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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第4章 ペナントレース開幕編
87/207

第87話「ヒロインインタビュー」

 レジスタンス本拠地開幕戦。1対0で迎えた九回裏、ツーアウトランナー、二塁の場面。

 開幕からノーヒットだった織田勇次郎が、広島エンゼルス守護神の紅林からサヨナラホームランを放った。


 二塁ランナー明智がホームインし、続いて勇次郎がホームベースを踏むと、レジスタンスナインの手荒い祝福が待っていた。

「よくやった!」

「遅えんだよ、打つのが!」

 

 ようやく、勇次郎が歓喜の輪から抜け出すと、今川監督が満面の笑顔で出迎えてくれた。

「でかした! これでようやくチームも初勝利だ!」

「すごいよ、勇次郎! サヨナラホームランなんて!」

 今川監督のすぐ後ろにはネネがいて、祝福の言葉をかけてくる。

「あ、ああ……」

 勇次郎は口元に微かな笑みを浮かべた。


「織田くん、織田くん、ちょっといいかな?」

 ドームの関係者が勇次郎に声をかける。どうやら、ヒーローインタビューに選ばれたみたいだ。


「放送席、放送席、それからレジスタンスファンの皆さん、聞こえますか? 今日のヒーローインタビューは、レジスタンスを初勝利に導くサヨナラホームランを放った、ゴールデンルーキー織田勇次郎選手です!」

 お立ち台に上がった勇次郎のヒーローインタビューが始まった。


「ようやったぞ! 織田──!」

「こっからや─! ガンガン頼むで──!」

 スタンドから勇次郎に大歓声が飛ぶ。


(わ─、すごいなあ……)

 堂々とヒーローインタビューを受ける勇次郎を見てネネが感心していると、由紀がすっ飛んできた。

「ね、ネネぇ! 選ばれたよ! ヒーローインタビューだよ!」

「え……何で? 私なんてワンアウト取っただけだよ」

「そ、それがね……」

 由紀はスコアボードを指して説明する。

「え! そ、それ本当!?」

 ネネは心底驚いた顔をした。


「今まで打てなかった分、明日から打ちまくります。皆さん、応援ありがとうございました!」

 勇次郎のヒーローインタビューが終わり、スタンドから拍手が響いた。そして……。


「以上、織田選手でした! あ……それから、もうひとりヒーローインタビュー……いや! ヒロインインタビューです!」

 司会のアナウンサーに導かれたネネがお立ち台に上がった。


「さあ! 今日のもうひとりの勝利の立役者! 九回表、ナイスピッチングでレジスタンスの勝利を手繰り寄せ、自らもプロ初勝利をあげた羽柴寧々選手です!」


 ネネは照れながら帽子を取り頭を下げた。

「羽柴、初勝利おめでとう─!」

「よう抑えた、立派や─!」

「羽柴─! 惚れたで─、結婚してくれ──!」

 スタンドから歓声や笑い声が響く。


 そう……九回表のレジスタンスが負けている状況でネネが投げ、その裏に勇次郎がホームランを打ち逆転勝ちしたため、ネネが勝利投手になったのだ。


 インタビューの最中、ベンチに座る先発の前田に杉山コーチが労いの声を掛けた。

「前田、今日はよく投げた。結果的にネネが勝利投手になったが、本当の勝利投手はお前だぞ」

 そんな前田は涙を拭っていた。

「お、おい! 大丈夫か? 悲しむことないぞ、お前の実力なら、勝ち星はすぐにでも……」

 心配する杉山コーチに前田は首を振った。

「ち、違います、コーチ……ぼ、僕、嬉しくて……」

「前田……?」

「ね、ネネがいなかったら、僕はきっとこの場にはいなかった。それにネネとは紅白戦からずっと一緒に頑張ってきて……そんなネネが初勝利をあげたことが本当に嬉しくて……」

 前田は声を詰まらせ、涙を袖で拭った。


「良かったですね、ネネが初勝利なんて……」

 センターを守る毛利も目を潤ませながら、同じ外野手の斎藤に話しかけた。

「ネネがいなかったら、僕はイップスを克服できなかった。こうして試合に出れるのもネネのおかげです……」

「ああ……俺もだよ……」

 斎藤は左腕を触りながら、小さな声で呟いた。

(ネネが身体を張って自分や詩織を長濱から守ってくれた。今、自分が野球をやれて、詩織も幸せになれたのはネネのおかげだ)


「アイツら喋りはまだまだだな」

「ああ、しかし、初々しくていいなあ」

 蜂須賀と明智はお立ち台に上がっているネネと勇次郎を見ながら笑っていた。


 そんなふたりの後ろに黒田と北条がいた。

「勇次郎とネネがいなかったら、俺はずっと卑屈な気持ちで野球をしていたと思う……俺が変われたのはアイツらのおかげだ。そして、それは明智と蜂須賀も同じだよ……」

 黒田が感慨深げに話し、隣の北条を見ると、目に光るものが見えた。

「あれ? 北条さん、泣いてるんですか?」

「ば、バカ言え! 目にゴミが入っただけだ!」

 北条はそう言って目をゴシゴシと拭った。

(ネネ……初勝利おめでとう。お前は俺の恩人だ。萌音を失い、酒浸りになっていた俺を野球の世界に戻してくれた……俺が現役でいれるのも今年までかもしれない……だが大丈夫だ。俺がいる限り、お前を最高のピッチャーに導いてやる……)

 北条は固く心に誓った。


「はっはっはっ! いいねえ、いいねえ! ルーキー同士のヒーローインタビューは初々しくて!」

 上機嫌な今川監督の横で、広報の由紀は泣きじゃくっていた。

「おう、どうした? そんなにネネの初勝利が嬉しいのか?」

 今川監督が茶化すように言うと、由紀は頷いた。

「はい……嬉しいです……だ、だってネネは私の恩人ですから……」

「あん?」

「ね、ネネは私を変えてくれました……ネネは私の恩人なんです……」

 由紀は溢れる涙をハンカチで拭った。

「本当はショックだったんです……父からネネのお世話係を任命されたときは……広報部で役に立たないと言われたみたいで……でもネネは明るくて元気で前向きで……そんなネネを見習って、私は変わることができた……何度、ネネの明るさに救われたか分からない……だ、だからネネが初勝利を挙げたことが、自分のことのように嬉しいんです……」

「はっはっはっ、そうかそうか」

 今川監督は優しく笑った。

「う……うう……ネネ、ネネぇ……おめでとう……」

 由紀は嬉しくて泣き続けた。


 そして、今川監督はお立ち台に立つふたりを見ながら、あることを確信していた。

(羽柴寧々と織田勇次郎、やっとふたりが噛み合った。いける! 今年のレジスタンスは優勝を狙えるぞ!)


 ベンチの皆が見つめる中、インタビューは続いていた。

「羽柴選手、本拠地レジスタンスドームでのホーム開幕戦、そこで初勝利をあげた感想はいかがですか?」

「あ……えっと……嬉しいです! でもこれは前田選手が試合を作ってくれて、織田選手がホームラン打ってくれて……もっと言えば、チームみんなやファンの方たちの声援がくれた勝利だと思ってます!」

 パチパチパチ……。

 スタンドやベンチから拍手が飛んだ。

「女子プロ野球選手として念願の一勝をあげました。では次の目標はなんでしょう?」

「え? 次の目標ですか?」

 ネネは少し考える仕草を見せた後、にこやかにマイクに向かって宣言した。


「はい、私の次の目標はレジスタンスの優勝です! そのためにも頑張って投げていきます!」


『レジスタンス優勝』

 その発言にスタンドが一斉に沸いた。

「よお言ったで、羽柴──!」

「おお、今年こそレジスタンス二十年振りの優勝や──!」


「いいですね! 羽柴選手! 織田選手も同じ気持ちですか?」

 突然、マイクを振られた勇次郎は「え? あ、ああ、はい」と答えたので、スタンドは更に沸いた。


「ありがとうございました! チームを初勝利に導いたふたりのルーキーでした!」

 アナウンサーが締めてインタビューは終わった。ふたりは並んでガッツポーズを取った。

 パシャパシャとフラッシュが焚かれる中、勇次郎は小声でネネに話しかけた。


「お、おい、何だよアレ? いきなり優勝宣言するなんて?」

「いいでしょ? レジスタンスが優勝したら、勇次郎は日本一のバッターだよ!」

 ネネはキラキラした目で勇次郎を見つめ、勇次郎は苦笑した。


(……うん、やろう! 私の次の目標はレジスタンスの優勝だ!)

 カメラマンにカメラを向けられたネネは満面の笑みを見せた。



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