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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第11章 史上最大の決戦編
191/207

第191話「反撃のレジスタンス」前編

「い……いったあ──! 伊達美波のスリーランホームラン! キングダム、逆転に成功──!」

 八回表、ノーアウト一、二塁から、伊達美波の逆転スリーランホームランが飛び出した。


 ウイニングショットのパームボールを完璧に打たれたマウンド上の前田は顔面蒼白。また、センターの毛利もボールが跳ねたバックスクリーンを呆然と見ていた。


 伊達は軽やかにダイヤモンドを回る。

 二塁ベースを回る時、二遊間を組む蜂須賀と明智は伊達を見つめ(こんな小さな身体で、広いレジスタンスドームのバックスクリーンまで飛ばすとは……化け物かコイツは……)と驚愕した。


 また伊達が三塁ベースに向かうと、勇次郎と目が合った。思わず笑みを浮かべる伊達だったが、勇次郎は腕組みをしながら目を逸らした。


 ホームベースを踏むと、先にベースを回っていた中西と渡辺が笑顔で伊達を迎えた。

「よくやった! 見事だ!」

「え──仕事やったで! 伊達え!」


「伊達! 伊達!」

「美波ちゃん、サイコ──!」

 レフトスタンド、キングダム応援席は大盛り上がを見せ、キングダムベンチも盛り上がった。鬼塚監督が先頭に立ち、伊達をハイタッチで迎える。

 キングダムナイン全員の祝福を受けた伊達はベンチ横のテレビカメラを見つけると、カメラに向かって、顔の横でVサインを作ると、満面の笑みを浮かべた。


 八回表のスコアボードに「3」が点灯。スコアは5対3になり、試合終盤にキングダムが逆転に成功した。


「美波──!」

 ベンチで伊達がヘルメットを脱ぎ、金髪をバサッとかきあげると、成瀬が駆け寄ってきた。

「聖子──!」

「よくやったわ、美波……貴女、本当にスゴイ……スゴイよ、美波……」

 成瀬の目には涙。伊達は笑いながら成瀬の頭をポンポンと撫でた。


 一方のレジスタンスはタイムを取り、杉山コーチがマウンドに向かっていた。キャッチャーや内野陣も集まる。

「こ、コーチ……すいません……」

 マウンドの前田の足はガクガクと震えていた。無理もない、一瞬にして試合をひっくり返されたのだ。しかも自慢のパームを打たれて……。

「切り替えろ、前田! お前のボールは悪くなかった! アレは打った方を褒めるべきだ!」

「で、でも……」

 前田は完全に動揺している。

「まだ俺たちの攻撃は二回もある。攻撃陣を信じて、この回を凌ぐんだ!」

 杉山コーチの言葉に皆は頷いたが、前田はずっとうつむいていた。


 タイムが終わり、杉山コーチがベンチに戻ると、今川監督が話しかけてきた。

「前田は……ヤバいか?」

「はい……かなり動揺しています」

「念のためだ、ネネを待機させろ」

「は、はい……」

 杉山コーチはブルペンへ向かった。


 そして、ブルペンのモニター前ではネネをはじめ、投手陣が集まっていた。そこに杉山コーチがやって来て、ネネに話しかけた。

「ネネ……前田が立ち直れなかったら、いくぞ」

 ネネはコクリと頷いた。と、同時にグラウンドから悲鳴が上がり、投手陣たちは再びモニターを見つめた。


 グラウンドでは、六番ゴンザレスが前田の初球を叩き、ツーベースヒットを打っていた。ノーアウト二塁、前田は伊達のホームランを未だ引きずっていた。


「ネネ! 大至急、肩を作れ!」

「は、はい!」

 杉山コーチの指示を受けたネネはブルペンのマウンドに走った。


 異様な雰囲気が漂うドーム。

(あ……ああ……どうしよう……僕のせいだ……僕が試合をぶち壊した……)

 前田はマウンドで固まっていた。頭が真っ白になる。サインもよく見えない。

(何を……何を投げればいい?)

 ウイニングショットのパームは打たれた。

(じゃあ、何を投げれば……?)


 バッターボックスにはベテランの七番亀田が立っていた。今季はサヨナラ打を放っている勝負強いバッターだ。

 初球攻撃を恐れて藤堂はパームのサインを出すが前田は首を振る。仕方なく藤堂は外角に外れるストレートのサインを出した。


 セットポジションから前田は一球目を投じる……と同時に二塁ランナーゴンザレスがスタートを切った。

(え!?)

 予想外の行動に前田は戸惑い、ボールが指にかからなかった。力が無いストレートは逆球になり、そのストレートを亀田は叩いた。


 カキン! 快音を残したボールは右中間に飛んでいく。二塁ランナーは長打を確信して、そのまま三塁へ向かった。


 スタンドから悲鳴が響く、ライト斎藤が追いかけるが届かない。

 誰もが追加点を覚悟したとき、ボールに向かって、猛ダッシュしている影が見えた。


 それは、背番号53、センター毛利の姿だった。俊足を飛ばし、グングンと落下地点へ向かっている。

(前田さん……ダメだよ、これで終わっちゃあダメだ……)

 フェンスギリギリの位置で毛利は思い切りジャンプをした。


 ガン! 毛利はそのままフェンスに激突した。

「……毛利!」

 バックアップに入ったライト斎藤が毛利に近づく。そして見た。フェンスに激突し、グラウンドに倒れながらも、ボールを掴みとっている毛利の姿を。


「アウトォ!」

 塁審がキャッチを確認しアウトのコール。だが毛利は地面に倒れたまま動かない。斎藤はランナーを見た。二塁ランナーだったゴンザレスは三塁を回っていたが、アウトになったことで慌てて帰塁を試みていた。

 斎藤は毛利のグラブの中からボールを掴み取ると、矢のようなボールをセカンドに送球、ゴンザレスは塁に帰れずアウトとなる。

 毛利のファインプレーと斎藤の機転で、ノーアウト二塁はツーアウトランナーなしに変わった。


「大丈夫か? 毛利?」

 斎藤が倒れている毛利に声を掛けるも返事はない。斎藤はベンチに向かい、両手でバツを作った。直ちに救護班がタンカを持って駆けつけてきた。


 毛利はタンカに乗せられ退場していく。そんな毛利にスタンドから拍手が鳴り響いた。

「毛利くん! 毛利くん!」

 前田は居ても立っても居られず、タンカに向かって走った。

「頭を強く打ってるみたいだから、あまり話は……」

 救護班がそう説明する。

「毛利くん……ゴメン……僕のせいで……」

 前田が泣きそうな顔で、タンカの上の毛利に話しかけると、毛利の目が微かに開き、言葉を発した。

「ま……前田さん……」

「毛利くん!」

「前田さん……あ……あの紅白戦のことを思い出して……大丈夫……前田さんなら……やれるよ……」

 毛利は前田に励ましの言葉を残すと、タンカに乗せられベンチ裏に消えていった。


 毛利はプレー続行不可能になり、代わりの選手がセンターの守備位置に付いた。

 そして、マウンドに戻った前田は毛利の言葉を思い出していた。

 紅白戦……それは春季キャンプで行なわれた今川監督の進退を賭けた一軍対二軍の試合だった。

 前田は当時の一軍のボスである黒田に命令され、二軍を陥れるため暗躍した。しかし、その結果、前田の代わりにネネがマウンドに立ち、ボロボロになるまで投げ抜いた。

 そして、そんなネネのピッチングに感化された前田は勇気を振り絞ると、黒田に反抗を翻して、二軍のために投げたのであった。


(そうだ……あの時誓ったはずだ。もう二度と逃げないと……それなのに、今の僕は何だ……?)

 毛利の捨て身のファインプレーに前田の目に再び闘志の炎が宿った。

(誓ったはずだ……ネネの100分の1でいい、勇気がほしいと……そしてネネを見習い、強気のピッチングをすると……)


 ランナーがなくなりツーアウト。マウンドの前田は大きく振りかぶると、長い手足を躍動させ、次のバッター八番矢部に対して初球を投げた。

「ストライク!」

 146キロのストレートがコーナーいっぱいに決まる。

「いいぞ! 前田!」

 藤堂が返球するボールを前田は力強く受け取った。


 続く二球目、今度はスライダーが外角いっぱいに決まる。

 ストレートも変化球も自由自在にコーナーギリギリにコントロールできる。このピッチングこそが「精密機械」前田のストロングポイントだ。


 三球目、長いサイン交換の後、前田は大きく振りかぶった。

(いけ!)

 ボールはど真ん中。先程の伊達の時と同じコース。矢部はバッターの本能でバットを振り切るが、ボールはさっきの伊達の打席より鋭く、ベース上でスッと真下に落ちた。ウイニングショット、パームボールだ。


「ストライク! バッターアウト!」

 矢部は空振り三振でスリーアウトチェンジ。

 伊達にホームランこそ打たれたが、前田は後続を押さえて追加点を許さなかった。


(ありがとう毛利くん……君のおかげだよ……)

 前田はマウンドを降りると、ベンチに向かって走り出した。そんな前田にスタンドから拍手と声援が飛んだ。


 スコアは5対3、キングダム二点リードで、八回裏、レジスタンスの攻撃が始まろうとしていた。

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