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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第11章 史上最大の決戦編
193/207

第193話「反撃のレジスタンス」後編

「レジスタンス、代打のお知らせです。一番センター池田に代わりまして、黒田、背番号3」


 ドームに「チャゲ&飛鳥」の「yah yah yah」が流れ、ベンチから黒田が現れた。黒田は怪我で今季絶望と言われていたが、まさかの登場に観客たちは大興奮だ。


「おら、見せ場だ! 悔いのないスイングをしてこい!」

 今川監督に背中を叩かれて、黒田がベンチを出た。


「流石、監督! 本当の代打の切り札は黒田さんだったんですね」

 由紀が手を叩いて感心する。

「まあな、でもこれも全て、島の実績があるから……ん……?」

 今川監督がグラウンドを見つめる。今度は鬼塚監督が出てきて、ピッチャー交代を告げた。


「キングダム、ピッチャー交代のお知らせです。デビットに代わりまして、篠田、背番号53」

 キングダムは何とここで左ピッチャーに交代した。


「あ……あらら……?」

「ちょ……ちょっと何やってんですか──!」

 由紀が今川監督の首を絞めた。篠田は変則サイドスローのピッチャーで今季は左打者を.089と抑え込んでいる。黒田は左バッターのため、圧倒的不利な状況に変わってしまった。


(フッ……まだまだ青いな、今川よ)

 鬼塚監督がベンチでほくそ笑んだ。


(驚いたな……)

 一方、ピッチング練習を始めた篠田を見ながら、黒田は心の中で呟いていた。

(監督の言った通りだ……)

 黒田は先程の今川監督との会話を思い出していた。


「黒田……お前が代打で出てきたら、キングダムは絶対に左のワンポイント、篠田をマウンドに送る」

「な、なぜです?」

「キングダムの鬼塚監督は左対左のセオリーが大好きだからだ」

 今川監督は黒田の肩を抱き寄せた。

「ヤツが出てきたら圧倒的に不利だ。だから勝負を賭ける」

 今川監督は黒田に「ある指示」を耳打ちをした。


 投球練習が終わった篠田がマウンドに立ち、試合再開の合図がかかると黒田は左打席に入った。


 篠田はかがみ込むようにサインを確認すると、セットポジションに構えた。黒田の耳に先程の今川監督の言葉が甦る。

『ファーストストライクを取るために、初球は内角のストレートが来るはずだ。思い切りぶっ叩け』

 黒田は今川監督を信じてヤマを張った。

(変わらねえなあ……今川さん……現役の頃からよ)

 バットを握りしめる。

(昔からカッコよかった。俺は本当はアンタみたいになりたかったんだ。ファンや選手達から慕われるプレイヤーにな……それが怒りに任せてプレイすることで、勘違いしちまった)

 黒田の脳裏に権力を振りかざし、力で皆を支配していた過去が甦った。

(今川さん、ありがとう……大事なことを思い出させてくれて。必ず打つぜ、それがレジスタンスを堕落させた俺の償いだ)


 篠田は変則的なフォームから第一球を投じた。ボールの軌道は今川監督の予想通り、内角へのストレート。

 左のサイドスローのため、バッターの黒田にとっては、自分の背中からボールが来るような感触があった。

(来た! ストレート!)

 黒田は今川監督の指示通り、思い切りバットを振り抜いた。

「こなくそ!」


 キイン! 芯ではないが、ボールを捉えた感触があった。打球はショートの頭上に飛んでいた。ショートの牧村がジャンプする

「抜けろ!」

 黒田は走りながら思わず叫んだ。


 ドン! 打球はショートのグラブを越えてグラウンドに落ちた。フェアだ。

 スタンドからは大歓声。ツーアウトのため、ランナーは打ったと同時に走っている。サードランナーの浅野がホームベースを踏んだ。まずは一点を返す。


 ボールを抑えたのはレフトのゴンザレスだが守備には難がある。ボールを上手く処理できずに少しファンブルをした。

 その姿を見た三塁コーチャーは「ここが勝負」とばかりに腕を回した。セカンドランナーの北条が巨体を揺らし、ホームへ突っ込んだ。

 北条は足が早い方ではないが必死で走った。ようやくボールを握り直したゴンザレスがホームに返球したが、ボールは少し右にそれた。北条は矢部のタッチをすり抜け、滑り込む。


「セーフ!」

 更に一点を追加、これで計二点をあげて、レジスタンスは5対5の同点に追いついた。


「矢部さん!」

 セカンドの東から名前を呼ばれたキャッチャー矢部は、すぐさまボールを二塁に送球した。打った黒田が二塁を陥れようと走っていたのだ。

 二塁ベース上でのクロスプレー。塁審が握り拳を上げる。


「アウトォ!」

 悔しがる黒田、だが、待望の同点タイムリーヒットが生まれ、レジスタンスは遂に同点に追いついた。


「すいません……」

 ヘルメットを脱ぎ、すまなさそうな顔をして黒田がベンチに戻ってくるが、今川監督は笑顔で迎えた。

「何を言ってやがる! 上出来だ!」

「黒田さん、ナイスバッティングでした!」 

 ベンチ内からも黒田を讃える声が響く。


「さあ! 最終回だ! ここを抑えて、九回裏の攻撃に繋げるぞ!」

 今川監督が大声を張り上げた。

「おう!」

 同点になり、息を吹き返した選手はグラウンドに飛び出していく。

 

 スコアは5対5、世紀の一戦は同点のまま、最終回の攻防を迎えることになった。

 先程代打の黒田がファーストに入り、北条もキャッチャーに入る。ファーストを守っていた仙石はセンターに入った。


 そして、レジスタンスは満を持してエースが登板する。

「九番島に代わりまして、ピッチャー朝倉、背番号18」

 ライトスタンドの壁が開き、リリーフカーに乗った朝倉が現れた。


 その頃、ブルペンではネネが肩を作り終えていた。朝倉で九回を凌ぎ、九回裏の攻撃に全てを賭ける。ネネは万が一、延長戦に突入したときの保険であった。


 また最終回である九回表、キングダムは九番からの攻撃、代打に俊足巧打の松村を送る。


「前田さん、お疲れ」

 その頃、アイシングを終えた前田をブルペンで大谷、島津、荒木が出迎えていた。

「ネネは延長に入ったら、出番みたいだね」

 前田がそう言うと、皆、頷いた。

「うん、ただ……ネネは今ひとつ本調子じゃないみたいなんだ」

 大谷が心配そうに呟く。


 二軍戦で好投したネネだったが、今日は球にバラツキがある。本人も首を捻りながらフォームをチェックしおり、今はアンダーシャツを着替えにブルペンを離れていた。


「ワアアアア!」

 すると突然、声が上がったので、皆はモニターを見た。朝倉が先頭バッター代打の松村を四球で歩かせていた。


 ノーアウト一塁。打順はトップに戻り、一番の牧村が打席に立つ。キングダム鬼塚監督が牧村にサインを送った。


(送りバントだな……)

 一点をもぎ取るための常套戦法だ。北条は内野陣に前進守備の指示を出した


 セットポジションから朝倉は内角に速球を投じるが、牧村は絶妙なバントを三塁線上に転がした。

 ボールはファールラインギリギリに転がっている。もう少しでラインを切りそうだ。サードを守る勇次郎が走り込んできた。

「勇次郎、触るな!」

 北条はボールが切れると思い、勇次郎に見送るよう指示を出した。

 しかし、ボールは切れずに線の内側で停止した。


 レフトスタンド、キングダム応援席からは大歓声。フィルダースチョイスで、ノーアウト一、二塁の状況になった。

 次に迎えるバッターは二番東。バントや小技が得意な二番バッターだ。鬼塚監督が再びサインを送る。


(次も送りバントか……ワンアウト二、三塁にしてクリーナップの三番中西、四番渡辺で勝負するつもりだな)

 バントを警戒して、北条は慎重にサインを交わす。しかし、東はバントの構えはするものの、バントはせずカウントはツーボールとなった。


 北条は、これ以上カウントを悪くしたくない。という思いから、三球目はストライクゾーンへのストレートを選択。

 朝倉はランナーを警戒しながら、セットポジションからストレートをストライクゾーンに投じた。すると……。


 東がバットを引き、同時にランナーが走った。

(す、スクイズじゃない!? 初めからストレート狙いだったのか!?)

 北条の背筋に寒気が走る。東は甘く入った朝倉のストレートを打ち返した。

 ボールはピッチャー返しになり、朝倉の足元を抜けていく……はずだった。


 ガキッ! 何と朝倉は必死で右足を伸ばし、センターへ抜けようかとするボールを足で止めた。


「な、何い!?」

 キングダムベンチから驚きの声が上がる。

「よし! 朝倉、ファースト……へ……」

 北条はそう言いかけて、言葉が止まった。

 朝倉は右足を押さえて、苦悶の表情を浮かべ倒れ込んでいた。


 東はファーストに走り込み。各ランナーもそれぞれ進塁し、ノーアウト満塁となる。

 だがそれよりも想定外のトラブルが発生した。ボールを足に当てた朝倉が立ち上がれないのだ。

 今川監督はすぐにタンカを手配すると、ブルペンの杉山コーチに連絡を取った。


「もしもし、杉山さんか? 朝倉はダメかもしれん、予定変更だ。ネネの準備を頼む!」

 しかし、受話器の向こうの杉山コーチは沈黙している。

「……杉山さん?」

「いないんです……」

「は? 何が?」

「ネネが……いないんです……姿を……姿を消しました……」

「な、何い!?」

 今川監督の声がベンチ内に響き渡った。



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