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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第3章 プロの洗礼編
71/207

第71話「北のエンターテイナー」前編

 北海道に着いた翌日、レジスタンスナインは札幌ブレイブドームに集結していた。

 ドームは野球とサッカーの試合が両方できるグラウンド移動式タイプの球場だ。

 この日はデーゲームということもあり、午前中にはドームに集まり練習予定。ネネは福岡アスレチックス戦に続き、先発を任されていた。


 ネネがユニフォームに着替えて、グラウンドに出ると勇次郎がストレッチをしていた。

「おはよ─、勇次郎。昨日のジンギスカンと味噌ラーメン美味しかったね─」


 昨日は結局、ジンギスカンをたらふく食べたあと、すすきののラーメン横丁でネネと勇次郎だけ、味噌ラーメンを食べたのであった。

「あ、ああ……」

 ニコニコしているネネとは対照的に、勇次郎は素っ気ない返事だ。


「そう言えば、昨日のお前の友達……石田だっけ?」

「うん」

「アイツ、良いヤツだな。人あたりも良くて」

 そんな勇次郎の言葉を聞いたネネはものすごく喜んだ。

「でしょ? 雅治はホントに良い人なの! 勇次郎が気に入ってくれて良かった─! これからも仲良くしてあげてね!」

 ネネは満面の笑みを浮かべた。


(うーん……やっぱりド天然だ。恋のライバルに仲良くしろとは……)

 広報の仕事でグラウンドにいる由紀は、ネネの発言を聞きながらそう思った。


 そんな由紀の元へ、北海道ブレイブハーツの広報が声をかけてきた。

「あの……浅井さん」

「はい、何でしょう?」

「ウチの新垣から、羽柴選手に頼みがありまして……ちょっと、話を聞いてもらえませんか?」


(何だろう?)

 由紀は広報に連れられ、ドーム裏のブレイブハーツ側通路に向かった。

 そこには、ひとりの茶髪色黒の男がいた。ブレイブハーツの新垣翼だった。新垣は由紀を見ると、白い歯を見せて握手を求めてきた。

「やあやあ! よく来てくれました。新垣です」

 そして、人懐っこい笑顔を見せる。

「は、はい……」

「実は羽柴さんに頼みがありまして……」


 新垣の頼みを聞いて由紀はあ然とした。

「ほ、本気で言ってるんですか!? それ!?」

 新垣は親指を立てウインクする。

「オフコース!」


 新垣の頼みというのは、試合前にパフォーマンスを行うので、ネネも参加してほしいというものだった。

 新垣は「北のエンターテイナー」と呼ばれている。北海道ブレイブハーツを地域密着のチームにしたい、ブレイブドームを満員にしたい、球場に足を運んだお客さんに喜んでもらいたい、その一心で様々なパフォーマンスをしてきた。

 昨年はドームの天井から降りてくるという危険なパフォーマンスもしている。それに比べれば、今回の件は危険じゃないが、流石に由紀の一存では決められないため、今川監督とネネに了解をとることにして、返答を一旦保留にした。


 レジスタンスベンチに戻り、今川監督にその内容を説明すると「はあ? マジか!?」と、初めはびっくりしたが、新垣がドームに来るお客さんを喜ばせたい、という理由を話すと、笑って承諾した。


 続いて、ネネにも同じことを話すとネネも「え!? 本気ですか!?」と驚いた。

「い、嫌なら断るよ」

 由紀がそう言うと、ネネは少し考えた末「ファンサービス……なんですよね? だったら……私、やってもいいです」と、はにかみながら承諾した。


 そして、ネネはドーム通路にて新垣と初めて対面した。

「初めまして! 新垣翼です、よろしく!」

「は、羽柴寧々です、よろしくお願いします……」

 ネネはペコリと頭を下げて、新垣と握手をした。

「いやあ、相手役が急遽、風邪でダウンして困ってたから助かるよ! ありがとね!」

 新垣は白い歯を見せてニコニコしている。

「は、はい、私でお役に立てるなら全然……ていうか、本当に私なんかで大丈夫ですか?」

「オッケー、オッケー! キミ可愛いから、ノープロブレムだよ!」

 新垣はネネの背に手を当てて、メイクルームに連れて行く。そんなネネわ、由紀は心配そうに見守った。


 その頃、ブレイブドーム観客席の三塁側にはネネの同級生である石田雅治の姿があった。

 オーロラビジョンには『大阪レジスタンス 先発 羽柴寧々』の名前が光り輝いている。石田はネネの名前を見ながら、昨日のことを思い出していた。


(織田勇次郎……アイツがネネとあんなに親しげとは意外だった。確かにネネはフレンドリーで、誰にでもあんなカンジだけど、織田勇次郎に対する態度は何か違った。そう……まるで何か自分と同じレベルで話せる同士というか……尊敬の態度が含まれてるような雰囲気だった)

 石田は勇次郎に密かな嫉妬心を抱いていた。


 そして、午後二時になると、後攻のブレイブハーツが守備に付き出した。

 だが、その時、観客は異変に気付いた。ブレイブハーツのお祭り男、新垣翼の姿が無いのだ。

 観客がザワザワしだすと、急にドームの照明が消えて真っ暗になった。

 やがて、甘い音楽が流れるとセンターにスポットライトが当たった。センターは新垣のポジションだ。


 すると、突然、レフト側の壁が開き、リリーフカーを改造した大きな車が現れた。

 呆気に取られる観客と選手たち、車の後部は大きな円形の舞台になっている。

 車がスポットライトが当たるセンターに停まると、一台の車が登場した。こちらはリリーフカーで、車には野獣のマスクを被り、舞踏会の礼服を着る男が乗っていた。

 野獣は車を降ると、初めに現れた車の後ろ部分の円形の舞台に上がった。


 そして、もう一台車が現れた。こちらも同じリリーフカーだが、車には栗色のロングヘアに黄色のドレスを着た女性が乗っていた。

「わ──! キレイ!」

「お姫さまみたい!」

 観客から歓声があがった。ドレスを着た女性は車を降りると、野獣が待つ舞台に上がった。野獣は両手を差し出し、女性はその両手を取った。


「あれ? このシチュエーションと音楽って……?」

 何かに気付いた観客たちがざわつきはじめた。

「ディズニーのミュージアムのアレじゃん……」


 テーマ曲が流れる中、スポットライトが当たる円形の舞台の上、音楽に合わせて野獣と美女はダンスを踊った。それは、まるでミュージカル映画のようだった。

 観客がその優雅な動きに見惚れる中、突然、野獣が被り物を脱ぎ捨てた。すると被り物の下から新垣翼の顔が現れた。野獣の正体は新垣だった。

 まさかの新垣の登場に観客は大興奮。キャーキャー、と黄色い声が飛んだ。


 そこで、観客はある疑問を感じた。野獣の正体は分かった。では、もうひとりの主役「美女」は誰なのか? と。

 観客は新垣とダンスを踊る美女を凝視した。女性の栗色のロングヘアは揺れ、笑顔が眩しい。スレンダーな体型に黄色のドレスが映え、ダンスの動きも優雅だ。皆、美女に見惚れていた。


 レジスタンスベンチでも、ふたりの踊りを見つめていたが、今川監督だけは笑いを堪えていた。

「ククク……猫を被る、とは、よく言ったもんだ。皆、騙されてやがる……」


(猫を被る……?)

 勇次郎は思わずベンチ内にネネの姿を探した。

(あれ? いない……ま、まさか……!?)

 その時、オーロラビジョンに美女の顔が映し出され、レジスタンスベンチから一斉に声が上がった。


「あ、あ──! あ、アレ、ネネじゃないか!?」

 化粧が濃くてウィッグをしているが、美女の正体はネネだった。今川監督は大笑いした。

「はっはっはっ、やるじゃね──か、新垣の野郎!」


 やがて、ダンスが終わると、ふたりは観客に頭を下げた。新垣がマイクを持ちスピーチをする。

「皆さん! 今日は札幌ブレイブドームへようこそ!」

 スタンドから歓声と拍手がおこる。


「試合前のセレモニーはいかがでしたか? 僕のお相手をしてもらった女性は、今日の対戦相手、大阪レジスタンスの先発投手、羽柴寧々選手です!」

 パチパチパチ……。拍手がおこり、ネネは頭を下げた。


「ネネちゃん、可愛い──!」

 スタンドから歓声と拍手が飛ぶ。


 そして、新垣が礼服を脱ぎ捨てると、中からユニフォームが現れ、背番号「1」が映し出された。

「キャ──!」

 派手なパフォーマンスに、スタンドのボルテージが上がった。


「それでは、皆さん、北海道札幌ブレイブハーツと大阪レジスタンスのオープン戦をお楽しみください!」

 そう言うと、オーロラビジョンにウインクをした新垣のドアップが映し出された。

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