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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第10章 不死鳥編
165/207

第165話「キングダムドームでの悪夢」前編

「今日から一軍に合流します。よろしくお願いします。あと……色々とご迷惑をかけて、申し訳ございませんでした」

 キングダム戦、試合前のミーティングにて、ネネは皆の前で深々と頭を下げた。

 明智との事件以来、皆と会うのは久しぶりで、ネネはかなり緊張していたが、すぐに選手たちに囲まれた。


「久しぶりだな」

「ネネ、大丈夫だった?」

 北条や毛利……選手たちが笑顔で話しかけてくる。どんな反応をしていいか分からなかったが、皆の優しさに触れ、ネネはまぶたの裏が熱くなるのを感じた。


「ネネ……」

 そんなネネに明智が近づいてきた。

「本当に……本当に悪かった。俺のせいでお前を辛い目に合わせて……」

 明智は深々と頭を下げてきた。


「本当だ。お前が全部悪い」

 すると、いつの間にか明智の後ろに黒田が立っていて明智の頭を叩いた。肋骨を骨折して戦線離脱してた黒田だったが、状態もよくなり昨日から一軍に合流していた。

「ああ、黒田さんの言う通り、お前が全部悪い」

「全くだ。反省して坊主にするとかしたらどうだ?」

 続いて斎藤と北条も明智の頭を小突いた。その光景を見てネネは笑みを浮かべた。


(そうだ……もう周りのことは気にしない……チームのことだけ考えて投げるんだ)

 ネネは気合いを入れ直した。その時、部屋の片隅でポツンとしている勇次郎の姿が目に入った。


「……勇次郎」

 ネネは勇次郎の後ろに立った。

「久しぶりだね。色々迷惑かけたけど、今日から戻ってきたから、またよろしくね」

 ネネは笑顔で話しかけたが、勇次郎は振り向かなかった。その代わりにボソッと呟いた。


「……すんな」

「え?」

「……邪魔すんな、集中したいんだ」

「あ……ご、ごめんね……」

 ネネはその場を離れた。勇次郎は一度もネネと顔を合わせてくれなかった。


「……かなり修羅場だったんだよ」

 その後、ブルペンで前田がレジスタンスの現況を教えてくれた。

「ネネと明智くんの記事が出た後、明智くんが皆の前で謝ったんだ……それで、その後……」


「おう、勇次郎」

 前田の説明だと、更衣室で明智が勇次郎に個別に謝ったという。

「新聞には色々書いてあるけど、俺とネネの間には何もないからな。安心しろよ」

 明智は笑いながら勇次郎の肩に手を乗せた。だが、その手を勇次郎は振り払った。

「お……?」

「別に……俺には関係ないことですから」

 勇次郎は明智の方を見ずに無愛想に言い放った。

「そ、そうか……もしかしたら、お前が気にしてるかと思ったんだが、それなら余計なお節介だったな」

 明智は苦笑いした。

「……ええ、お節介ですよ」

 すると、勇次郎は明智に冷たい視線を投げかけた。

「何……?」

「俺のことを気にする余裕があるなら、もっとチームのことを気にしてください。どれだけチームに迷惑かけたと思ってるんですか?」

「な、何だとテメエ!」

 明智が勇次郎の胸ぐらをつかみ、ロッカールームは一時騒然となった。


「それ以来、ふたりは口もきかないくらい険悪になっちゃって……」

「そ、そんなことがあったの……?」

 前田から事のいきさつを聞いたネネは絶句した。

「レジスタンス……今、かなりヤバい状態だよ。投手陣も壊滅状態で杉山コーチが四苦八苦している……」


 抑えの島津はもう少しで復帰の目処が立ちそうだが、先発ローテーションを担う朝倉と松永のふたりは、肩とヒジの痛みを訴えて二軍で調整中。また他の投手陣も疲労困憊だという。


「ご、ごめんね……私があんなことになって戦列から離れたから……」

 ネネは改めて自分がチームに多大な迷惑をかけたことを痛感し、前田に謝った。

「い、いや違うよ! ネネが悪いんじゃないよ!」

 悲しそうな顔を見せるネネを前田は必死でフォローした。

 今川監督もピッチャーが足りないことは充分承知している。だからこそ、このキングダム三連戦の一戦目の先発は前田、二戦目は大谷の必勝ローテを組んで、一気に優勝を勝ち取ろうと目論んでいた。


 そして午後六時、試合が始まった。

 レジスタンス先発の前田は強力キングダム打線相手に八回を五安打無失点の好投みせる。

 前田の好投に応えたレジスタンスは試合中盤に、毛利、蜂須賀のヒットで一点を先制。その後、三好が中継ぎを務め、1対0のスコアのまま、九回裏のキングダムの攻撃を迎えた。


「レジスタンス、ピッチャー交代のお知らせです。三好に代わりまして羽柴寧々、背番号41」


 キングダムドームに抑えとしてネネの名前がコールされると、観客席にいた由紀はマウンドに向かうネネを見つめた。

(ネネ……!)

 久しぶりに見たネネは心なしか少し痩せて見えた。

(……ネネ、頑張って)

 由紀は心の中でエールを送った。


 ネネがマウンドに上がると観客席から一斉に野次とブーイングが飛んだ。

「あんな事件起こしておきながら、よく戻って来れたな!?」

「どこまで面の皮が厚いんだ! 恥ずかしくないのかよ!」

「引退しろ! お前みたいなヤツが神聖なマウンドに上がるな!」


 ネネはそんな酷い野次に耐えていた。そして、マウンドに来たキャッチャーの藤堂とサインの確認をする。この試合、北条は腰痛のためスタメンを外れていた。


「……それにしても酷い野次とブーイングね。敵ながら可哀想だわ、羽柴さんが」

 キングダムベンチではスタンドからの聞くに耐えない野次に成瀬が辟易していた。

「ははっ、本当ね。でもまあ、あっちの野次も相当なモンだから」

『あっち』とはアメリカのことだ。伊達はアメリカの3Aにいたからヤジの耐性が強い。そういうところも踏まえてタフな女性だ。成瀬は伊達のことを非常に頼もしく感じた。


「さ、じゃあ、ネネを打ち砕いてくるよ」

 そう言うと、伊達はトレードマークの長尺バットを手に取った。

 キングダム最終回の攻撃は四番渡辺から。本日、伊達は五番に入っているから、この回は打順が回ってくる。


 一方のレジスタンスベンチでは、今川監督と杉山コーチが並んで戦況を見つめていた。

「……正直、ネネの調子は本調子ではありませんが、ネネが復活するには、コレしかないと思っています」

 杉山コーチが心配そうに呟く。

「ああ……」

 今川監督はそう言うとグラウンドを見つめた。


「東京キングダム、四番ファースト渡辺、背番号5」

 九回裏キングダム最後の攻撃、四番の渡辺が打席に入るのが見え、ネネの最大の試練が始まろうとしていた。


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