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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第11章 史上最大の決戦編
183/207

第183話「決戦の10.7」⑤

「い……いったあ──! キングダム四番渡辺の先制ホームラン──!」

 実況が吠え、レジスタンスファンが陣取るレフトスタンドからは悲鳴にも似た声が上がる中、先制弾を叩き込んだ渡辺は悠々とダイヤモンドを周った。


「よくやった! 渡辺!」

 ベンチ前で鬼塚監督が出迎え、渡辺と拳を合わせた。


「す……すごい……あの外角低めのフォークをあそこまで持っていくなんて、何てパワーなの……?」

 伊達はあ然としている。

「これぞ四番の仕事……ここで一発打てるから、ナベさんはキングダムの四番なんだよ」

 中西は笑顔で渡辺を迎える。

「ナイスバッティングです! ナベさん!」

「おう! ざまあみやがれ、あのクソガキ!」

 渡辺はヘルメットを放り投げると、豪快に笑った。


「島津くんの攻めは完璧だった。でも渡邊さんのバッティングはそれをも上回っていた……」

 レジスタンスのブルペンでは、モニターを見ながら前田は青ざめていた。


(確かに渡辺さんのバッティングは見事だ……でも切り替えないと……頑張れ、栄作!)

 ネネはモニターの島津を見つめた。


 一方で島津は会心の一球をライトスタンドに運ばれたショックからか、続く五番の藤本に四球を与えると、六番ゴンザレスを迎えていた。

 ゴンザレスは五月から途中入団した外国人選手で、当初は二軍暮らしだったが、夏場から打ち出してホームランは20本を超えている。守備に難点があるが、それを除けば恐ろしいバッターだ。


 キン! ゴンザレスは島津の初球を叩き、ライト前へ。これでノーアウト、一、二塁となる。

 続くバッターは七番亀田、ベテランだが意外性のある打撃が魅力で、今季はサヨナラ打も放っている。


 このピンチに、キャッチャーの藤堂がマウンドへ歩み寄った。

「島津、落ち着け」

「ああ? 落ち着いてるぜ、俺は!」

 それはウソだ。どう見てもイラついているのが分かった。


「何やってんだよ、お前は?」

 すると、明智と蜂須賀、そして勇次郎とファーストの仙石もマウンドへ集まってきた。

「何だよ? 大勢で」

 島津は更にイラついた表情を見せた。

「まだ一点取られただけだ! そんなに俺が信用できねえのかよ!?」

「そうじゃねえけどよ……今日は大事な女性ひとが見に来てるんだろ? その女性の前で不甲斐ないピッチングを見せるわけにはいかないだろうが?」

 明智がそう話すと島津の顔色が変わった。

「な……何でそのことを……!? ネネか……? チッ、あのおしゃべりオンナが……!」

 怒りのあまりマウンドを蹴り上げる島津だったが、明智がすかさずフォローする。

「ちげ──よ、ネネに頼まれたんだよ。オマエがマウンドで暴走しだしたら、この話をして、お前を冷静にさせてくれってな」

「え……?」

「アイツなりにお前を心配してんだよ」

 明智はそう言って、島津の腰をグラブでポンと叩いた。


「なあ島津……」

 次に蜂須賀が声を掛ける。

「もっと俺たちを……バックを信じて打たせろよ。ひとりで気負いすぎてるぜ」


 島津は周りを見渡した。勇次郎や仙石も頷いている。頭に上った血が下がるのを感じた島津は笑顔を見せた。

「……ヘッ、余計なお世話だ。お前ら」

 そして、グラブに拳を打ちつけた。

「よっしゃ! もう大丈夫だ! こっから先は打たせるピッチングに切り替えるから、お前ら頼むぜ!」

 その言葉を聞いた野手陣はポジションに戻っていった。


(……ったく、どいつもこいつもお節介なヤツばかりだぜ。でも悪い気分はしねえ)

 冷静さを取り戻した島津はキャッチャーのサインを落ち着いて確認した。

(俺が俺が、って気負いすぎてたな。蜂須賀の言う通りだ。皆を頼ればいい……)

 そして、丁寧にコーナーを突いていき、カウント1-1からのフォークを投じると、亀田の打球はショートへ飛ぶ。その打球を明智が落ち着いて捌き、6-4-3のダブルプレー。

 ランナーは三塁になるがツーアウト。続く八番矢部を打ち取り、島津は渡辺のホームラン以降は無失点に抑えた。


「悪い、先に点を取られちまった」

 ベンチに戻った島津が苦い顔をすると、今川監督は「いや、よく立ち直った!」と笑顔で島津を出迎えた。


 そして、二回表の先頭バッターは四番の勇次郎から。バットを構えて打席に向かう。

 その姿をブルペン待機室のモニターでネネが見ていると、後ろから「ネネー」と声が聞こえた。由紀だった。

「由紀さん!」

 ネネは由紀に駆け寄った。

「ネネ、調子はどう?」

「うん……ちょっと指のかかりが気になるけど、コンディションは悪くないよ」

 ネネはそう言うと、再びグラウンドが映るモニターを見つめた。勇次郎が打席に入っていた。


「ねえ、ネネ、今日の試合前に勇次郎から何か言われた?」

「え? ううん、何も……」

 由紀に尋ねられたネネはそう答えたが、勇次郎が廊下で待っていて、自分に話しかけようとしていたことを思い出した。

「そっか……まだ話してないのか……」

「? 何かあったの? でもアイツが私に話すことなんて悪口しかないよ」

 ネネはケラケラと笑った。

「もういいの。あの男のことなんて、もうどうでもいいわ」

 ネネは笑っていたが、その表情は少し憂いを帯びていた。そんなネネに由紀は諭すように話しかけた。


「ねえ、ネネ……何で勇次郎が貴女に『邪魔だ、消えろ』って言ったか分かる?」

「え? 分かんないよ。でもアイツがそう言うなら、私のことが本当に目障りで嫌いなんだと思う」

 由紀は深いため息をついた。

「違うわよ、その逆よ……あの男は苦しいのよ」

「へ? 何でアイツが苦しいのよ?」

「ネネがキスされたのを見たから」

 由紀の言葉にネネは固まった。

「な……何で? 関係ないじゃない……」

「大アリよ。アイツは……織田勇次郎は小学生と同レベルなのよ。女性にどう接していいか分からないのよ。だから傷ついてるの。ネネと明智さんのキスの場面を見て、苦しくて苦しくて仕方ないから、ネネに消えろって悪態を付いたの」

「え? え? ええ!? いやいや! それはないよ──!」

 ネネは手を振って苦笑いした。


「じゃあ、逆にネネは勇次郎のことをどう思ってるの?」

「え? ええ……私?」

 由紀の思いがけない問いかけにネネは動揺した。

 そんなネネを見て、由紀は笑みを浮かべると、ネネの頭を撫でて、ベンチに戻っていった。


(わ、私が勇次郎をどう思ってるかって……?)

 ネネはモニターの中の勇次郎を見つめた。

 勇次郎はツーストライクと追い込まれていた。


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