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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第11章 史上最大の決戦編
192/207

第192話「反撃のレジスタンス」中編

「前田、ご苦労!」

 ベンチに戻った前田を今川監督が真っ先に出迎えた。

「監督……すいませんでした……」

 前田は帽子を取って頭を下げた。

「気にすんな、アレは伊達の方が一枚上手だった。それより後続を絶ったのは立派だったぞ!」

 今川監督は前田の背中を叩いた。


「あの、監督……毛利くんは大丈夫ですか……?」

 監督に労われ、少し安心した前田は毛利の容体を尋ねた。

「ああ、頭を打ってるから、とりあえず病院に行かせたが、意識はハッキリしているし、恐らく大事はないだろう」

 大事はない、と聞き、前田は胸を撫で下ろした。


 そして、今川監督がパンと手を叩く。

「さあ! 切り替えるぞ! 残る攻撃はあと二回! まずは少しでも、この回に点差を縮めるんだ!」

「おう!」

 ベンチから声が上がった。八回裏の攻撃が始まる。選手たちはまだまだ諦めていない。


 この回は五番斎藤からの打順。マウンドにはペナントレースでも八回を任されている中継ぎのエース、デビットが上がっている。


 斎藤は粘りに粘り、フルカウントまで持ち込み、フルカウントからの六球目を強振。

 カキン! 打球は流し打ちになりサードへ飛んだ。

 三塁線ギリギリ、抜ければ長打コース。しかし、ボールに飛び込む黒い影。

 伊達美波だ。藤本に代わり、この回からサードの守備に就いている伊達が俊敏な動きでボールをキャッチ。そして、すぐさま起き上がると、ファーストへ矢のようなボールを送球した。


「うおおおお!」

 斎藤はファーストへ頭から飛び込むが「アウトォ!」と審判の手が上がる。ボールのほうが早く、これでワンアウトだ。


「くそ!」

 クールな斎藤がベースを殴りつける。

 助かったぜ、とピッチャーが伊達に向かい帽子を取ると、伊達は落ちた帽子を被り直し、笑顔を返した。


「良いプレーだ。さっきのホームランから、ノってきたなアイツ」

 キングダムベンチで、鬼塚監督が成瀬に笑顔を見せる。

「はい、今日の美波は絶好調です!」


「六番、レフト浅野、背番号8」

 続くバッター、浅野が打席に入る。地味ながら、ここまで全試合出場している縁の下の力持ちだ。

 今季はホームラン10本、と初めて二桁の大台に乗せ、ひと皮むけたと言われている。


 カキン! その浅野がデビットからヒットを放つ。ワンアウトからランナーが一塁に進んだ。今川監督は七番の仙石にサインを送る。

 その仙石は送りバントで浅野を二塁に進め、ツーアウトながらランナーは二塁に代わる。


「監督……島はいつ使います?」

 レジスタンスベンチで、岩田打撃コーチが今川監督に尋ねた。

「……そうだな」

 レジスタンスには代打の切り札、島がいる。怪我による影響で守備力は低いがバッティング技術は抜群。本日はまだ島の出番はない。

「アイツはジョーカーだ。使うのは今じゃない」

 そう言うと、今川監督は八番バッター藤堂に代えて、代打北条を送った。


「え? ここは島じゃないのか?」

 スタンドからどよめきが聞こえる中、北条が打席に向かった。


 ……その頃、北条の元妻は子供と一緒に自宅でテレビを見ていた。

「達也、見て、お父さんよ」

 達也は画面の中の北条を見つめた。数日前に母からこの人がお父さんと告げられた。まだ実感はないが、突然現れた北条のことを達也は頼もしく思っていた。


 だが、北条はバッティングはあまり得意ではない。

(……萌音、お願い……お父さんを守って)

 妻は両手を握りしめて祈った。


 そして、打席に立つ北条は萌音のことを思い出していた。

 まだ萌音が生きていた頃、萌音にバッティングのことを色々と言われた。

『お父さん、昨日もヒット打てなかったね、ダメじゃない』

「はは……そうだな、面目ない」

 北条は笑いながら頭をかいた。

『お父さんはボール球ばかり振るからダメなんだよ、ストライクの球だけ打てばいいのに』

 萌音にそう言われて北条は苦笑いした。


 ツーアウト二塁、デビットは際どいコースにスライダーを投じる。

「ボール!」

 わずかに外れている。

 次の球も「ボール」、北条は球をよく見ている。手を出さない。


 バッティングカウント2-0からの三球目、スライダーが甘くストライクゾーンに入った。北条の脳裏に萌音の言葉が響く。

『ストライクの球だけ打てばいいのに』

「うりゃあ!」

 北条はバットを強振すると、打球は三遊間を抜けた。


「ストップ、ストップ!」

 三塁コーチャーが二塁から走ってきた浅野に三塁ストップをかける。打った北条は一塁ベース上で両手を突き上げた。

(萌音が打たせてくれたヒットだ……萌音、ありがとう)


 ツーアウトながら、ランナーは一、三塁、一打同点の場面で、次は九番ピッチャーの打順。今川監督がベンチを飛び出して代打を告げた。

「九番ピッチャー前田に代わりまして、代打島、背番号5」

 満を持して、代打の切り札、島の登場だ。登場曲「カトゥーン」の「リアルフェイス」が流れて、スタジアムのボルテージが上がる。


 しかし、島が打席に立つと、キャッチャー矢部が審判に何か呟いた。それを聞いた審判は島に一塁に行くように告げた。「申告敬遠」だった。キングダムは島との勝負を避け、満塁策を取ったのだ。

 次のバッターは一番に戻り、毛利……だが、ここで皆、あることに気付く。そう、先程の回で毛利は負傷退場していた。


 騒めくレジスタンスドーム。キングダムベンチの鬼塚監督は不敵な笑みを浮かべた。

(レジスタンスにはもう代打はいない、代打の使い方を間違えたな、今川よ……)


 だが、レジスタンスベンチの今川監督は動じない。

「ふふ……狙い通りだぜ」

「ええ、監督の言う通りでした」

 岩田打撃コーチも笑顔を見せる。


「おい、出番だ!」

 今川監督がベンチ裏に大声で叫ぶと、バットを持った黒田が現れた。



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