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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第10章 不死鳥編
173/207

第173話「明里の手紙」

「バカヤロー!」

 宇喜田明里の家を訪問した翌日、レジスタンスドーム監督室で今川監督のカミナリがネネと由紀に落ちた。

「社会人だろうが! 連絡のひとつくらいしろ! あと浅井! お前もだ!」

「す……すいません……」

 直立不動で小言を聞いていたふたりは頭を下げた。


「……ったく、広報部にはよく言っといた。羽柴寧々はまだまだ未熟だから、お目付役が必要だってな」

「え……? それって……?」

 由紀が今川監督を見つめる。

「浅井、お前の親父に感謝しろよ。部長が上層部をかなり説得してくれたみたいだからな」

 ネネと由紀は顔を見合わせた。

「このじゃじゃ馬の面倒を改めて頼むぞ」

 今川監督の言葉に、ネネと由紀の顔がパァッと輝いた。

「由紀さん!」

「ネネ──!」

 ふたりは手を取り合った。


「……ったく、そうと分かったら、早く二軍練習場に行け!」

 今川監督は手をひらひらと振った。

「はい! 監督、ありがとうございます!」

 ふたりは笑顔で部屋を飛び出していった。

(全く……)

 今川監督は苦笑いをしながら、今度は内線の電話をかけた。


「ネネ、大丈夫? 一緒に行こうか?」

 由紀の運転でネネは二軍練習場に着いた。

「ううん、子供じゃないんだから、ひとりで大丈夫だよ」

 ネネは笑顔で手を振ると、練習場に駆け出して行った。


(さてと……)

 由紀はネネが練習場に入っていくのを見届けると、後部座席に置いてある封筒を手に取った。


 それから一時間後、由紀は大阪市内の喫茶店にいた。腕時計で時間を確認すると、目の前に席に痩せたメガネの男が座った。

「何の用だ? こんなところに呼び出して?」

 その男はパパラッチの藤崎だった。

 由紀はニッコリ笑うと「あなたに渡したいものがあるの。宇喜多明里ちゃんからの手紙よ」とバッグから手紙を出した。

『宇喜田明里』という言葉に藤崎の顔が強張った。

「あなた、婿養子だから名字が違ったのね」

 だが由紀の言葉を無視して藤崎は「どこで知ったよ? 明里が俺の娘だって……」と言葉を発した。

「昨日、奥さんのところに行ったの。ネネと一緒にね」

 由紀がそう話すと藤崎のメガネの奥の目が光った。

「な……何だと……!? よりによって、羽柴寧々を明里の元へ連れていっただと……!?」

「ええ……仏壇に手を合わさせてもらったわ……」


 ガン!

 藤崎は怒りに満ちた目でテーブルに拳を叩きつけた。周りの客が由紀たちを見たが、由紀は構わず話を続けた。

「あなたがネネを目の敵にしてるのは、明里ちゃんが原因なのね……」

 藤崎の目は血走り、荒い息をしている。

「ネネのピッチングを見た明里ちゃんはネネから勇気をもらい手術に挑んだ……でも、亡くなってしまった……あなたはそのことでネネを恨んでいるのね……」

 藤崎は目の前の水を一気に飲み干して言葉を発した。

「そうだ……羽柴寧々さえいなければ、明里は手術なんてしなかった……明里は死ななかった!」

「ネネも昨日言ってたわ……明里ちゃんが手術をして亡くなったのは自分のせいだって……」

「その通りだよ……羽柴寧々……アイツが全部悪いんだ。アイツがプロ野球選手にさえならなかったら、明里は死なずにすんだんだ!」


「……いいえ、それは違うわ」

 由紀はピシャリと言い放った。

「な、何い!?」

「明里ちゃんは自分の意思で手術を受けたの……亡くなってしまったことは悲しく思うけど、でもそれをネネのせいにするのは間違ってるわ」

「何だと!?」

「それに……あなたの奥さんも言ってたわ……明里ちゃんはいつ亡くなってもおかしくないくらい心臓の状態は悪かったって……それが手術を受けれるまで体力が回復したのは、ネネのピッチングに元気をもらっていたからだって……」

「だ……黙れ、黙れ、黙れ! お前に明里の何が分かる!?」


 スッ……。

 由紀は藤崎の前に封筒を差し出した。そこには「お父さんへ」と書かれていた。

「何だ、これは……?」

「明里ちゃんが手術前日にあなたに宛てて書いた手紙よ……あなたの奥さんから託されたの」

「な……何だと!?」

 藤崎は慌てて封筒を開けて、手紙を取り出した。

「ま……間違いない……明里の字だ……」

 藤崎は震える手で夢中で手紙を読んだ。そして、見る見るうちに顔色が青ざめていった。


「そ……そんなバカな……? あ、明里……お前は……!?」

「私も中身を見させてもらったわ……分かる? 全部あなたの逆恨みなのよ……ネネは何一つ悪くないのよ……」

「あ……あ……あ……」

 藤崎は手紙を握りしめて固まった。眼鏡の奥には涙が浮かんでいた。


 その姿を見て、由紀はバッグからチケットを出した。それはレジスタンス二軍戦のチケットだった。

「あなたにあげるわ。この日……多分、ネネが投げるから」

「な……なぜ俺に?」

「あなた、野球をしているネネを見たことがないでしょう? 一度、見てみたら?」

 由紀はレシートを持って席を立った。

「明里ちゃんが、なぜネネのピッチングに惹かれたか分かるはずだわ……」

 由紀は立ち去り、藤崎は手紙を前に呆然としていた。


 そして、その頃……レジスタンスドームでは、今川監督に連れられて、勇次郎がミーティングルームに向かっていた。

 部屋に入ると、そこには明智が座っていた。

「か、監督……これは?」

 戸惑う勇次郎に今川監督は口を開いた。

「俺は席を外すから腹割って話せよ。お前らウジウジと腹の中に溜め込んでるからダメなんだよ」


 明智と勇次郎はテーブルを挟んで向かい合った。


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