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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第11章 史上最大の決戦編
181/207

第181話「決戦の10.7」③

 午後5時55分、試合開始5分前、レジスタンスの選手たちが守備に就く時間が近づいてきた。

 普通であればアナウンスに導かれ、選手たちがグラウンドに飛び出していくのだが、この日は優勝決定戦にふさわしく、通常とは違う特別な演出が用意されていた。


「おお、そろそろ始まるな! この試合のために、凝った演出を考えてくれたみたいだな!」

「はい、テンション上がる演出になってますよ!」

 ベンチ内では、今川監督と広報部に復帰した由紀が楽しげに話している。


 観客席の九割はレジスタンスのストライプのユニフォームを羽織ったファンで占められていて、キングダムファンはレフトスタンドの一部に陣取っている。

 ドームは収容人数いっぱいの五万人が入り、満員御礼。世紀の決戦を前にファンたちがドームに駆けつけていた


「す、すごい人だよ……怖いよ──!」

 ビビリの毛利は満員のスタンドを見てブルブルと震えた。

「何、言っとんじゃ! しっかりせい!」

 黒田が発破をかける。

「そうだぞ、トップバッター、頼むぜ」

 北条が笑いながら声を掛ける。するとドームの明かりが一部消えた。


「レジスタンスドームにお集まりの皆さま!」

 続いてアナウンスが響く。

「只今より、大阪レジスタンス対東京キングダムとの最終戦を行います!」


「ウオオオオ!」

 スタンドから大歓声が響き、オーロラビジョンに19年前の映像が流れ出した。場所は当時の本拠地である甲子園。映像はその時、優勝を決めたときのものだった。

「おっ、懐かしいな。俺も柴田さんもいるぜ」

 今川監督が懐かしそうに映像を見入る。

「自分はまだ入団前です」

 隣で北条が微笑む。


「最後にレジスタンスが優勝したのは19年前……不遇の時間を過ごして来たファンの皆さま、お待たせしました。遂にこの日がやってきました!」

 アナウンスとともに、次は今季の激闘のシーンが流れだした。

「今日勝てば、19年振りの優勝が決まります!」

 選手や観客全員がバックスクリーンを見つめる。ブルペンでもネネをはじめとした投手陣たち全員が同じくモニターを見た。

「試合に先立ち、この試合に臨むレジスタンスのメンバーの紹介を行います! 皆様、大歓声で守備に就く選手たちを出迎えてください!」


 球場内に派手な音楽が鳴り響いた。それは「スターウォーズ」のテーマソングだった。

 そして、オーロラビジョンに「1」の数字が映し出された。


「1番、センター、毛利! 背番号53」

「オラ、行ってこい! 切り込み隊長!」

 黒田に背中を叩かれ、毛利がベンチを飛び出す。グラウンドに足を踏み入れた瞬間、毛利の戦闘スイッチが入った。

「おう!」

 ダッシュでセンターに走り出す。毛利は目下、セリーグの盗塁王だ。スタンドから声援が飛ぶ。

「待ってました! スピードスター!」

「今日も走ったれよ!」


「2番、セカンド、蜂須賀! 背番号4」

「じゃあ、行ってくるぜ」

「ああ」

 蜂須賀は二遊間のコンビを組む盟友明智とグータッチを交わすと、セカンドのポジションに走った。蜂須賀の守備力は高く、今季は守備の名手に送られるゴールデングラブ賞の最右翼だ。

「今日も華麗な守備を頼むぞ!」

「お前と明智の二遊間は鉄壁だ!」

 毛利に負けず劣らず声援が飛ぶ。


「3番、ショート、明智! 背番号6」

「明智さん、頑張って──!」

「ナニワのプリンス」と書かれたタオルを持った女性ファンの黄色い声援が響く。

「明智、頼むぞ」

 黒田が声を掛けると、明智はにっこり笑い、グラウンドに飛び出した。


「4番、サード、織田! 背番号31」

「織田──! 今日こそは頼むぞ──!」

「ぶちかましたれ! ゴールデンルーキー!」

 老若男女問わず大声援が飛び交う中、ベンチから勇次郎が飛び出していく。

 現時点での勇次郎の打率は.334で首位打者、打点は99、ホームランは29本と、ルーキーらしからぬ堂々とした成績だ。


「5番、ライト、斎藤! 背番号7」

 内なる闘志を秘めた斎藤がライトに走る。今季はホームランを24本放っている。

「誠くん、ガンバレー!」

 高校のチームメイトである沖田夫妻も一塁側スタンドで応援している。


「6番、レフト、浅野! 背番号8」

 存在感は薄いが、二年前のドラフト一位選手。何気に全試合に出続けている縁の下の力持ちだ。声援を受けてレフトに走っていく。


「7番、ファースト、仙石! 背番号9」

 黒田の代わりにファーストに入る中堅選手、内外野守れるユーティリティプレイヤーで、意外性ある一発が武器だ。


「8番、キャッチャー、藤堂! 背番号2」

 北条と双璧を成す、もうひとりのキャッチャー。強肩で頼れる存在だ。

「頼むぞ、藤堂」

 北条が声をかける。

「はい!」


 ピッチャーを除く、八人の選手がグラウンドに集結した。次はいよいよ先発ピッチャーの登場だ。


「おい、緊張してないか? この大一番で」

 北条が茶化すように島津に声を掛けた。

「誰に言ってんだよ、オッサン」

 島津は笑いながら言い返す。


「そして……この大一番に先発マウンドに上がるのは……9番、ピッチャー、島津! 背番号29」

「ワアアアア!」 

 スタンドから大歓声が響く。


「よし、行ってこい! 島津!」

 今川監督が声を掛けると、島津はベンチを出る前にチラッと監督を見た。

「お? どうした?」

「……ありがとうございます」

「あん?」

「パイレーツであんなことをしでかした俺をアンタは拾ってくれた。本当に感謝しています」

 島津はそう言うと、帽子を目深に被りマウンドに走っていった。

「はっはっは、今日は素直だねえ」

 今川監督はワハハと笑った。


「島津──! ガンバレ──!」

 観客が声援を送る中、一塁側スタンドでは恩師の深見先生は両手を組んで祈っていた。

(栄作くん、頑張って……)


「島津、頑張れよ!」

 ブルペンの投手陣たちも島津に声援を送っていた。そして、杉山コーチの指示が飛ぶ。

「さあ! 島津は3回までだ! 全員肩を作れ! 今日は総力戦だ!」

「はい!」


 スターティングメンバー全員がグラウンドに立つと、最後に今川監督がバックスクリーンに映った。

「大阪レジスタンスを率いる監督は……『闘将』今川猛!」

「ワアアアア!」

 観客の声援に応えるように今川監督はベンチを出ると帽子を取った。


 島津は真っさらなマウンドで投球練習をしている。時計の針は午後6時を指そうとしている。

 いよいよ優勝決定戦が始まろうとしていた。






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