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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第11章 史上最大の決戦編
182/207

第182話「決戦の10.7」④

 午後6時、レジスタンスドームにて、大阪レジスタンス対東京キングダムの最終戦がプレイボール。

 両チームの勝ち星と勝率は同じ、直接対決で勝ったほうが「優勝」という試合だ。


 レジスタンスの先発マウンドには、普段抑えを務める島津が上がった。

 試合開始の合図がかかると、島津はゆっくりと振りかぶり、第一球を投じた。

「ボール!」

 注目の一球目は外角低めに外れボール。


 対するキングダムの先頭バッターはルーキーの牧村。ここまで打率は.277、ホームランは10本、とルーキーにしては十分な数字を残しているが、あまり脚光を浴びていない。

 なぜなら、その活躍を凌駕するゴールデンルーキー織田勇次郎がいるからだ。

(俺は新人王は獲れないだろう……だがその代わり優勝は譲らん!)

 牧村はバットを握りしめた。


 二球目、スライダーが外れてボール。

 三球目もストレートが高めに外れてボール。カウントは瞬く間に3-0になる。


(栄作くん……)

 観客席に座る深見先生は緊張のあまり試合が見れず、祈るように両手を握り、目を閉じていた。

 五月のキングダムドームでの再会以来、島津と連絡を取るようになり、ふたりの距離は急速に縮まっていった。

 そして、島津が優勝決定戦で先発することが決まったとき、深見はレジスタンスドームに行くことを決めた。

『先生……俺のピッチングを目に焼き付けてくれ。先生が見ていてくれたら、俺はいつも以上のピッチングができると思う』

 島津はそう言った。

 その言葉を思い出した深見はキッと顔を上げると、マウンドに立つ島津を見つめた。

(ゴメンね……私、また目を逸らすところだったよ。私、もう逃げない。だから栄作くん、頑張って……)


 ストライクが入らずカウントは3-0、マウンドの島津はキャッチャーのサインに首を振っていた。

 ストレート、ダメだ。

 スライダー、ダメだ。

(分かってねえなあ……俺の最大の武器は球種じゃねえ。このイケイケのピッチングだよ)

 島津が逆にサインを出した。キャッチャーの藤堂は驚くも最後は首を縦に振った。


 島津が振りかぶり四球目を投じる。球はど真ん中に飛んだ。

 キングダムベンチからは、ノースリーからの次の球は『一球待て』のサインが出ているが、あまりの好球に牧村のバットは動いた。

(もらった!)

 しかし、ボールはストン、と落ちた。島津のウイニングショット、指の関節を外して握る「フォークボール」だった。

 ガキン!

 鈍い音とともに、当たり損ねのボールがセカンドに転がった。


「おし、頼むぜ!」

 島津がセカンドに振り返る。蜂須賀は華麗な動きでボールをミットに収めると一塁に送球。

「アウトオ!」

 幸先よく、まずは先頭バッターを打ち取ってアウトをひとつ奪った。


「いいぞ! 島津!」

 スタンドからは島津を称える拍手が飛び、深見先生も両手を上げて喜んだ。


「スリーボールのカウントからフォークで牧村をセカンドゴロ! 島津、先発でも強気のピッチングは変わりません!」

 実況席も島津のピッチングを称えている。


(よっしゃ! これでリズムに乗れるぜ!)

 緊張の中、先頭バッターを仕留めた島津はマウンドで躍動する。

 続く二番東を空振り三振に取ると、三番怪童中西からも三振を奪い、一回表を無失点、と上々のスタートを切った。


「おし! よくやった!」

 今川監督が笑顔で島津を迎える。次は一回裏、レジスタンスの攻撃だ。

 キングダムの先発マウンドには牧野が立つ。今季はエース沢村に次ぐ12勝を上げている準エースだ。


 登場曲「ザ・ブルーハーツ」の「電光石火」をバックに先頭バッター毛利が打席に向かう。

 俊足毛利対剛腕牧野、しかし牧野が投じた初球にドームは騒めいた。ど真ん中のストレートは158キロを記録。その後も牧野は150キロ台のストレートとキレの良いスライダーやスプリットをコーナーに投げ分けていく。


「今日のアイツは制球力がいいな……」

 牧野は球は速いがコントロールが悪く、調子が良いときと悪いときがハッキリしている。今日は調子が良いことが分かり、今川監督が苦々しく呟いた。

 一番毛利、二番蜂須賀は連続三振、三番の明智も瞬く間にツーストライクに追い込まれると、牧野のウイニングショット、スプリットに空を切らされた。

 圧巻の三者連続三振、牧野が一気に流れをキングダムに引き寄せた。


「両チームとも初回の攻撃は無得点! このまま投手戦となるか!?」

 一回が終わり、実況席も興奮冷めやらない状況だ。


「4番、ファースト渡辺、背番号5」

 二回表、キングダムの攻撃は番長渡辺から始まる。レフトスタンドではキングダムファンが陣取り『セ界のナベさん』と書かれたオレンジ色のタオルを掲げている。

 今季の渡辺は、打率.289、ホームランも35本、打点は130の大台に乗せて、セリーグ打点王トップ、と非常に勝負強い成績を残している。


 渡辺はレフトスタンドからの声援を受け、右バッターボックスに立つと、ベースに近づいてバットを構えた。

 島津VS渡辺……。パリーグ時代から内角攻めで死球を毎年のように当てている因縁の対決だ。両者の睨み合いが続く。


 第一球、島津のストレートが内角を突く。身体に近いコースだ。渡辺は身体を捻って避ける。渡辺は島津を睨むが島津も睨み返す。因縁の対決は、いきなりエンジン全開だ。


 二球目は外角へスライダーでストライク。

 三球目は再び内角へ。渡辺はバットに当ててファール。これでカウントは1-2となる。


 ツーストライクと追い込まれた渡辺は大きく息を吐き出した。

 四球目、再び内角へストレートが飛ぶが、今度は顔面近くのストレート。渡辺は地面に倒れ込んだ。


「あ……危ないですね、あのピッチャー、ナベさんの内角をあんなに攻めて……アメリカならとっくに乱闘ですよ」

 キングダムベンチで伊達が中西に話しかけた。

「ナベさんは外角に強いから、どうしても内角攻めが多くなるよな。今シーズンも死球はセリーグトップだ」

 中西は腕組みをしながらそう呟く。


 対する渡辺はユニフォームに付いた泥を払うと、再びベースに近づきバットを構えた。

「ま、また、あんなにベースに近づいて……」

 伊達が驚きながら言葉を発した。

「伊達……分かるか? なぜナベさんがあんなにデッドボールを食らいながらも、ベース近くに立ち続ける理由が……」

「わ、分かりませんよ……」

「強烈なプライドだよ。『ここで引くわけにはいかない』っていうな。だから、何度デッドボールを食らっても、あの立ち位置は絶対に変えない」

「な、何でそんな意地を……?」

「なあ伊達、なぜナベさんがキングダムの四番に座ってると思う?」

「え……? 分かりません。だって成績だけみれば、中西さんのほうが上ですよね?」

「ああ、だが、この打席を見れば、なぜあの人がキングダムの四番に座っているか分かるぜ」

 中西は微かに笑みを浮かべた。


 一方の島津はキャッチャー藤堂からのサインを確認し、頷いていた。

(「エサ」は撒いた……これで終わりだ……!)

 島津は振りかぶり五球目を投じた。ボールは外角低めに飛んでいく。

 ボールはストライクゾーンに入っている。しかも渡辺の得意な外角だ。渡辺はグッと踏み込みスイングを開始した。しかし……。


 外角に投げられたボールは真下に落ちた。島津が投じたのはフォークボールだった。それも外角低めからボールになるフォークボール。

(決まった!)

 バットは届かない。島津とキャッチャーの藤堂が空振り三振を確信した。その時だった。


 カキ──ン!

 渡辺のバットが一閃し、フォークを捉えた。

 渡辺は島津のフォークを読み切っていた。その証拠にバットの軌道はややアッパースイング気味でフォークの落ち際を叩いていた。

 打球は鋭い弾道でライトに一直線に飛んだ。


 驚いた顔で打球を振り返る島津。ボールはグングンと伸びていき、ライトスタンド、レジスタンス応援席の最前列に突き刺さった。

 待望の先制点を叩き出したのは、キングダム主砲、四番渡辺のひと振りだった。


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