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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第2章 レジスタンス内紛編
33/207

第33話「アンタッチャブルな男」

 今川監督に促され、織田勇次郎が部屋に入ってきた。その姿を見た二軍選手たちはざわめいた。


「お、おい……ドラフト一位ルーキーの織田勇次郎だぜ……」

 当然、ネネも驚いた。

(な、何で、勇次郎が二軍メンバーに入るの?)


「お前らが驚くのも当然だよな。まあ、どうしてもコイツが俺と一緒にやりたいって言うからよ。今回特別に二軍メンバーに入れてやったわけよ」

 今川監督が笑いながら説明すると「デタラメ言わんでください。不可抗力ですよ。こうなったのも」と、勇次郎は憮然とした表情で言い放った。

「とりあえず、スターティングメンバーを確認しよう」

 北条が監督からもらったメモ用紙を広げた。


 メモ用紙には、スタメンの名前と打順が書いてあった。勇次郎は四番サード、北条はキャッチャーで八番だ。

(投手陣は……?)

 ネネはメモに目を走らす。二軍メンバー15名の内、自分を入れてピッチャーは4人いた。

 名前の後に予定イニングが書いてあり、、ネネの名前の後ろには八〜九回と書いてあった。

(一番後ろで投げるのか……)

 ネネの鼓動が高鳴った。

「投手陣はあくまで予定だから、試合展開によっては登板の前後はあるからな」

 今川監督がそう説明し、緊急ミーティングは終わった。


 各自が部屋に戻る中、ネネは勇次郎を呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。勇次郎……」

「……何だよ?」

 勇次郎は不機嫌そうに振り向いた。


 ふたりはホテルの庭の海が見えるテラスに腰掛けた。

 空には満月、目の前には真っ暗な海が広がり、ザザン、ザザン……と波の音が聞こえた。

「何でよ、何でアンタが二軍のメンバーに入るのよ、一軍にいたんじゃないの?」

 ネネが勇次郎にそう尋ねると「一軍に居場所がないんだよ」と無愛想な顔をして答えた。

「え? どういうこと?」

「一昨日、ある主力メンバーを怒らせちまって、一軍に居られなくなっちまったんだ」

「もしかして、明智さん?」

「いや違う、黒田さんだ」

「黒田さん?」


 黒田寛治……35歳、ポジションは三塁手サード、打順は五番で背番号は「3」。

 レジスタンスを代表する選手だが、近年、成績はピークに比べ下降している。しかし、生え抜きの重鎮ということで、チーム内で彼に物申す人はおらず、また球団幹部との太いパイプもあることから、チーム内ではアンタッチャブルな存在になっている男だ。


「なかなかの大物を怒らせたわね……」

 ネネは勇次郎らしいなあ、と逆に感心した。

「まあな、それとポジションが被っているから、どっちにしろ明日の試合には出れない。それで監督に相談したら、二軍メンバーに入ることを勧められたんだ」

 勇次郎は真っ黒な海を見つめながら答えた。

「あと、明日一軍の指揮を執る、土田ヘッドコーチがどうも気にいらなくてな……」


 土田ヘッドコーチは、ここ数年、レジスタンスのヘッドコーチを務めており、昨年は監督がシーズン途中で休養したため監督代行を務めた。

 今季はそのまま監督に就任と思われていたが、球団社長の鶴のひと声で今川が監督に就任したため、再度ヘッドコーチになった経緯があり、噂では今川監督を逆恨みしているという。


「球団幹部にゴマスリ、黒田さんや一部の主力選手の言いなり、他の選手には威張り散らす最低なヤツだよ」

 勇次郎は吐き捨てるように言った

「多分、今回の監督解任の黒幕はこの土田コーチと黒田さんだ。黒田さんも今川監督だけには頭が上がらないって言うからな……恐らく明智さんが殴られたと聞いて、今川監督を辞めさせるチャンスだと思ったんだろう」

 ネネは勇次郎の話を黙って聞いている。

「最低だとは覚悟していたが、この球団がここまで腐ってるとは思わなかった。クソ……こんな球団、やっぱり入団するんじゃなかったぜ」

 勇次郎は悔しそうに吐き捨てる。


「じゃあ、変えようよ」

「は?」

「明日の紅白戦に勝って、私たちでレジスタンスを変えようよ、ね?」

 ネネは勇次郎に向かってニッコリ笑いかけた。

 月に照らされ、ネネの顔が輝いて見えたので、勇次郎は一瞬、ドキッとした。


「また大口叩いてんな、小娘の分際で」

 すると、急に後ろから声がしたので、ふたりは振り向いた。そこには口元に湿布を貼った明智と、明智より少し小さな男性が立っていた。

「明智さん……それと蜂須賀さん…」

 勇次郎が呟く。


 明智と一緒にいる男は「蜂須賀吾郎」。ポジションは二塁手セカンド、打順は三番を打っている。長打力はないがアベレージヒッターで足も速く守備も上手い。

 25歳で背番号は「4」、三年前のドラフト一位の選手だ。

 明智より入団は後だが同学年。また明智と二遊間のコンビを組むことから公私共に仲が良い。


「お前か? 隼人に喧嘩を売ったっていう、羽柴寧々っていう生意気な女は?」

 蜂須賀はネネを挑発するような言い方をした。

「そうですけど、それが何か?」

 ネネはムッとした顔で答えた。

「クク……変わらねえなあ、その強気な態度。気にいったぜ、今ここで謝れば俺らの舎弟にしてやる」

 明智は笑みを浮かべた。

「それと織田……お前もだ。黒田さんはご立腹だが、床に頭を擦り付けて土下座すれば許してやるって言ってる……どうするよ?」

 ふたりはニヤニヤして、勇次郎を挑発した。


 勇次郎は見るからに不愉快な顔をして、何か言い返そうとしていたが、それより先にネネがふたりに向けて、右まぶたを引き下げて舌を出すと、アカンベーをした。

「な……!?」

 それを見た勇次郎はククッと笑った。

「明智さん、蜂須賀さん、これが答えですよ」


「……上等だよ。明日、お前らふたり、叩きのめしてやるよ」

 明智はそう言うと、蜂須賀と一緒に去っていった。


 ネネと勇次郎は顔を見合わせると笑った。

「これで、明日は勝つしかなくなったな」

「あら? 初めからそのつもりでしょ? 明日は頼むわよ、しっかり打ってよね」

「お前こそ、しっかり抑えろよ」


 空には煌めく冬の星座。明日の決戦を前に沖縄の夜は更けていく。






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