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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第11章 史上最大の決戦編
186/207

第186話「決戦の10.7」⑧

 四回表キングダムの攻撃、ワンアウトランナーなしから、怪童中西のバットが大谷のシンカーを捉えて、勝ち越しホームラン。キングダムが2対1とリードした。


 レフトスタンドに陣取るキングダムファンからの大歓声を受け、ダイヤモンドを周り、ホームベースを踏んだ中西を次のバッターの渡辺がハイタッチで讃える。


「す……すごい……」

 ベンチ裏のモニターで中西のホームランを見ていた伊達は驚愕した。

 完全にシンカーを狙い打った。中西は初めから大谷のウイニングショットのシンカーを待っていたのだ。

 伊達はバットを置いて、急いでベンチに向かった。


「ナイスホームラン!」

 ベンチ前で皆に出迎えられ、中西は照れながらタッチをした。

「中西さん! 50号おめでとうございます!」

 五番バッターの藤本も祝福する。

「よくやった、中西」

 鬼塚監督も満面の笑みだ。


 中西がベンチに座り、ヘルメットを脱ぐと、伊達が待ち構えていたかのように駆け寄ってきた。

「中西さん! ナイスホームランです!」

「おう」

 中西は、はにかんだ顔をする。

「あの……ちょっと聞きたいことがありまして……」

「何だ?」

「さっきの打席、初めからシンカーを待っていたんですか?」

「ん? ああ、そうだな」

 中西は手袋を外しながら答える。

「あいつはシンカーに絶対の自信を持っている。そのシンカーを打ち込めば、相手方も意気消沈すると思ってな」

「はあ……」

 伊達は感嘆した。簡単に言っているが、あのシンカーを狙って打てるわけではない。流石、日本一のバッター怪童中西だ。

「伊達……よく覚えておけ」

 中西は話し続ける。

「ここぞと言う時に打って相手の勢いを消す。そして味方の士気を上げる。これがキングダムのクリーンナップに求められる条件だ」

 伊達はコクリと頷いた。


 一方、ホームランを打たれた大谷は動揺を隠しきれなかった。

(う……打たれた……渾身のシンカーを打たれた……)

 その動揺はピッチングに影響を与えた。続く四番渡辺にはフォアボール。五番藤本にはヒットを打たれて、ノーアウト一、二塁のピンチを招いてしまう。


 迎えるバッターは六番ゴンザレス。ここで杉山コーチがマウンドへ向かった。

「大谷、どうした? シンカーを打たれたことで動揺してるのか?」

「は、はい……」

 杉山コーチは怪訝そうな顔した。

「なあ大谷……お前、もしかしてシンカーがピッチングの生命線だと思ってないか?」

「え? そうじゃないんですか?」

「ああ。お前のピッチングの生命線はストレートだよ」

 その言葉に大谷はハッとした表情を見せた。

「サイドスローに転向したが、お前は元は速球派のピッチャーだ。その気持ちを忘れるな」

 杉山コーチは大谷の肩に手を置くと、ベンチに戻っていった。


 ベンチに下がっていく杉山コーチを見て、大谷は考えを改めた。

(そうか……投げ方が変わっても、俺は速球派のピッチャーじゃないか……)


 試合が再開される。藤堂は初球にカーブを選択するが、大谷は首を振る。

(俺は勘違いしていた。コントロールを気にするあまり、腕が縮こまっていた)

 大谷はモーションに入った。

(腕を振れ、そしてストレートを軸に変化球を織り交ぜろ。ネネもそうじゃないか。忘れてたぜ、これが……これが俺のピッチングスタイルだ!)


 大谷は右腕を思い切り振り、渾身のストレートを投じた。ゴンザレスはそのストレートを強振するが、力のあるストレートに差し込まれ、打球はフラフラと一塁ファールグラウンドにボールが舞い上がった。

「シット!」

 ゴンザレスはバットを叩きつけ一塁に走るが、ファースト仙石がガッチリとキャッチしてワンアウトだ。


「よし!」

 ベンチで杉山コーチが手を叩く。スピードガンは148キロを計測している。

「はは! アイツ、また化けやがったな!」

 今川監督も嬉しそうに手を叩いた。


 その後、大谷は後続を断ち、この回を中西のホームラン一本、一失点に抑えた。

「よし! 大谷、よく立ち直ったな!」

 ベンチに戻った大谷を杉山コーチが笑顔で出迎える。

「いや……一点取られました。すいません……」

「あれは仕方ない。それより、その後を抑えたことが立派だ!」

 杉山コーチは大谷を讃えた。


 四回裏、レジスタンスの攻撃は無得点。

 そして、キングダム五回表の攻撃はツーアウトから四球を出して、先程ホームランの中西に再び打順が回った。


 ツーアウト一塁。キャッチャーの藤堂がカーブのサインを出す。

 しかし、大谷は何か嫌な予感がして首を振ると、アウトローへストレートを放った。

「ストライク!」

 中西は残念そうな顔で天を仰いだ。その様子を見て大谷は確信した。

(危なかった……中西さんは恐らく変化球……それもカーブを待っていた)


 大谷は襲い掛かる中西の圧力を一身に浴びながらボールを握りしめた。

(弱気になるな……腕を振れ……!)

 二球目を投じるが、次もストレートを選択。真ん中高めに147キロのストレートが飛び、中西は強振するが、ボールはバックネットに突き刺さった。


(よし、追い込んだ……!)

 カウントは0-2、藤堂のサインは外角に外れるボール球だが大谷は首を振り、あるサインを出した。

 それは『三球勝負、シンカー』というサインだった。


(シンカーだと?)

 藤堂は目を疑った。先程、シンカーを中西に打たれているからだ。

 再度、サインを出し直すが、大谷の決意は変わらない。

(分かった……)

 藤堂は覚悟を決めてミットを構えた。


 大谷は大きく息を吐き出すと、セットポジションから腕を思い切り振って、伝家の宝刀、シンカーを投じた。


 ボールは唸りを上げて真ん中高めに向かう。中西はスイングを開始する。シンカーの軌道は頭に入っていた。

 しかし、大谷の渾身のシンカーは先程の打席より浮き上がり、内角に沈み、中西のバットは空を切った。


「ストライク! バッターアウト!」

 審判の手が上がり、大谷はマウンドでガッツポーズを見せる。二度目の対戦は大谷に軍配が上がった。


 五回表のキングダムの攻撃が終わった。スコアは依然2対1とキングダムがリード。

 そして、レジスタンス五回裏の攻撃が始まる──。


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