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ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第10章 不死鳥編
162/207

第162話「スキャンダル」

「え……えええええ──! キスされたあ──!?」

 食事会の翌日、由紀の運転でレジスタンスドームに向かうネネは昨日の明智との件を打ち明けた。

「う……うん……」

「何、考えてんのよ! あの男は──!」

 ハンドルを握る由紀は怒り心頭だ。


「そ、それでネネ……明智さんから何か言い寄られたの!?」

「う、ううん……そういうことは特に……明智さん酔ってたから、多分、勢いだったと思う……」

 ネネは昨日のことを思い出して、自分の唇に指を触れた?

「勢い!? 何よそれ──!?」

 由紀の怒りは止まらない。

「あ、ネネ。もしかして貴女、キスは……初めて……とか……?」

 その問いにネネは真っ赤になってうつむいた。

「な……何それ!? 絶対に許せないわ!」

「ちょ、ちょっと、由紀さん、恥ずかしいから止めて──!」


 車内でそんなやり取りがあり、ネネをレジスタンスドームに送り届けると由紀は球団事務所に向かった。


「おはようございます」

 由紀が広報部のフロアに入ると、電話が鳴り響いていた。

(ん? なんだろう……?)

 すると、先輩の女子職員が由紀の机にバン! と新聞を叩きつけた。

「浅井さん……あの女……羽柴寧々、とんでもないことをしてくれたわね!」

「え?」

「貴女の監督不行き届きよ! どう責任取るつもりなの!?」

「え? え?」

 由紀はワケが分からず、父である浅井部長を見たが、浅井部長もハンカチで汗を拭いながら電話対応をしていた。

「い、一体、何が……?」

「これを見てみなさいよ!」

 女性職員は新聞を由紀に突きつけた。それはゴシップ記事で有名な「関西スポルツ」という新聞紙で、その一面を見た由紀は青ざめた。


 一方のレジスタンスドーム。ネネが選手通用口からドームに入ると、杉山コーチが待ち構えていた。

「あ……コーチ、おはようございます」

 ネネが挨拶をすると、杉山コーチは「ネネ、監督が呼んでいる。一緒に監督室に行くぞ」と冷淡な声で言った。

(監督が? 何だろう?)

 ネネは杉山コーチと一緒に監督室に向かった。


「杉山です、ネネを連れてきました」

 監督室に入ると、今川監督、岩田コーチ、そして、明智がいた。


(え……? 何で明智さんがいるの……?)

 昨日の出来事を思い出し、ネネの顔色が変わった。

 すると、今川監督は苦虫を噛み潰したような顔で「関西スポルツ」をネネに手渡した。

「見てみろ」

(何だろう?)

 ネネは新聞の一面を見た。そして、心臓が止まるくらい驚いた。


 その一面には『羽柴寧々、熱愛発覚。チームメイトの明智選手と愛の抱擁』という見出しで、ふたりのキスの写真が載っていた。


(な……何で昨日の写真が!? 何で! 何で!?)

 ネネはパニックで頭が真っ白になった。


「どうやら、お互い自覚してるみたいだな」

 今川監督は腕を組んで、明智とネネを睨んだ。

「球団本社には説明を求める電話やメールが殺到しているらしく、広報部はパニックに陥っているみたいだ」

(広報部……? ゆ、由紀さん……!)

 ネネは由紀のことを思い、顔面が蒼白になった。

「言いたいことがあれば言え」

 今川監督は怒りを抑えながら口を開いた。


「ネネは……」

 沈黙していた明智が口を開いた。

「……ネネは悪くありません。俺が酔った勢いでキスをしました。それと……俺とネネの間には男女の関係はありません」

 明智は今川監督を見据えて、しっかりと話した。


「そうか……」

 今川監督はネネをチラリと見た、ネネは青ざめている。

「おい、ネネ」

 今川監督の呼びかけにネネは顔を上げた。

「お前は今日は帰れ。今後のことは追って連絡する」

 今川監督にそう言われ、ネネはフラフラと部屋を出た。そして、先程の今川監督の言葉を思い出した。

『球団本社には説明を求める電話やメールが殺到しているらしく、広報部はパニックに陥っているみたいだ』

(ゆ、由紀さん……!)

 ネネは急いでタクシー乗り場に走った。


 一方、監督室では、今川監督が立ち上がり明智に近づいていた。

「お前とネネの間には恋愛感情はなく、キスは酔った勢い、ってことだな……」

「……はい」

 今川監督は明智の肩に手を置くと笑い声を上げた。

「ハハッ、酔った勢いか。俺も若い頃はよくあったなあ」


 バキッ!

 しかし、次の瞬間、今川監督の右ストレートが明智の顔面を捉え、明智は後ろに吹っ飛んだ。

「ちょ……! 監督!」

 杉山、岩田コーチが監督を止めた。倒れた明智は顔を押さえている。


「ふざけんじゃねえぞ! 酒のせいにすんじゃねえ! テメェの軽率な行動がどれだけチームに迷惑をかけたか分かってんのか!?」

 明智は黙ってうつむいている。

「ネネはどうなる!? 今回の件はマスコミや世間が飛びつく絶好のネタだ!」

 今川監督は拳を握りしめた。明智はその場にうずくまったままだった。


 その頃、ネネは球団本社にタクシーで到着していた。タクシーを降りると玄関入り口に向かった。するとそこには、カメラマンや新聞記者にレポーター、テレビカメラたちが待ち構えていた。


「あ! 羽柴選手、ちょっといいですか? 今日の新聞記事のことなんですけど!」

 女子アナがマイクを向けてきた、ネネの周りを記者たちが取り囲む。

「関係者の話によると、明智選手と交際していると聞きましたが事実なんでしょうか!?」


(え……? 何それ……?)

 ネネは呆然とする。

「ち、違います……私……明智さんとは何もありません……」

 ネネは言葉を絞り出した。

「何もないことはないでしょう! こうして証拠写真もあるんですよ!」

 意地悪そうな記者がネネと明智のキス写真が載っている新聞をネネの前に突き出した。

「ち……違う……違います……」

「どうなんですか? 羽柴選手! 真剣なお付き合いなんですか? ねえ! 答えてくださいよ!」

 いつもニコニコしながらインタビューをしてくる記者たちが、悪意と好奇心の目でネネを攻撃してくる。そのあまりの豹変振りにネネは恐ろしくなり、その場に固まった。

(やだ……何コレ……助けて……誰か助けて……)

 その時だ──。


「何、やってんのよ、アンタたち!」

 玄関から大声が聞こえた。由紀の声だった。

「ゆ、由紀さん!」

 ネネはマスコミをかきわけて由紀の元に走った。

「大の大人がよってたかって、女の子をいじめてんじゃないわよ!」

 由紀はネネの手を取り、マスコミの輪から離れさせた。


「あ……羽柴選手、質問に答えてください!」

「そうですよ! しっかり説明する義務が貴女にはあるんですよ!」


「うるさい! ちゃんと広報を通しなさい!」

 由紀はマスコミにそう言い放つと、ネネ抱き抱えるようにして車の助手席に乗せ、車を発進させた。


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