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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第3章 プロの洗礼編
65/207

第65話「キミが思い出になる前に」

 アスレチックス主将の城崎を打ち取ることで、不安を自信に変えたネネは完全に自分を取り戻した。

 続く五番バッターはショートフライ。次の六番バッターを三振に打ち取りスリーアウト。

 失点はホームランのみの一点で食い止めた。点数は6対1のままだ。


「ネネー、お疲れ──!」

 ベンチに戻ってきたネネを由紀が笑顔で出迎えた。

「由紀さん、ありがと──!」

 プロ初登板を終えたネネはホッとした顔を見せた。

「ネネ……疲れてるとこ悪いんだけど、初登板の感想を聞いていい? これも広報の仕事だから……」

「あ、全然いいです! 何でも聞いてください!」

 ネネは笑顔を見せた。


 由紀はネネのコメントをまとめる。

「じゃあ、最後の質問ね。マウンドに上がる前に織田勇次郎と何か話してたけど、何を話してたの?」

「あ……」

 ネネは先程の勇次郎とのやり取りを思い出した。

「ど、どうしたの? 内容によっては公開しないから大丈夫だよ」

「あ、う──ん、何ていうか、おまじないって言うか、景気付けって言うか……」

「?」

「由紀さん、ごめんなさい。内緒でお願いします」

 ネネは照れたように笑った。


 一方のアスレチックスベンチ。二回の表の守備に付こうとする石川を久保監督が止めた。

「ああ、石川、今日はもういい交代だ」

 石川の代わりに、短髪の精悍な男がレガースを着けている。

「あ……長瀬さん……」


 レガースを着けている男の名前は長瀬慎也。アスレチックスの正捕手で背番号「2」が見える。

 強気なリードに加えて、強肩強打の頼れる守備の要だ。今日は試合には出ない予定だったが、急遽、試合に出ることになった。

「石川、長瀬のリードを見て勉強しろ」

 監督が石川を諭した。


「はは、六点も取られたから懲罰交代だな」

 松尾が石川を茶化した。

「そうですね」

 しかし、石川は素直に聞いている。

「おっ、どうした? 今までなら突っかかってきたのに?」

「いや、自分の実力は分かってますから……今日は長瀬さんのリードを勉強させてもらいます」

 そう言うと、石川は長瀬の動きを観察するため、グラウンドを見つめた。


(……ふうん、コイツ変わったな)

 松尾は真剣な眼差しでグラウンドを見る石川の横顔を見つめた。

(羽柴寧々の球を捕球できずに弾いたという話は聞いた。それからコイツの練習態度は変わった)

 松尾は三塁側ベンチを見つめる。

(お山の大将だった石川を改心させるとはな……羽柴寧々か……)


「松尾、そろそろブルペンに行ってくれ」

 ぼんやりしていると、監督から声がかかった。

「今日は試合後半からって聞きましたが……」

「予定が変わった。悪いがブルペンに行ってくれ」

「はあ……」

(敗戦処理かロングリリーフか? まあいい、考えるな。いつものことだ。粛々と投げるだけだ)

 松尾はグラブを持ってブルペンに向かった。


 その後、試合は硬直した。

 長瀬のリードでピッチャーは生き返り、レジスタンスは無得点が続く。

 また、ネネも好投を続ける。ランナーは出すものの要所を締めて得点を与えない。


 その頃、ブルペンで肩を作った松尾はモニターでネネの投球を見つめていた。

(球種はストレートとカーブのみか。だが、その二種類の球種が一級品。またキャッチャーのサインに首を振り、自我を通す強い精神力も持っている……)

 松尾は苦笑した。

(まるで若い頃の俺にそっくりだな。俺も球種はストレートと落差の小さいスプリットフィンガーファーストボールだけだった。それでも、自慢のストレートは常時150キロを超え三振の山を築いた。時には監督やコーチ、先輩キャッチャーとも衝突した。でも決して自分を曲げなかった)


「羽柴寧々か……」

 松尾はモニターを見ながら独り言を呟いた。

(なぜだろう……アイツを見ていると、昔の自分を思い出す。地位も名声も関係なく、ただ野球が楽しくて、チームのためにがむしゃらに腕を振っていたあの頃を……。俺も……できることなら、もう一度、あの頃のピッチングをしてみたい……)

 だが、頭を振ると唇を噛みながら右肩を触った。

(この肩が……この肩の故障さえなければ……)


 その時だ。ブルペンの電話が鳴り、電話を取った投手コーチが松尾に呼びかけた。

「松尾、出番だ」

 その言葉を聞いた松尾はブルペンを出て、グラウンドへ歩き出した。


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