザーの適正は充分あると思う。お前ならやれる。頑張ってこい!」

「はい、ありがとうございます!」

 ネネは三好に笑みを見せると、ライト側のフェンス裏に向かった。


 ライトフェンス裏で待機していると、壁の向こうからアナウンスが流れた。

「大阪レジスタンス、ピッチャー交代です、ピッチャー羽柴寧々、背番号41」

 今日から抑えが代わることを観客たちも知っている。ネネの名前を告げるアナウンスが響くと、壁の向こうから大歓声が飛び、派手なギターのイントロ音が流れた。


 クローザーの登場時には、選手が選んだ登場曲が流れる。登場曲は選手を紹介する名刺みたいなもので、選手個人の特色が現れる。

 ネネが選んだ曲は、相川七瀬の「Sweet Emotion」だった。リズムに合わせてゲートが開く。


「キタキタ! 頼むで、羽柴──!」

「ネネちゃん、頑張って──!」

 ネネの登場に声援が飛び、オーロラビジョンには、お馴染みの「Rising Cat」の文字と新たに付け加えられた「CLOSER」の文字が浮かび上がった。


「しかし、また、えらい懐かしい曲を持ってきたな。アイツが生まれる前の曲じゃねえのか?」

 ベンチで今川監督が由紀に話しかける。

「ええ、ネネのお母さんがファンで、子供の頃、よく聞いてた曲みたいです。でもノリが良くてネネにピッタリの曲です」

 由紀が笑いながら答える。


「Sweet Emotion」はポップなロックナンバー。ネネだけじゃなく、観客たちのボルテージも必然と上がり、ドームは熱狂の渦に巻き込まれた。

 

 そして、サビの「Sweet Emotion」で観客たちが合唱し、右人差し指を空高く掲げる中、ネネは最終回を締めるマウンドに立った。





















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