表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジングキャット★ベースボール  作者: 鈴木涼介
第9章 新たなるライバル編
159/207

第159話「大乱闘レジスタンスドーム」

 頭部にデッドボールを喰らった黒田は倒れ込んだまま動かなかった。

 流石にキャッチャーの立浪もマズイと思ったのか顔面は蒼白。

 またマウンド上の今井に至っては、気を失ってもおかしくないくらいの表情を見せていた。


「た、退場──!」

 審判が今井に退場を命じた。

 しかし、今川監督の怒りは消えない。ベンチから飛び出すと、立浪の胸ぐらを掴んだ。

「テメエ! やってくれたな!」

「ちょ……ちょっと待ってください! 今のは完全に逆球ですよ!」

「うるせえ! ウチの選手に何さらしとんじゃ!」

 今川監督は完全に頭に血が上っていて、立浪にヘッドロックをかけると地面に叩きつけた。


 更に両軍ベンチから選手たちが飛び出し、そこらで小競り合いが始まった。

 そんな光景をブルペンからモニターで見ていた島津は大興奮だ。

「乱闘かよ!? よっしゃ、俺が行くまで待ってろよ!」

 グラウンドに向かおうとするので、ネネが慌てて島津のユニフォームを掴んで止めた。

「ちょ……ちょっと! 何やってんのよ!? 行ったらダメだってば──!」


「お、お前も退場だ──!」

 グラウンドでは審判から今川監督に退場宣告が下されていた。今川監督は皆に引き離され、立浪は首を押さえてゲホゲホと咳き込んでいる。


 そんな中、レジスタンスナインはデッドボールを受けた黒田を見た。黒田は立ち上がっていたが、ボールが当たった頭ではなく脇腹を押さえていた。

「く、黒田さん……?」

 明智が声を掛けるが、黒田はうめきながら、脇腹にスプレーをかけていた。

 オーロラビジョンに先程のリプレイが流れた。頭部にデッドボールを喰らった黒田はその場に倒れ込んだのだが、その際に身体と地面の間にバットが挟まり、脇腹を強打していた。


「だ、大丈夫ですか? 黒田さん……」

 明智が声をかける。

「ちょっと……まずいかもしれん……」

 黒田は苦痛で顔を歪めている。頭部死球より脇腹の方がダメージが大きいみたいだ。

「明智……レジスタンスを頼んだぞ……」

 黒田はトレーナーに付き添われ、ベンチに下がっていった。


 そして、今川監督が退場を宣告されたため、この後の試合の指揮は岩田打撃コーチが執ることになった。

 黒田には代走が送られ、ツーアウト一、二塁の状況でゲームが始まり、バッターボックスには六番斎藤が立った。


「隼人……」

 ベンチで蜂須賀が明智に声をかけた。

「今川監督に黒田さんもいない。ここは正念場だな……」

「ああ、今日は絶対に勝たないといけないゲームだ。ここを落としたら、レジスタンスはズルズルと失速する」

 明智は真剣な顔でグラウンドを見つめた。


 しかし、結局、この回斎藤は三振に倒れ、得点は奪えなかった。

 そして、八回は両チーム無得点のままで、スコアは変わらず2対1。レジスタンス1点リードでのまま九回表、エンゼルス最後の攻撃を迎えた。


 レジスタンス九回表のマウンドには、クローザーの島津が上がった。

 だが、この日島津は制球が定まらない。ツーアウトを取ったが四球が続き、ランナーは一、二塁になってしまう。

 一打同点のピンチに広島エンゼルスは代打デービスを送ってきた。来日一年目の一発のあるパワーヒッターだ。


 キャッチャーの北条がサインを送る。

(内角へのストレートだ)

 島津がセットポジションから第一球を投じた。


 バシッ!

 バッターの顔面近くにストレートが決まった。大袈裟に避けるほどではないが、少し危ない球だった。

 島津は顔色変えずにキャッチャーからボールを受け取った。その時だ。


 デービスがヘルメットを叩きつけ、怒りの形相でマウンドの島津に何かを叫んだ。どうやら島津の球を報復行為とみなしたみたいだった。

「何だテメエ!?」

 島津も応戦する、その態度にデービスはキレて、マウンドへ走っていった

「ま、まずい!」

 キャッチャーの北条が止めに走るが、それより早くデービスは島津に殴りかかった。

「上等だよ、やってやんぜ!」


 バキッ!

 マウンド上でふたりの拳が交わった。お互いが手を出し、クロスカウンターのような形になった。


 すぐに北条がデービスを押さえ、黒田の代わりにファーストに入っている斎藤が島津を抱き抱えた。また両軍ベンツから、選手たちがグラウンドになだれ込んだ。


 ブルペンでモニターを見ていたネネは青ざめた。

(い、今、殴ってたよね……栄作、大丈夫……?)

 ネネは咄嗟にベンチへ走った。


 グラウンドは再び大乱闘が始まった。審判団は総動員で乱闘を収める。

「た、退場だ、退場──!」

 先に暴力を振るったデービスが退場処分となった。

「し、島津! 大丈夫か!?」

 殴られてフラフラしている島津に杉山コーチが駆け寄った。

「ヘッ、舐められてたまるかよ……一発入れてやったぜ」

 島津は口元から血を流し、右手で握り拳を作ると杉山コーチに見せた。その右手を見た杉山は青ざめた。

「お……お前、まさか利き腕で殴ったのか……?」

「あ……ああ……咄嗟に出ちまった……」

 島津の右手は真っ赤に腫れ上がっていた。


 島津が杉山コーチに付き添われ、ベンチに戻ると、ネネが不安そうな顔で島津を見ていた。

「ヘッ、悪い、やっちまった」

 島津は笑いながら、ネネに右手を見せた。真っ赤に腫れ上がった島津の手を見たネネは思わず、両手で口を押さえた。


「ば……バカ……何で利き手で殴るのよ……」

 ネネは泣き出しそうな顔で島津を見上げた。

「ああ……しまったな。あとワンアウトだったのによ」

 島津はネネから顔を背けた。

「そ……そういう問題じゃないわよ! 選手生命を失うかもしれないのよ!?」

 ネネは大声を上げた。それを見て島津は事の重大性に気付いた。

「わ、悪い……」

「バカ……バカよ、本当に……」

 ネネはうつむいて両拳を握った。


「島津、病院に行くぞ」

 杉山コーチの問いかけにうなずくと、島津は何も言わずにネネの肩をポンポンと叩くと、ベンチ裏に消えていった。


「杉山コーチ……」

 今川監督代行の岩田打撃コーチが話しかけてきた。

「島津の代わりを……どうします?」

 そう、まだ試合は終わっていない。九回表、ツーアウトながら、ランナー、一、二塁の状況は続いているのだ。

「そうだな……念のために三好が肩を作っているから、すぐに準備させる」


「あ……あの、杉山コーチ……」

 ネネが杉山に話しかけた。

「どうした?」

「私……少し投げればすぐに肩は作れます」

「バカ言え……お前は待機だ。肩も充分に作ってないのに投げさせるわけにはいかん」

 そう言うと、杉山コーチはブルペンに電話をかけた。


 そして、島津の代わりには元抑えの三好が上がった。対するバッターはデービスの代打谷村、しかし、ストライクが入らず、フォアボールで満塁になる。


 続くバッターは一番バッター、セカンド服部。だが、ここでもストライクが入らない……。

 カウントはスリーボールとなり、運命の四球目は無情にもボール。

 レジスタンスドームは悲鳴と怒号に包まれた。ここにきて押し出しで2対2の同点に追いつかれてしまった。三好はマウンドで顔面蒼白。


 なおもツーアウト満塁は続き、バッターは二番サード原田を迎えた。大卒二年目の24歳、時期エンゼルスの主軸を担うバッターと言われ、今季はホームランを15本打っている。背番号は8。


(どうする……?)

 レジスタンスベンチで岩田コーチは頭を抱えた。

(今川監督なら……どうする?)

 岩田コーチは杉山コーチと顔を見合わせた。

 この試合はあまりにデッドボールから始まり、様々な事件が起こりすぎた。選手たちの動揺も激しく、もしこの試合に負けたとしたら、今後の戦いに悪影響を及ぼすのは明確だった。本来なら、ここでピッチャーを代えて流れを変えなくてはいけない。


(だが、今のレジスタンスに、この場面で投げることができるタフなピッチャーなんているのか……?)

 杉山コーチは腕組みをしたまま思案した。その時だ──。


「杉山コーチ、肩は作ってます。指示を出してください」

 背後から声がしたので、杉山コーチは振り返った。

 そこには覚悟を決めた目をしたネネが立っていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ