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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第10章 不死鳥編
177/207

第177話「嵐の行方」中編

 横浜メッツ戦が終わると、レジスタンスナインはその日の内に新幹線に飛び乗った。明日、レジスタンスドームでキングダムとの最終戦が行われるからだ。


 しかし、レジスタンスナインは疲弊していた。特に投手陣はほぼ壊滅状態……先発の柱、前田と大谷は今日のゲームで投げてしまい、明日の先発は厳しい状況、また他のピッチャーもほぼ全員つぎ込んでしまっていた。

 そんな中、新幹線に乗り込んだ今川監督はスマホを見て大声を上げた。


「おお! 雨天コールドで二軍が優勝したぞ!」

 その朗報は疲れ切っていた選手たちの士気を上げた。

「監督! 先発のネネはどうでしたか!?」

 黒田が今川監督に尋ねる。

「ちょっと待て……おっ! 六回をパーフェクト! 勝ち投手だ!」

 その知らせを聞いた選手たちから再び歓声が上がった。


「すごいですね、監督……」

 杉山コーチも驚いている。少し前まではボロボロだったネネが不死鳥の如く蘇り、二軍とはいえ強力アスレチックス打線をパーフェクトに抑え、優勝に導いたことに。

「ああ、羽柴寧々、完全復活だ。だが、そうなると、明日アイツいないのはキツいな……」

 そう……ネネが一軍に戻れるのは、最短で明後日の10月7日。明日の試合には間に合わないのだ。

「台風が近づいてるし、明日のゲームが雨天中止になれば、ネネも間に合うのに……」

 毛利が悲しそうに呟く。

「何言ってんだ? ドームの試合がどうしたら雨天中止になるんだよ」

 島津が呆れたように答える。

「……それにキングダムが今日負けないと、明日の試合は何の意味もない消化試合だぜ」

 毛利はスマホで速報を見た。キングダム対ファルコンズ戦は、児嶋の同点ホームランが飛び出し、1対1のまま延長戦に入っていた。


 新幹線は大阪に向かって走る。勇次郎は雨粒が当たる窓の外を見ていた。

 今日は三安打の猛打賞、打率トップのファルコンズ岡本がノーヒットのため、打率は逆転して首位打者になっていた。

 外は陽が落ちかけていて、真っ黒な雲が流れていた。


 そして、神宮球場にはナイターが点灯。試合は12回に突入していた。

「あ──あ、今日はもう出番はないから、つまんないなあ」

 伊達がベンチで大きく伸びをした。本日、三打席ノーヒットのため、四打席目で交代していた。

「今日は児嶋さんにやられた日ね」

 成瀬が声を掛ける。伊達は児嶋に徹底的に変化球で攻められ、完璧に封じ込められていた。

「嫌いよ、あの陰湿なリード」

 伊達は口を尖らせた。


 そんな伊達を見た成瀬はある心配をしていた。それは児嶋のリードが伊達の弱点を炙りだしていたことだ。

 伊達はストレートには滅法強いが、その代わり変化球に弱い。児嶋はその弱点を突いた見事なリードを見せていた。

 今季のゲームが残り一試合というのは幸運だった。なぜなら今日の児嶋のリードを他球団が参考にしてたら、今後、伊達は完璧に抑えられてしまうからだ。

(危なかった……このオフは徹底的に鍛え直さないと……)

 成瀬は不満そうな顔をする伊達を見つめた。


 そうこうしている内にキングダム12回表の攻撃が終わった。

 スコアは1対1のまま。延長は12回までのため、仮にこのまま引き分けでもキングダムは優勝だ。しかし、キングダム鬼塚監督は最悪のケースを考えていた。

(今日優勝が決まれば、明日のレジスタンス戦は消化試合になる。そうなれば明日は控え選手をメインに大阪に乗り込む。これが一番良いパターンだ……だが、もし今日負けると、明日は疲れ切っている選手たちを大阪に送り込まないといけない)


 鬼塚監督はチラッと腕時計を見た。

(この時間だと、もう今日の移動は無理だな) 

 マネージャーを呼び、明日の早朝の新幹線のチケットの確認を頼む。

(明日の試合は夜6時から。午前中に移動できれば試合に支障はないはずだ……)

 そんな思惑の中、12回裏ファルコンズの攻撃が始まった。


 ……一方、場面は変わり、新幹線の車内。

 レジスタンスナインが疲れて眠りにつく中、北条だけは目が冴えて、先程のことを思い出していた。それは別れた妻と再会したことだ。更に北条は衝撃的な事実を知らされていた。

 萌音が亡くなった後、妻とは不仲になり別れたのだが、その時、妻は身籠もっていたのだ。

 そして、神奈川の実家に戻ったあと、妻はひとりの男の子を産んだ。それが先程会った少年だった。名前は「達也」といった。

 妻はずっと北条の復活を待っていたと言い、可能であれば、また一緒に暮らしたいと言われた。

 北条は息子である達也の顔を思い出していた。子供の頃の自分によく似ていた。

(息子か……)

 妻の隣にいた達也は恥ずかしさのあまり、もじもじしていた。

(萌音……お前の弟だってよ)

 北条はクスッと笑うと真っ暗な窓の外を見た。


 新幹線が名古屋に差し掛かる頃、台風が進路を変えて、日本列島を沿うように移動するとニュースが伝えていた。

 そして、車内に毛利の声が響き渡った。

「ファ……ファルコンズが勝った!」

 その声に全員が飛び起きた。

 延長12回裏、若き主砲ベーブ西田のサヨナラヒットが飛び出し、ファルコンズがサヨナラ勝ちを決めていた。

 これで、レジスタンスとキングダムはお互い直接対決を一試合残した状態で勝率が並んだ。それはつまり……。


「明日の試合で勝ったほうが優勝だ!」

 今川監督が大声を出した。

「ウオオオオ!」

 まさかの展開に新幹線の車内に選手たちの歓声が響き渡った。


 その頃、敗れたキングダムの選手たちは、疲れ切った身体を引きずり帰路についていた。

 目の前にぶら下がっていた優勝はなくなった。そのため明日のレジスタンス戦は世にも珍しい優勝決定戦になるが、午前中に移動して午後6時のゲームに備えないといけない。

 だが、今日延長12回を戦い、ピッチャーもかなりつぎ込んだ。明日はタフな戦いになるはずだ。

 鬼塚監督はできるだけ選手たちに疲労を抜くよう指示を出した。

 

 誰もが明日の試合に向け、コンディションの維持に務めていた。明日優勝が決まる試合が行なわれると信じていた。


 ……しかし、その日の夜、関西に上陸した台風15号は予想を遥かに超えるゆっくりした速度で関東に進んでいた。



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