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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第11章 史上最大の決戦編
203/207

第203話「Sweet Emotion」

 土煙が上がった。

 頭からホームベースに飛び込んだ勇次郎。ホームを死守するキャッチャー矢部。

 ペナントレース最終戦、勝った方が優勝という大一番。勝負の行方はホームベースでのクロスプレーとなり、審判の判定に全てが委ねられた。


 選手や観客たちは固唾を飲んで判定を待った。中には顔を覆い、判定が見れない人もいる。

 しかし……ネネはしっかり顔を上げていた。


 土煙が収まり、審判が状況を確認した。

 ……長い沈黙。そして、審判は見た。

 ホームベース上、勇次郎の手がキャッチャーミットをくぐり、ベースをタッチしている光景を──。


「セ……セーフ! セ──フ!」

 審判が右手を横に上げ、レジスタンスドームに大歓声が響き渡った。


 勝ったチームが優勝……この史上最大の決戦を制したのは大阪レジスタンスだった。

 九回裏、織田勇次郎の劇的ランニングホームランで6対5のサヨナラ勝ち。そして、この瞬間レジスタンスの19年振りの優勝が決定した。


 審判のコールと同時に真っ先に今川監督がベンチから飛び出すと、勇次郎の元へと走り、倒れている勇次郎を抱き起こした。


「よくやった……」

「か、監督……」

「よくやった……でかしたぞ、勇次郎……」

 今川監督に抱きしめられた勇次郎は顔に冷たいものが当たるのを感じた。それは今川監督の涙だった。

「……ありがとうございます」

 勇次郎は照れ笑いしながら、今川監督の背に手を回した。


 また、レジスタンスベンチから、次々と選手が飛び出してくる。

「おいしいところ持っていきやがって、この野郎!」

 明智が勇次郎の背中をバンバンと叩いた。明智の目にも光るものが見える。

「やったな! 勇次郎!」

「でかした!」

 ナイン全員からも手荒い祝福を受けた。


 一方、歓喜に湧くレジスタンスを尻目にキングダムの選手たちがベンチに引き下げてくる。

 帽子を目深に被る沢村の背を鬼塚監督が優しく叩いた。中西と渡辺も悔しそうな顔をしながらベンチに戻る。

 そんな皆の姿を見ていた伊達の目からは涙がどっと溢れた。

「わ、私のせいだ……私が……私がネネを打っていたら、こんなことには……! あああ……わああああああ!」

 伊達はベンチに突っ伏して号泣した。


「伊達……泣くな」

「そうだ。お前のせいじゃない」

 中西や渡辺が声を掛けるが、伊達は首を振りながらワンワンと泣き続け、そんな伊達に成瀬が寄り添った。

「美波……また頑張ろう……」

「で……でも、私、もうキングダムには……」

 成瀬は涙を堪えて、伊達の背中を優しく抱いた。

「なんくるないさー、だよ、美波」

 

「よ──し! 監督を胴上げだ!」

 グラウンドでは、黒田の号令で今川監督の胴上げが始まろうとしている。

 記者やカメラマンたちが胴上げをカメラに収めようと、グラウンドに雪崩れ込む中、勇次郎は胴上げの輪に加わらず、ネネの姿を探していた。


 そして、勇次郎はようやくネネの姿を見つけた。ネネはベンチを出た場所で由紀と並んで立っていた。

 勇次郎はネネに歩み寄った。勇次郎に気付いた由紀はネネの背中を押した。


 ネネと勇次郎は互いに見つめ合った。先に口を開いたのはネネの方だった。


「ば……バカじゃないの……」

 ネネの目は真っ赤だった。

「誰がどう見ても、アウトのタイミングじゃない……何で走ってんのよ……」

 だが、口調とは裏腹に口元には笑みが浮かんでいた。


「約束を……守りたかったんだ……」

 勇次郎が口を開く。

「必ず一点取る、ってお前と約束した。だから走った。お前との約束を守りたくて、走ったんだ」

 その言葉を聞いたネネの目からは涙が溢れた。

「な……何、ワケの分かんないこと言ってんのよ……」


「そ──れ! そ──れ!」

 マウンド付近では今川監督が胴上げされ、選手たちの喜びの声が聞こえてきた。ネネはその光景を見て顔を手で覆った。

「わ、わ〜ん……嬉しいよお……優勝だよ……勇次郎、私たち優勝したんだよ……」

 ネネは嬉し涙を流した。勇次郎は優しく微笑んだ。

「そうだ。優勝したのは俺たちだ」


 由紀も目に涙を溜めながらふたりを見つめた。勇次郎が口を開く。

「お前に言わなくちゃいけないことがあるんだ……」

「え……?」

 ネネは涙を拭うと勇次郎を見つめた。

「お、俺……」


 その時だ。今川監督の胴上げを終えた選手たちがふたりの元に駆け寄ってきた。

「ふたりともこんな所にいたのか!」

「今日の勝利の立役者だ! こっちに来いよ!」

 皆がネネと勇次郎を引っ張った。


「ちょ、ちょっと……」

 由紀は止めようとするが、あっという間にふたりは連れ去られた。

 そして、ネネと勇次郎の胴上げが始まった。スタンドからは拍手が鳴り響く。


「さあ! 今川監督に続いては今年のレジスタンスを引っ張ったルーキー、織田勇次郎と羽柴寧々の胴上げです!」

 実況席が叫ぶ。

「わっしょい! わっしょい!」

 ネネと勇次郎はふたり同時に宙に舞った。


「あ──あ、せっかくのいいムードだったのに……」

「はっはっはっ、この方がふたりらしいだろ」

 胴上げを終えた今川監督が、いつの間にか由紀の隣に来て笑った。


 今川監督と由紀は宙に舞うネネと勇次郎を見つめた。

 オーロラビジョンには『大阪レジスタンス、優勝おめでとう』の文字が浮かび上がっていた。スタンドの観客たちは誰も帰らず、皆、19年振りの優勝の味を噛み締めていた。


 宙に舞うネネと勇次郎は目が合うと、お互い微笑んだ。

 笑顔のふたりの胴上げはずっと続いた。






これにて第11章「史上最大の決戦」編、完となります。

そして…長きに渡り書いてきたこの物語も次回最終章を持って終了となります。最終章は後4話になる予定です。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。あと少しですので、お付き合いいただけると嬉しいです。

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