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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第3章 プロの洗礼編
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第58話「過去からの復讐者」中編

 会食が終わり、ネネと斎藤は沖田と詩織がレンタカーで店を去るのを見送っていた。


「羽柴、ありがとうな。おかげで詩織に良いプレゼントができたよ」

 車が見えなくなるのを待って、斎藤がボソッと口を開いた。

「いえいえ、詩織さんが喜んでくれて良かったです。それに詩織さん、本当に綺麗で優しくて素敵な女性ですよね」

「ああ、詩織は野球部でも人気者だったよ」

 詩織のことを話す斎藤はとても優しい目をしていた。そんな斎藤をネネはじっと見つめた。

「? どうした?」

「詩織さんが言ってました。斎藤さんは怖い顔をしてるけど本当は優しい、って。私もそう思います」

 ネネはニッコリ笑った。斎藤は照れているのか何も言わずに顔を背けた。


 その後、ネネは斎藤と別れ、由紀と合流してショッピングに出かけた。

 ショッピングが終わり、ホテルに帰ったときはもう夜だった。由紀は、大阪で仕事があるから、とネネをホテルに送った後、空港へ戻ったので、ネネは買い物袋を持ったまま、ロビーをテクテクと歩いていた。

 すると、斎藤が携帯をかけながら走っていくのが見えた。


(あ……斎藤さん)

 斎藤はネネに気づかなかったが、ネネの耳には、会話の一部が聞こえてきた。

「落ち着け、沖田……」

 と言う声が聞こえ、その後に「なぜ羽柴が……」と言う自分の名前を言う声も聞こえたので、ネネは気になって斎藤の後を追った。


 斎藤はホテルを出て、人目につかない場所で少し会話をした後、電話を切ると、ため息をついた。

「斎藤さん……」

 ネネが声をかけると、斎藤は驚いていた顔をしていた。その顔は真っ青だった。

「羽柴……なぜ、ここに……?」

「ごめんなさい。電話の会話が聞こえちゃいました。沖田さんや私の名前が聞こえて……何かあったんですか?」


 斎藤はホテルに併設してある公園のベンチにネネを座らせた。

「羽柴……今から、話すことは絶対に他言しないでくれ」

「は、はい」

「沖田から連絡があった。実は……詩織が拉致……さらわれたらしいんだ」

「え、ええ!?」

「さらった人間は分かっている。長濱という、高校時代の野球部の元メンバーだ」

「じゃ、じゃあ、早く警察に連絡を……」

「できない……アイツは暴力団組員だ。それも千野組の……」

 ネネはその名前を聞いてびっくりした。

千野せんの組」、新人選手を対象とした対暴力団講習でその名前は聞いたことがある。関西に本拠地を置く指定暴力団で、絶対に関わり合いになるな、と習った。


「な、何で? 何でその人が詩織さんをさらったの?」

「俺を恨んでいるからだ……」

「え?」

 斎藤は高校時代の回想を始めた。


 高校時代、詩織は野球部のマネージャーだった。明るい性格で誰からも好かれていた。

 だが、そんな詩織をある野球部員が狙っていた。それが今回、詩織をさらったという「長濱」という男だという。

 長濱は補欠で素行も悪く、キャプテンである沖田と斎藤は注意をしていた。

 そして、斎藤たちが三年生の最後の大会前、事件は起きた。


「長濱は詩織を力づくで手にいれようと、部活帰りに詩織を襲った……」

 斎藤はうつむきながら話した。

「俺は以前から長濱の不穏な行動が気になっていたから、詩織を陰ながら見守っていた……そして、その日……長濱が詩織を襲うのを目の当たりにした」


 長濱は人気のない廃墟に詩織を強引に連れ込み、持っていたナイフで脅し、詩織を乱暴した。

 斎藤が駆けつけると、長濱は詩織に覆い被さっていた。斎藤は長濱を詩織から引き離した。詩織は意識を失っていた。

 すると、引き離された長濱は斎藤にナイフを向けた……。


「そのナイフで俺は利き腕の左手を傷つけられた」

 斎藤は左手を押さえた。ネネは思わず両手を口に当てた。

「血を見た長濱はびびって逃げた。そして、俺はすぐに詩織を病院に運んだ」

「そ、それで……?」

「利き腕を怪我した俺は夏の予選出場を辞退した。そして、俺の高校野球は終わった…」

 

 ネネはその時、斎藤がいつも長袖を着ている理由ワケが分かった。斎藤の左腕にはその時、傷つけられたナイフの傷跡があるのだ……。


「それで……その長濱って人はどうなったんですか? それから詩織さんは……?」

「長濱は……そのまま高校を退学した。その後、親戚筋の千野組に入ったと噂で聞いた」

「……」

「そして、詩織は……恐怖のあまり、乱暴された時の記憶を全て失っていた」

「え!?」

「詩織にとっては、それが一番良かったのかもしれない……俺は詩織が貧血で倒れたと説明した。そして詩織にはガラスで手を切ったと説明した」

 ネネは斎藤を見つめる。

「……また、倒れた詩織を病院に運んだのは沖田だと話した。前から沖田は詩織に好意を寄せていたから、ふたりが付き合うのに、時間はかからなかった」

「斎藤さん……」

「……誰にも話すつもりはなかったんだがな」

 斎藤は悲しく笑う。

「でも……長濱って人は、なぜ、今頃になって詩織さんに目をつけたの?」

 ネネが疑問をぶつける。

「それは分からん……ただ、沖田の話だと、長濱は傷害で最近まで刑務所にいて、今回は組長の付き人で沖縄に来ていると言ったらしい。それと……」

「それと、何?」

「長濱は沖田に詩織を無事に帰してほしければ『斎藤と羽柴寧々を国際通りのホテルに連れてこい』と言ったみたいなんだ……」

「わ、私を……?」

 ネネは絶句した。


 斎藤の話を聞いた後、ネネと斎藤はタクシーで、長濱から指定されたホテルへ向かっていた。

 斎藤はひとりで行く、と言ったのだがネネは無理矢理ついてきた。自分が行かなくて、詩織を危険な目に遭わせたくないからだった。


「あの……斎藤さん」

「何だ?」

「そもそも、何で千野組の組長さんは、プロ野球のキャンプに来てるんですか?」

「考えられるのは野球賭博だが、まだシーズン始まってないから、正直分からん……」

 斎藤はそう言うと窓から外を見た。街の灯りが見える。タクシーは那覇市内に近づいてきた。


 やがて、タクシーは指定されたホテルに着いた。そこは那覇市内の中でも一番高級なホテルだった。

 タクシーを降りたネネと斎藤がロビーに入ると、一見するとサラリーマン風の男が声をかけてきた。

「……斎藤さんと羽柴さんですか?」

 斎藤が頷くと、ふたりは最上階に案内された。


 エレベーターで最上階に上がると、そこは豪華な絨毯が敷かれたエリアだった。

 男に導かれて、突き当たりの部屋まで行き、男がドアをノックすると「入れ」という声が聞こえた。

 ドアを開けて部屋に入ると、そこはスイートルームのようで、豪華な家具が置かれ、サラリーマン風だが体格がよい黒服を着た男が数人いた。部屋には大理石のテーブルがあり、小柄で目付きが悪い男が座っていた。


「長濱……」

 斎藤が眉間にシワを寄せて男の名前を呼ぶと「久しぶりだな斎藤」と、長濱と呼ばれた男は不快な笑みを浮かべた。


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