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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第10章 不死鳥編
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第178話「嵐の行方」後編

「し、新幹線が運休だと!?」

「は、はい……午後には復旧するみたいですが……」


 10月6日の日曜日、早朝の東京駅でキングダム鬼塚監督とマネージャーが話していた。

 台風15号は昨晩、日本列島を西から東に横断するはずだったのだが、非常に速度が遅く、まだ関東には上陸しておらず、東海道新幹線にも影響が出て、東京─名古屋間が運休となっていた。


「な、なら、飛行機は……?」

「台風の影響で、飛行機も朝の便は全て欠航……また午後の便も飛ぶかどうか未定です……」

「じゃあ、大阪への移動手段は……?」

「は、はい……今のところ大型バスしか……ただ今から手配すると、出発は早くて昼頃です……」


(な……何てこった……)

 鬼塚監督は愕然とした。敵地大阪への移動ができないのだ。

(これでは今日のゲーム……午後6時の試合に間に合わない……)


「ねえ聖子、このままだと大阪まで行けないってこと?」

 改札口前でサンドイッチをムシャムシャ食べながら、伊達美波が成瀬に問いかけた。

「うん……そうみたい」

「そうなると、どうなるの?」

「そうね……最悪、主力選手だけ、タクシーに分乗して大阪に向かうかだね……」

「それなら、試合を延期すればいいのに。そしたらネネも投げれるのにね」

 サンドイッチを食べ終えた伊達はスポーツ新聞を広げた。そこには小さく「レジスタンス二軍優勝、羽柴寧々、雨天コールドながら六回をパーフェクトピッチング」という記事が載っていた。

「ネネが一軍に上がれるのは明日から。ていうことは今日のゲームが延期になれば、またネネと対戦できるよ」

 伊達はニコニコしながら新聞に写るネネを見つめた。


 そんな中、マネージャーの元に球団本社から電話が入った。電話の内容を聞いたマネージャーはすぐに鬼塚監督に代わった。

「はい鬼塚です。え? ええ!? 本当ですか!?」

 いつもクールな監督が珍しく大声を上げた。


 そして、同時刻の朝、ぐっすり眠っていたネネは由紀からの電話で目が覚めた。

「も……もしもし……」

 まだ半分夢の中のネネが電話に出ると、電話の向こうで由紀が叫んだ。

「ネネ! 延期だよ!」

「な、何が?」

「今日のレジスタンスとキングダムの試合! 延期だって!」

「え! ええ!?」


 ネネはすぐに飛び起きて着替えると、由紀の車に乗り、レジスタンスドームに向かった。監督室に向かうと今川監督がいた。

「か、監督……延期って……?」

「おう、台風の影響でキングダムの連中、東京から大阪へ移動できなかったみたいでな。向こうから打診があったんだ。今日の試合延期できないかってよ」

「そうなんですか……」

「そしたら、たまたま明日一日だけドームのスケジュールが空いてたんだ。だからキングダムとの試合は明日に延期だ」

「じゃ、じゃあ、それって……?」

 由紀がそう言うと、今川監督はニヤリと笑った。

「そう、明日お前を一軍に上げる。昨日投げているから、先発はないが後ろで投げてもらう」

「ね、ネネ──!」

 由紀はネネの両手を握った。


(う、ウソ……? ま、まさか、こんなことが……!?)

 ネネは呆然としていた。今季はもう一軍で投げることはないと思っていた。だが、再びリベンジのチャンスが訪れたのだ。


「昨日もご苦労だったな」

 今川監督がスポーツ新聞を机の上に置いた。その一面はレジスタンス勝利の記事だが、二面には「羽柴寧々、二軍を優勝に導くパーフェクトピッチング」とネネを讃え、雨の中、ストロベリーを三振に仕留めたネネの写真が載っていた。


 実はこの写真は藤崎が撮ってくれた写真だった。

 由紀の父が教えてくれた。昨日、藤崎は報酬はいらないから、とレジスタンス贔屓の新聞社に写真を持ち込んだという。


(ネネはやっぱり凄い……ネネのことをあれだけ恨んでいた藤崎をファンにしてしまったのだから……)

 由紀は改めてネネのことを感心しながら、あることを思いだした。

 藤崎は言っていた。ネネのスクープが握り潰された、ということを。

 またそれだけでない。父によると、他の週刊誌もネネを叩く記事を用意していたが、目に見えない力が働き、握り潰されたという。

 由紀はネネを見つめた。

(ネネ……もしかして、あなたのバックにはとんでもない大物がいるの?)

 だが、ネネは由紀の視線に気付かず、ニコニコと笑みを浮かべていた。


 監督室を出たネネは、すぐにでも身体を動かしたい、と言いタクシーで二軍練習場に向かった。

 由紀はネネを手を振って見送ると、すぐ後ろに勇次郎がいることに気付いた。


「何があったんですか、アイツ……元気になってますけど……」

 珍しく勇次郎がネネの心配をしていた。

「色々あったのよ、アンタには関係ないけど」

 ネネに暴言を吐いたことを知っているので、由紀は勇次郎に冷たい視線を浴びせた。

「ネネから話は全部聞いたわ。アンタの気持ちも分かるけど、傷ついてるネネに言う言葉じゃないわね」

 立ち去ろうとする由紀だったが、勇次郎が呼び止めてきた。

「あ……浅井さん……実はそのことで、ちょっと相談がありまして……」

「は?」

 由紀は足を止めた。


「は? はああああ? ネネに謝りたいけど、何て謝っていいか分からない!?」

 勇次郎はコクリと頷いた。

(ほ、本当に小学生かよ、この男……?)

 由紀は心底呆れた。

「そんなのねえ……ネネの目を見て、しっかり言うのよ『この前はゴメン、悪かった』って」

「……それで許してもらえますか?」

「し、知らないわよ、そんなの!」

 勇次郎は困った顔をしている。


(はあ……)

 由紀はため息をついた。

「そもそもねえ、前にも聞いたけど、アンタ、ネネのこと本当はどう思ってるのよ? 謝る謝らない以前にそこが大事な問題じゃない?」

 勇次郎は無言だ。

「言っとくけど、ネネはもうアンタのことなんてアウトオブ眼中よ。明日の試合で投げて、優勝して、明里ちゃんとの約束を守る。それしか考えてないわよ」

「明里ちゃん?」

「あ、ああ……まあ、とにかく色々あったのよ。それより中途半端な気持ちのままなら、これ以上、ネネの心をかき乱さないでよね」

 由紀が腰に手を当てて勇次郎を見つめると、勇次郎は再びうつむいていた。その姿はまるで雨に打たれ、しょぼくれている大型犬のようだった。


(……ったく、この男は)

 由紀は勇次郎を見つめた。

「ねえ、そんなに悩んでいるなら、ネネに自分の本当の気持ちを伝えなさいよ。例え、どんな答えが返ってこようが」

 由紀の言葉に勇次郎はしばし黙っていたが、やがて「わ、分かりました」と言うと、クルッと踵を返し、その場を去っていった。


 そんな勇次郎の姿に由紀は驚いた。

(あ、あれ? 珍しく素直じゃない……てか、あの男、まさか本当にネネに告るつもりじゃあ……)


 台風が過ぎた後の大阪の空は青く澄み渡り、秋の涼しい風が吹いていた。

 由紀は空を見上げた。


 明日は優勝を賭けた一戦が始まる。ただそれだけでない、ネネと勇次郎の関係も何か変わるような予感がした。




 これにて、第十章「不死鳥編」完、となります。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

 さて次回、第十一章は「史上最大の決戦編」になります。

 面白い! と思ってくれたり、続きを読みたい! と思ってくれたら、ブックマークや評価等をしてもらえると励みになりますので、よろしくお願いします。

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