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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第3章 プロの洗礼編
75/207

第75話「本拠地初登板」前編

 オープン戦最終戦、レジスタンス対神戸ブルージェイズ戦が始まった。

 試合は六回を終わって、レジスタンスが2対1と一点リード。

 また四番争いも大詰め。この日も四番に座った勇次郎が打点を叩き出して、開幕四番の座をほぼ確定させていた。


 七回が始まると、ネネはブルペンで投球練習を始めた。

 杉山コーチからの話では、今日は八回に1イニング限定で登板予定だという。そして、その投球内容によって、開幕一軍の切符を手にするか、二軍に降格するかを決める、と伝えられていた。


「ネネ……」

 ある程度、肩を作り、ブルペンのイスに座っていると、本日先発だった前田が話しかけてきた。

 ノミの心臓、とバカにされていた前田だったが、一軍対二軍の紅白戦を経て覚醒。ここまでオープン戦では二勝をあげており、今季の先発ローテーション入りが確定。今日も先発して、五回を無失点と好投していた。


「前田さん、ナイスピッチング! 今日もまた無失点だったね!」

 ネネがまるで自分のことのように喜ぶと、前田は照れ笑いした。

「ありがとう……これも全部ネネのおかげだよ。ネネのピッチングが僕に勇気を与えてくれたんだ」

「ううん、私は何もしてないよ。全部前田さんの実力だよ」

 ネネはニッコリと笑った。

「そろそろ登板だよね……何か僕に手伝えることあるかな?」

 前田が心配そうにしている。

「紅白戦から一緒にやってきた下剋上メンバーは全員一軍に残りたいんだ」


 そう……紅白戦で二軍から上がったピッチャーたち、大谷と荒木も今回開幕一軍の切符を手にしていた。

「そうだよね、みんな揃って一軍に残ろうね」

 ネネはそう言うと、立ち上がった。

 七回の裏、レジスタンスの攻撃もツーアウトになった。このままいけば、八回の表、登板となる。ネネは大きく深呼吸をした。

 その時、ブルペンの電話が鳴った。


「ネネ、出番だ。いくぞ」

 電話を切った杉山コーチが声をかけてきた。

「はい!」

 ネネは返事をすると、帽子を被り、グラブを持ってブルペンを出た。

「ネネ! 頑張れ! 一緒に一軍に残ろう!」

 前田がエールを送り、ネネは笑顔を見せる。そして、登場口であるライトフェンス裏口に向かっていった。


「ネネ──!」

 通路を歩いている途中、由紀が駆け寄ってきた。

「由紀さん……」

「あ、表情が固いよ。スマイル、スマイル」

 由紀は口の両端を指で上げた。

「うん、スマイル、スマイル、だね」

 ネネも同じように口元の両端を上げ、笑顔を作ると、由紀を見つめた。

「由紀さん……本当にありがとう」

「え?」

「私がこうしてまたマウンドに行けるのは、由紀さんが私のクセを見つけてくれたおかげだよ」

 そして、頭を下げた。


 その言葉を聞いた由紀は涙が出そうになった。

(何言ってんのよ……お礼を言うのはこっちの方だよ)

 目をゴシゴシと拭った。

(少し前までは広報部のお荷物と言われ仲間外れだった。でも最近は皆、自分のことを認めてくれている。仕事もミスがなくなった。ネネのおかげだよ、ネネが私を変えてくれたんだよ……)


「由紀さん、じゃあ私、行ってくるね」

 ネネは頭を上げると、由紀に背を向けて歩き出した。

「ネネ……」

 由紀は大きく息を吸った。

「が……ガンバレ──! 負けるな! 羽柴寧々──!」

 由紀が大声でエールを送ると、ネネは右手を高々と上げて、真っ直ぐ歩いて行った。


 ネネがライトフェンス裏まで来ると、目の前に大きな扉が見えた。ホームでの試合の時、リリーフピッチャーはこの扉を開けてグラウンドに出て、マウンドに向かうのだ。

 マウンドへは「リリーフカー」か「歩き」かを選択できるので、ネネは歩きを選択した。

 扉の前で深呼吸をしていると、アナウンスが聞こえてきた。


「大阪レジスタンス、ピッチャーの交代をお知らせします。ピッチャー九鬼に代わりまして、羽柴、羽柴寧々、背番号41」


 扉の向こうで歓声が聞こえてきた。ネネは目を閉じて集中力を高めた。


「扉、開けます! 注意してください!」

 スタッフがネネに声をかける。

 ギイイイ……。扉が内側に開く。

「準備OKです。羽柴選手、お願いします!」

「はい!」

 目を開けたネネの目の前に、緑色の芝生と眩いライトが飛び込んできた。

 ネネはグラウンドに一歩踏み出した。


「ワアアアアア!」

 大歓声が背後から聞こえてくる。扉を出たすぐ後ろはライト側レジスタンス応援席。応援団の声援が響く。

「キタ──! 羽柴だ──!」

「待ってました──! やったれ──!」

「ネネちゃん、頑張って──!」


(す、凄い……!)

 ネネは背中に浴びせられるファンの声援に鳥肌が立った。

レジスタンスドームの本日の入場者数は一万人弱と聞いている。一万人と言えばちょっとしたライブの観客数と一緒だ。その人数が自分に声援を送っていると思うと胸が熱くなった。


「ネネ、頑張れよ!」

 センターから毛利が声をかけてくれる。

 ライトを守る無口な斎藤は左手を上げて笑みを浮かべエールを送る。

 ネネはふたりを見て微笑んだ。


 マウンドに向かう途中、振り返ってオーロラビジョンを見ると、そこには自分の映像と、ある文字が映し出されていた。


 それは「Rising Catライジングキャット 羽柴寧々」という文字。

 北海道ブレイブハーツ戦、新垣の試合後のインタビューがきっかけで付けられたネネの愛称だった。


 新垣がネネのことを肉食獣に例えて「Wild Cat」と評し、ホップするストレートをメジャーで見た「ライジングストレート」と、コメントしたのだが、それを伝え聞いた今川監督が「ははっ、それならアイツはふたつ合わせて『ライジングキャット』だな」と言ったため、球団がネネの愛称として名付けたのだ。


 ネネは微かな笑みを浮かべると、マウンドに向かっていった。



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